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📖 用語・基礎知識

算数の困難とは?——国の手引は「計算する能力」と「推論する能力」に分けています

最終更新:2026年9月5日
算数の困難(算数障害・ディスカリキュリアと呼ばれることがあります)

まず、事実を一つ。
e-Gov法令検索で全法令を横断して調べても、「ディスカリキュリア」に該当する条文はありません(2026年9月5日確認)。文部科学省の「障害のある子供の教育支援の手引」にも、この語は出てきません。

制度が使っているのは「学習障害」で、その中の二つの能力にまたがります——

🔴「オ 計算する能力——暗算や筆算をすること。数の概念を理解すること。」
🔴「カ 推論する能力——事実を基に結果を予測したり、結果から原因を推し量ったりすること。」

🔴 「算数ができない」は、一つのことではありません

手引の書き方をたどると、算数でつまずく場面はいくつかの別々の能力にまたがっていることが分かります。

手引の能力(と、手引の説明)算数の場面での現れ方(例)
オ 計算する能力
暗算や筆算をすること。数の概念を理解すること
繰り上がり・繰り下がり、九九、量としての数のイメージ
カ 推論する能力
事実を基に結果を予測したり、結果から原因を推し量ったりすること
文章題で立式にたどりつく、見通しを立てる
ウ 読む能力
文章を正確に読み、理解すること
🔴文章題の「問題文が読めない」という形で出ることがあります
エ 書く能力
文字を正確に書くこと。筋道立てて文章を作成すること
🔴筆算の位がそろわないという形で出ることがあります
🔴 まず分けて見る
「算数ができない」とひとまとめにすると、手立てが選べません。

問題文は読めているか(読み上げると解けるか)
式は立てられるか(式を渡すと計算できるか)
計算そのものはできるか(電卓を使うと進むか)
書く欄の問題ではないか(マス目のある紙だとどうか)

——これは家庭でも確かめられる分け方です。そして、そのまま学校に伝えられる材料になります。

手引も、状態の把握について「国語、算数(数学)等の基礎的能力(聞く、話す、読む、書くことや計算、図形の理解など)における著しいアンバランス」を見るとしています。「図形の理解」も挙げられています。

🔴🔴 米国の法律の定義も、同じ並べ方をしています

米国言語聴覚協会(ASHA)は、書きことばの障害のページで米国の法律における学習障害の定義を引用しています。

Individuals with Disabilities Education Improvement Act of 2004(ASHAによる引用)
「『特異的学習障害』とは、話しことばであれ書きことばであれ、言語を理解すること、または言語を使うことに関わる心理的過程の一つ以上における障害であって、聞く、話す、読む、書く、綴る、または数学的な計算をする能力の不完全さとして現れうるものをいう。」

日本の手引の六つ(聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する)と、並べているものがよく似ています。そして、この定義にはもう一つ大事な特徴があります。

🔴🔴 主語が「言語に関わる心理的過程」です
定義の主語は「言語を理解すること、または言語を使うことに関わる心理的過程」で、そこに「数学的な計算をする」が並べられています。

ASHAは、すぐ後にこう続けています——「学習障害というラベルは、読み書きの学業上の苦戦が特定された時点で使われることがあるが、その根底にある問題が言語障害であることがある(Sun & Wallach, 2014)

——算数のつまずきが、ことばの側から来ていることがあるという読み方が、ここから出てきます(→ことばの理解について)。

🔴 算数そのものについて、書けないこと

ここは、はっきりお伝えしておきます。

確認できた一次情報の範囲
米国言語聴覚協会(ASHA)は、算数の障害そのものを扱っていません。言語聴覚の学会だからです。

日本の文部科学省の手引も、算数について書いているのは「計算する能力」「推論する能力」の一行ずつの説明「図形の理解」を含む基礎的能力のアンバランスまでです。

——だから、この記事には算数の困難の分類も、段階も、指導法も書きません。存在しないという意味ではなく、確かめられた一次情報が手元にないという意味です。

この判断は、このシリーズで一貫している型です。確かめられていないことを書かないことが、確かめたことの信頼を支えると考えているためです。

制度の側で、使えるもの

法令・制度書かれ方
発達障害者支援法 第2条第1項「発達障害」に「学習障害」が明記。同第2項は「発達障害及び社会的障壁により……制限を受けるもの」
学校教育法施行規則 第140条通級による指導第6号「学習障害者」。授業時数は10〜280単位時間
学校教育法 第81条第1項🔴「その他教育上特別の支援を必要とする」幼児児童生徒への教育を「行うものとする」
障害者差別解消法 第7条第2項・第8条第2項合理的配慮は「その旨の意思の表明があった場合において」始まります
学校教育法 第34条第3項教科書に代えて「文字、図形等の拡大又は音声への変換」等の教材を教育課程の全部又は一部で使用できる(事由に省令で「発達障害」が明記)
🔴 文章題は「読み」の配慮が効くことがあります
問題文を読み上げると解ける場合、それは計算の問題ではなく読みの問題かもしれません。

学校教育法 第34条第3項が定める「音声への変換」は、算数の教科書にも及びます。
文部科学省の音声教材原則として無償で提供されるとされています(→ICTを活用した学びの支援とは?)。

また文部科学省の手引は、通級について🔴「単なる各教科の遅れを補充するための指導とはならないようにしなければなりません」と明記しています。通級は算数の補習ではありません(→通級による指導とは?)。

見えにくさと、二次的な障害

手引より(学習障害の章)
「『単に学習が遅れている』あるいは『本人の努力不足によるもの』とみなされてしまったり、子供自身が周囲に気付かれないようにカモフラージュしたりするなどの状況から、障害の存在が見逃されやすい。」

