六つの能力
手引は「学習障害とは、このうちの一又は複数について著しい困難を示す状態を指す」としたうえで、六つを一つずつ説明しています。そのまま引きます。
| 能力 | 手引の説明 |
| ア 聞く能力 | 他人の話を正しく聞き取って理解すること |
| イ 話す能力 | 伝えたいことを相手に伝わるように的確に話すこと |
| ウ 読む能力 | 文章を正確に読み、理解すること |
| エ 書く能力 | 文字を正確に書くこと。筋道立てて文章を作成すること |
| オ 計算する能力 | 暗算や筆算をすること。数の概念を理解すること |
| カ 推論する能力 | 事実を基に結果を予測したり、結果から原因を推し量ったりすること |
🔴 「読み書き」だけではありません
学習障害というと読み書きの話だと受け取られがちですが、手引が挙げているのは
六つです。
そして最初の二つ——
聞く能力・話す能力——は
話しことばの領域です(→
ことばの理解について)。
米国言語聴覚協会(ASHA)も
「話しことばの障害のある子どもは、読むことと書くことの習得に困難を抱えることが多い」としています。
読み書きの心配は、話しことばの側からも見る価値があります。
六つのうち、どこに困難が出ているかによって、呼び方が使い分けられることがあります(→ディスレクシアとは?/書字の困難とは?/算数の困難とは?)。
🔴🔴 手引が書いている「見えにくさ」
手引より(そのまま)
「学習障害は、障害そのものの社会的な認知が十分でなく、また、一部の能力の習得と使用のみに困難を示すものであるため、『単に学習が遅れている』あるいは『本人の努力不足によるもの』とみなされてしまったり、子供自身が周囲に気付かれないようにカモフラージュしたりするなどの状況から、障害の存在が見逃されやすい。」
🔴「子供自身が周囲に気付かれないようにカモフラージュしたり」——国の文書が、本人が隠していることがあると書いています。
だから、成績だけでは見えません
手引は、状態の把握にあたって
「国語、算数(数学)等の基礎的能力に著しいアンバランスがあること」を見るとしています。
——
全体の点数ではなく、ばらつきです。
「全体的にできない」ではなく
「ここだけ極端にできない」という形で現れます。
手引はまた
「学年が進行すると、全般的な学力不振や低学力、怠学といった状態に表面的には見えてしまうこともある」とも書いています。
🔴 知的障害とは重ならない、と手引にあります
「なお、学習障害の場合、他の障害や環境的要因が直接的な原因でないことを確認することが必要であり、知的障害とは重複しない点に留意する必要がある。」——定義の冒頭が
「全般的に知的発達に遅れはないが」で始まっているためです(→
知的障害とは?)。
法律と制度での位置づけ
| 法令 | 書かれ方 |
| 発達障害者支援法 第2条第1項 | 「発達障害」の中に「学習障害」が名指しで挙げられています |
| 同 第2条第2項 | 🔴「発達障害者」=「発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるもの」 |
| 学校教育法施行規則 第140条 | 通級による指導の対象八区分の第6号「学習障害者」として明記 |
| 学校教育法 第81条第2項 | 特別支援学級の六区分に名前はなく、第6号「その他」に含まれます |
🔴 通級の授業時数だけ、扱いが違います
文部科学省の手引によれば、通級による指導の年間の授業時数は
おおむね35〜280単位時間が標準ですが——
第6号(学習障害)と第7号(注意欠陥多動性障害)だけ「10〜280単位時間」と、下限が低く定められています。
また手引は、通級について🔴
「単なる各教科の遅れを補充するための指導とはならないようにしなければなりません」と明記しています。
——
通級は、補習ではありません。
🔴 教科書と教材は、法律で代えられます
ここは、意外と知られていないところです。
学校教育法 第34条第3項(要点)
「……
視覚障害、発達障害その他の文部科学大臣の定める事由により教科用図書を使用して学習することが困難な児童に対し、
文字、図形等の拡大又は音声への変換その他の方法で指導することにより
学習上の困難の程度を低減させる必要があると認められるときは、……
教育課程の全部又は一部において、教科用図書に代えて当該教材を使用することができる。」
この「事由」を定める学校教育法施行規則 第56条の5第3項に🔴
「視覚障害、発達障害その他の障害」と明記されています。
さらに教科書バリアフリー法 第7条の見出しは「発達障害等のある児童及び生徒が使用する教科用特定図書等に関する調査研究等の推進」で、同法 第9条は学校に対して「必要な配慮をしなければならない」としています。
文部科学省の音声教材は、原則として無償で提供されるとされています(→ICTを活用した学びの支援とは?/読み書きが苦手なとき)。
🔴 二次的な障害について、手引が書いていること
手引より
「学習障害のある子供の場合、学習に対する不全感や対人関係及び生活面でのストレス等によって、情緒が不安定になったり自尊感情が低下したりするなどして、不安やうつ症状等を伴う二次的な障害につながるケースもある。」「学習場面への参加の困難さを感じることが多く、また本人は努力していても周囲にはそれが認められにくい場合もあることから、その結果として、不登校や心身症などの二次的な障害を起こす場合がある。」
🔴「本人は努力していても周囲にはそれが認められにくい」——これが、この障害の中心にある難しさとして書かれています(→二次障害とは?)。
手引が挙げている防ぎ方
「このような状態を防ぐためにも、通常の学級における各教科等の指導と通級による指導との関連を図り、日頃から教師間の連携に努めるとともに、通常の学級における必要な支援と環境調整を行うことが重要である。」——
通級だけで完結させない、と書かれています。
通常の学級での支援と環境調整が並んで挙げられています。
