国の手引の「書く能力」は、二つのことを言っています
手引より
「エ 書く能力——文字を正確に書くこと。筋道立てて文章を作成すること。」——
二つ並んでいます。①
文字そのものを書くことと、②
文章を組み立てること。
この二つは、別々に困難が出ることがあります。
学習障害の定義は「聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する」のうち「一つないし複数の特定の能力」に著しい困難を示す状態とされています(→学習障害(LD)とは?)。
🔴 「読めるのに書けない」ことがある理由
ASHAは、綴りと読みの関係についてこう書いています——
「綴りと(それを支える)言語の領域は相互に結びついている。この相互の結びつきは、ある人が読むことには長けていても、綴りや書くことには困難を抱えうる理由を説明するのにも役立つ」——
読めているから書けるはず、とはならないと学会が明記しています。
🔴🔴 ASHAが書いている「手書き」の中身
ASHA「Written Language Disorders」より
「手書きの困難は、子どもが語を書いて綴る力、考えを書いて十分に表す力、書く課題を時間内に終える力に影響しうる。」「発達性の手書きの困難は、正書法的コーディング(orthographic coding)の困難と関連している。これは、文字の抽象的な表象を、語を書くときに使う運動の動きへと対応づけることを含む」(McCloskey & Rapp, 2017)
🔴🔴 だから、こう続きます
「しかしながら、手書きは運動の技能だけではない。それは書きことばの技能でもあり、適切な場合には、手書きの指導は読みと書きの指導と統合されうる。」——
「もっと練習すれば書ける」でも「手先の問題だから仕方ない」でもない、という書き方になっています。
「時間内に終える力」に影響する、とも書かれています。書けるかどうかだけでなく、どれだけの時間と労力がかかるかも困難のあらわれ方として記述されています。
🔴🔴 「疑われる場合」にも配慮を、と書かれています
ASHAより(そのまま)
「その子どもや青年が手書きの障害を診断されている場合、または疑われる場合には、評価の場面と指導の場面で配慮を提供することが重要である。」🔴
「診断されている場合、または疑われる場合には」——診断を配慮の条件にしていません。
ASHAが例として挙げている配慮
「作業療法士に、事例ごとに相談して適切な配慮を助言してもらうことができる(例:キーボードの使用を認めること、代筆する人をつけること)。」——
キーボードと
代筆が、学会の文書に例示として書かれています(→
ICTを活用した学びの支援とは?)。
日本でも、配慮の提供は障害者差別解消法 第7条第2項・第8条第2項により「その旨の意思の表明があった場合において」始まります。そして同法 第2条第1号の「障害者」の定義は「障害及び社会的障壁により継続的に……相当な制限を受ける状態にあるもの」で、診断や手帳を要件としていません(→合理的配慮とは?)。
🔴 評価の場面での配慮も含まれます
ASHAは
「評価の場面と指導の場面で」と書いています。
——
テストや検査のときの配慮も、指導の配慮と並べて挙げられています。
「時間を延ばす」「解答の書き方を変える」といった相談は、この記述に沿ったものです。
関わる職種が複数いる、と書かれています
ASHAは、書きことばの障害の評価と支援には職種をまたいだ実践が伴うことが多いとし、チームに含まれうる職種を挙げています。
- 読みの専門家
- 🔴作業療法士(手書きの配慮について、事例ごとに相談できるとされています)
- 特別支援教育の教員
- 学習の専門家
- 理学療法士
- 🔴言語聴覚士(読みと書きの障害の診断・評価・治療に直接の役割を果たすとされています)
- 第二言語としての英語の教員
日本での相談先に置き換えると
・書く姿勢・道具・手の使い方→
作業療法士・文字と音の結びつき/文章の組み立て→
言語聴覚士・授業での配慮・教材→
担任・特別支援教育コーディネーター——
「どちらか一方」ではありません。ASHAは
「手書きは運動の技能だけではない」と書いています。
見えにくさと、二次的な障害
手引より(学習障害の章)
「学習障害は、障害そのものの社会的な認知が十分でなく、また、一部の能力の習得と使用のみに困難を示すものであるため、『単に学習が遅れている』あるいは『本人の努力不足によるもの』とみなされてしまったり、子供自身が周囲に気付かれないようにカモフラージュしたりするなどの状況から、障害の存在が見逃されやすい。」
書くことは、「がんばれば書ける」ように見えてしまう領域です。手引はこうも書いています——「学習場面への参加の困難さを感じることが多く、また本人は努力していても周囲にはそれが認められにくい場合もあることから、その結果として、不登校や心身症などの二次的な障害を起こす場合がある」(→二次障害とは?)。
🔴 記録するとよいこと
できた/できないよりも、
そこに至るまでの時間と労力のほうが伝わることがあります。
・
宿題に何分かかったか・
終わったあと、どうなっていたか・
写す量が減ったときは、どうだったか・
口で言えることと、書けることに差があるかASHAも、手書きの困難が
「書く課題を時間内に終える力」に影響しうると書いています。
学校に伝えるとき
- ①文字を書くことと②文章を組み立てることのどちらで止まるかを分けて伝える(手引の「書く能力」は二つに分かれています)