「学年が進行すると、全般的な学力不振や低学力、怠学といった状態に表面的には見えてしまうこともある。」

算数は積み上がる教科です。一か所でつまずくと、その先が続けて分からなくなり、「全部できない」ように見えてしまうことがあります。手引が書いている「表面的には見えてしまう」のは、この形です。

🔴 手引が書いている行き先
「学習に対する不全感や対人関係及び生活面でのストレス等によって、情緒が不安定になったり自尊感情が低下したりするなどして、不安やうつ症状等を伴う二次的な障害につながるケースもある。」

防ぎ方として手引が挙げているのは、通級との連携と並べた「通常の学級における必要な支援と環境調整を行うこと」です(→二次障害とは?)。

学校に伝えるとき

  1. どこで止まるかを分けて伝える——問題文を読む/式を立てる/計算する/書く欄。手引の能力の分け方に沿っています
  2. 試してみた結果を添える——「読み上げたら解けた」「式を渡したら計算できた」「電卓を使うと進んだ」
  3. どこまで戻ると分かるか——積み上がる教科なので、戻る地点が手立てになります
  4. 時間と労力を記録する——「何分かかったか」「終わったあとどうなっていたか」
  5. いつ見直すか——「一学期試して面談で見直す」と期限を添える
🔴 「量を減らす」も配慮の一つです
確認できた一次情報に、算数の指導法の効果はありません。
ただし、こども家庭庁の児童発達支援ガイドラインは支援を行うにあたっての環境として「時間や空間を本人にわかりやすく構造化すること」を支援する側が行うこととして挙げています。

——問題の数、一枚に載せる量、時間の区切り。これらは環境の側で変えられるものです。

この記事で書かないこと

🔴算数の困難の分類・段階・つまずきの一覧は書きません。ASHAは算数の障害を扱っておらず、国の手引の記述も「計算する能力」「推論する能力」の一行ずつまでだからです。存在しないという意味ではなく、確かめられた一次情報が手元にないという意味です。

診断基準・チェックリストも書きません。診断は医師が行うものです。

指導法・教材・訓練の効果も書きません。効果がないという意味ではなく、ここでは判断しないという意味です。

書けるのは、国の手引と法令が何と書いているか米国の法律の定義がどう並べているか、そして使える制度がどこにあるかまでです。

どこに相談すればいいか

相談先何のため
学校(担任・特別支援教育コーディネーター)どこで止まるかの共有、量や時間の配慮、通級の相談。まずここが入口です
市区町村教育委員会通級による指導、音声教材・教材の相談
言語聴覚士のいる機関問題文の理解の側から。米国の法律の定義は、言語に関わる心理的過程の障害として「数学的な計算をする」を並べています
眼科🔴見え方を先に確かめる。手立てを考える前にできることです
小児科・児童精神科など診断に関する判断。療育は医療ではありません
発達障害者支援センター学校との調整に関する相談

※本記事は一般的な情報提供です。診断に関する判断は医師などの専門機関にご相談ください。療育は医療ではありません。

出典

※上記の出典は2026年9月5日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。

よくあるご質問

「ディスカリキュリア」は日本の制度にある言葉ですか?
ありません。e-Gov法令検索で全法令を横断して調べても該当がなく、文部科学省の手引にも出てきません(2026年9月5日確認)。制度が使っているのは「学習障害」で、その中の「計算する能力」と「推論する能力」にまたがります。
この記事に、つまずきの分類は載っていますか?
載せていません。米国言語聴覚協会(ASHA)は算数の障害そのものを扱っておらず、国の手引の記述も一行ずつの説明までだからです。存在しないという意味ではなく、確かめられた一次情報が手元にないという意味です。
「算数ができない」と一言で言われてしまいます
手引の能力の分け方に沿って、まず分けて見ることができます——問題文は読めているか/式は立てられるか/計算そのものはできるか/書く欄の問題ではないか。「読み上げたら解けた」などの結果は、そのまま学校に伝えられる材料になります。
文章題だけができません
手引は「読む能力=文章を正確に読み、理解すること」「推論する能力=事実を基に結果を予測したり……」を別々に挙げています。読み上げると解けるなら、それは読みの側の困難かもしれません(→ディスレクシアとは?)。
算数の教科書も、読み上げてもらえますか?
学校教育法 第34条第3項は教科の別を限定していません。文部科学省の音声教材原則として無償で提供されるとされています。申請の方法は学校または市区町村教育委員会にご確認ください。
計算がことばと関係あるのですか?
米国の法律の定義(ASHAが引用)は、学習障害を「言語を理解すること、または言語を使うことに関わる心理的過程」の障害とし、そこに「数学的な計算をする」を並べています。ASHAは「その根底にある問題が言語障害であることがある」とも書いています。
通級で算数の補習をしてもらえますか?
文部科学省の手引は「単なる各教科の遅れを補充するための指導とはならないようにしなければなりません」と明記しています。通級は補習ではありません。
学年が上がって、全部できなくなってきました
算数は積み上がる教科です。手引も「学年が進行すると、全般的な学力不振や低学力、怠学といった状態に表面的には見えてしまうこともある」と書いています。どこまで戻ると分かるかを確かめることが、手立てにつながります。
宿題の量が多すぎて、毎日つらそうです
こども家庭庁の児童発達支援ガイドラインは、環境として「時間や空間を本人にわかりやすく構造化すること」を支援する側が行うこととして挙げています。問題の数、一枚に載せる量、時間の区切りは環境の側で変えられるものです。合理的配慮は「意思の表明があった場合において」始まります。
どんな教材が効きますか?
この記事では効果を書きません。効果がないという意味ではなく、ここでは判断しないという意味です。
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。

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