学校に伝えるとき
配慮の提供は、法律上本人・保護者の側から言い出したときに始まります(障害者差別解消法 第7条第2項・第8条第2項=「その旨の意思の表明があった場合において」)。
- どの教科の、どの作業で止まるか——「音読」「板書写し」「文章題」「漢字の書き取り」など、六つの能力のどれに近いかを意識して
- どこまではできているか——手引が見るのはばらつきです。できていることも一緒に
- 家庭で試して合った方法——読み上げ、拡大、書く量を減らす、写真で記録するなど
- 教科書に代わる教材の相談——学校教育法 第34条第3項と音声教材のこと
- いつ見直すか——「一学期試して面談で見直す」と期限を添える
🔴 「がんばれば書ける量」を基準にしない
手引は
「本人は努力していても周囲にはそれが認められにくい」と書いています。
——
できた/できないの記録より、どれだけの労力でそこに至ったかのほうが伝わることがあります。
「宿題に何分かかったか」「終わったあとどうなっていたか」は、解釈をつけずに書き留められる事実です。
この記事で書かないこと
診断基準・チェックリスト・評価の設問一覧は書きません。手引はそれらを、専門家チームや校内委員会などの体制の中で用いるものとしています。
指導法や教材の効果も書きません。効果がないという意味ではなく、ここでは判断しないという意味です。
「どのくらいできなければ学習障害か」も書きません。手引が見るとしているのは基礎的能力の著しいアンバランスであり、点数の線ではありません。
書けるのは、国の手引と法令が何と書いているかと、使える制度がどこにあるかまでです。
どこに相談すればいいか
| 相談先 | 何のため |
| 学校(担任・特別支援教育コーディネーター) | 困っている作業の共有、配慮、通級の相談。まずここが入口です |
| 市区町村教育委員会 | 通級による指導、音声教材・拡大教科書等の申請 |
| 小児科・児童精神科など | 診断に関する判断。療育は医療ではありません |
| 言語聴覚士のいる機関 | 「聞く」「話す」の側から。話しことばの困難は読み書きのリスクを高めるとされています |
| 発達障害者支援センター | 発達障害者支援法 第14条。年齢で切られず、家族その他の関係者も相談できます |
| 親の会・ペアレントメンター | 同じ立場の人とつながる |
※本記事は一般的な情報提供です。診断に関する判断は医師などの専門機関にご相談ください。療育は医療ではありません。
出典
※上記の出典は2026年9月5日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。
よくあるご質問
学習障害は、読み書きの困難のことですか?
それだけではありません。国の手引が挙げているのは聞く・話す・読む・書く・計算する・推論するの六つで、そのうちの一つないし複数に著しい困難を示す状態とされています。
「全般的に知的発達に遅れはないが」とは、どういう意味ですか?
定義の冒頭にある条件です。手引はさらに
「学習障害の場合……知的障害とは重複しない点に留意する必要がある」と明記しています(→
知的障害とは?)。
成績はそれほど悪くないのですが
手引が見るとしているのは「国語、算数(数学)等の基礎的能力に著しいアンバランスがあること」です。全体の点数ではなく、ばらつきです。手引は「子供自身が周囲に気付かれないようにカモフラージュしたりする」ことも見逃されやすさの理由として挙げています。
「努力不足」と言われてしまいます
国の手引が、まさにその言葉を引用しています——「『単に学習が遅れている』あるいは『本人の努力不足によるもの』とみなされてしまったり……障害の存在が見逃されやすい」。そして「本人は努力していても周囲にはそれが認められにくい」とも書いています。
教科書を、読み上げてもらうことはできますか?
学校教育法 第34条第3項は、文部科学大臣の定める事由により教科書で学習することが困難な児童に対し、音声への変換等の方法により教育課程の全部又は一部において教科書に代えて教材を使用できるとしています。その事由には省令に「発達障害」が明記されています。
音声教材は有料ですか?
文部科学省は原則として無償で提供するとしています。申請の方法は学校または市区町村教育委員会にご確認ください。
通級では、遅れている教科の補習をしてもらえますか?
文部科学省の手引は
「単なる各教科の遅れを補充するための指導とはならないようにしなければなりません」と明記しています。
通級は補習ではありません(→
通級による指導とは?)。
通級の時間は、どのくらいですか?
手引によれば標準は年間おおむね35〜280単位時間ですが、第6号(学習障害)と第7号(注意欠陥多動性障害)だけは「10〜280単位時間」と下限が低く定められています。
読み書きの心配ですが、ことばの相談もしたほうがよいですか?
六つの能力のうち
最初の二つは「聞く」「話す」です。米国言語聴覚協会(ASHA)も
「話しことばの障害のある子どもは、読むことと書くことの習得に困難を抱えることが多い」としています。
言語聴覚士への相談は、診断の有無にかかわらず法律上できます。
二次障害が心配です
手引は「学習に対する不全感や対人関係及び生活面でのストレス等によって……不安やうつ症状等を伴う二次的な障害につながるケースもある」とし、防ぎ方として「通常の学級における必要な支援と環境調整を行うこと」を通級との連携と並べて挙げています。
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。
お子さまのこと、専門スタッフに相談してみませんか
のびのび発達ラボを運営する児童発達支援てらぴぁぽけっと早稲田教室(東京都新宿区・早稲田駅徒歩1分)には、言語聴覚士・公認心理師・精神保健福祉士・保育士など多職種の専門スタッフが在籍しています。見学・ご相談は、診断の有無に関わらず承ります。