- 口で言えるかどうかを確かめる——話せるのに書けないのか、そもそも内容が浮かばないのかで、手立てが変わります
- 時間と労力を記録する——「何分かかったか」「終わったあとどうなっていたか」
- 試したい配慮を具体的に挙げる——書く量を減らす、写真で記録する、キーボード、時間の延長、解答の書き方
- いつ見直すか——「一学期試して面談で見直す」と期限を添える
🔴 「書けるようになってから」を条件にしない
ASHAは
「診断されている場合、または疑われる場合には、評価の場面と指導の場面で配慮を提供することが重要である」としています。
——
書く力が伸びるまで待つという書き方ではありません。
そして同時に、
「手書きの指導は読みと書きの指導と統合されうる」とも書かれています。
配慮と指導は、どちらかではありません。
この記事で書かないこと
診断基準・チェックリストは書きません。診断は医師が行うものであり、また一覧を先に読むと日々の様子が項目の当てはめとして見えてしまうためです。
「何歳でどんな字が書けるか」の目安も書きません。日本語の文字の習得について、確認できた一次情報に年齢ごとの目安がないためです。
練習法・教材・訓練の効果も書きません。効果がないという意味ではなく、ここでは判断しないという意味です。
書けるのは、ASHAと国の手引と法令が何と書いているかまでです。
どこに相談すればいいか
| 相談先 | 何のため |
| 学校(担任・特別支援教育コーディネーター) | 書く量、時間、道具、評価の場面での配慮。まずここが入口です |
| 作業療法士 | ASHAは、手書きの配慮について作業療法士に事例ごとに相談できるとしています |
| 言語聴覚士 | 文字と音の結びつき、文章の組み立て。手書きは書きことばの技能でもあるとASHAは書いています |
| 眼科 | 🔴見え方を先に確かめる。手立てを考える前にできることです |
| 市区町村教育委員会 | 通級による指導、教材の相談 |
| 小児科・児童精神科など | 診断に関する判断。療育は医療ではありません |
※本記事は一般的な情報提供です。診断に関する判断は医師などの専門機関にご相談ください。療育は医療ではありません。
出典
※上記の出典は2026年9月5日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。
よくあるご質問
「ディスグラフィア」は日本の制度にある言葉ですか?
ありません。e-Gov法令検索で全法令を横断して調べても該当がなく、文部科学省の手引にも出てきません(2026年9月5日確認)。制度が使っているのは「学習障害」の中の「書く能力」という枠です。
「書く能力」とは、字を書くことですか?
国の手引は二つ並べています——「文字を正確に書くこと。筋道立てて文章を作成すること。」この二つは、別々に困難が出ることがあります。
手先が不器用なだけではないでしょうか?
ASHAは「しかしながら、手書きは運動の技能だけではない。それは書きことばの技能でもある」と明記し、発達性の手書きの困難が正書法的コーディング(文字の抽象的な表象を、書くときの運動の動きへ対応づけること)の困難と関連するとしています(McCloskey & Rapp, 2017)。
読めるのに書けないのは、どういうことですか?
ASHAは、綴りと言語領域の相互の結びつきが「ある人が読むことには長けていても、綴りや書くことには困難を抱えうる理由」を説明するのに役立つとしています(Apel, 2009)。読めているから書けるはず、とはなりません。
診断がないと、配慮はしてもらえませんか?
ASHAは「診断されている場合、または疑われる場合には、評価の場面と指導の場面で配慮を提供することが重要である」としています。日本でも障害者差別解消法 第2条第1号の「障害者」の定義は診断や手帳を要件としていません。
どんな配慮がありますか?
ASHAが例として挙げているのは「キーボードの使用を認めること」「代筆する人をつけること」で、作業療法士に事例ごとに相談して助言してもらえるとしています。実際にどこまでできるかは、学校とのご相談になります。
テストのときの配慮も相談できますか?
ASHAは「評価の場面と指導の場面で」配慮を提供することが重要としており、評価の場面が指導と並べて挙げられています。
書く練習はしなくてよいのですか?
ASHAは「適切な場合には、手書きの指導は読みと書きの指導と統合されうる」としています。配慮と指導は、どちらかではありません。ただし具体的な練習法の効果は、この記事では判断しません。
どの職種に相談すればよいですか?
ASHAは読みの専門家・作業療法士・特別支援教育の教員・学習の専門家・理学療法士・言語聴覚士などが関わりうるとしています。書く姿勢や道具は作業療法士、文字と音の結びつきや文章の組み立ては言語聴覚士が窓口になります。
先に確かめておくとよいことはありますか?
見え方です。手立てを考える前に、眼科で確かめておくことができます。
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。
お子さまのこと、専門スタッフに相談してみませんか
のびのび発達ラボを運営する児童発達支援てらぴぁぽけっと早稲田教室(東京都新宿区・早稲田駅徒歩1分)には、言語聴覚士・公認心理師・精神保健福祉士・保育士など多職種の専門スタッフが在籍しています。見学・ご相談は、診断の有無に関わらず承ります。