日本の制度では「読む能力」の困難
文部科学省の手引は、学習障害を六つの能力で記述しています(→学習障害(LD)とは?)。その三つめが「読む能力」です。
手引より
「ウ 読む能力——文章を正確に読み、理解すること。」そして学習障害の定義は
「全般的に知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論するといった学習に必要な基礎的な能力のうち、一つないし複数の特定の能力についてなかなか習得できなかったり、うまく発揮することができなかったりする……状態」です。
制度上の位置づけは、こうです。
| 法令 | 書かれ方 |
| 発達障害者支援法 第2条第1項 | 「発達障害」に「学習障害」が明記 |
| 学校教育法施行規則 第140条 | 通級による指導の対象八区分の第6号「学習障害者」。授業時数は10〜280単位時間 |
| 学校教育法 第34条第3項 | 🔴教科書に代えて「文字、図形等の拡大又は音声への変換」等の教材を教育課程の全部又は一部で使用できる |
🔴 ASHAが書いている中身
ASHAのWritten Language Disorders(書きことばの障害)のページは、読み書きの困難を細かく分けて記述しています。
用語の対応
ASHAは、書きことばの障害を
読解(reading comprehension)・単語の読み(word reading)・書字における綴り(written spelling)・書いて表すこと(written expression)などに分けたうえで——
「単語を読むことの障害は、ディスレクシアとしても知られる」としています。
——
「読むこと全般」ではなく「単語を読むこと」という限定がついています。
🔴🔴 中核にあるもの
「ディスレクシアの場合、音韻処理の問題が中核的な困難である」(Hogan et al., 2005/Seidenberg, 2017)
音韻とは、ことばを構成する
音の単位のことです。
——だから、読みの心配が
「音」の側から見えることがあります(→
発音がはっきりしないとき)。
ASHAは、困難の現れ方を二つのレベルに分けて記述しています。
| レベル | ASHAが挙げているもの |
| 音・音節・語のレベル | ・語の音韻的および形態的な構造の困難 ・印刷された語や文字の正書法上の表象と安定した結びつきを作ることの困難 ・読みのデコーディング(文字を音に変換すること)と書字における綴りの困難 |
| 文・談話のレベル | ・談話の構成要素を見分けることの困難 ・考えのあいだの関係を表すために統語や結束の仕組みを使うことの困難 ・読解と、学習上の談話(物語・説明)の組み立ての困難 |
読み書きは「言語の一部」として書かれています
ASHAは、書きことばの障害が
話しことばの障害と同じく、五つの言語領域(音韻・形態・統語・意味・語用)のどれか、または組み合わせと、
その言語の綴りの体系(正書法)に関わりうる、としています。
——
読み書きは、目や手だけの問題として書かれていません。
🔴 話しことばの側から見る
手引の六つの能力のうち、最初の二つは「聞く」「話す」でした。これは偶然の並びではありません。
ASHA「Spoken Language Disorders」より
「話しことばの障害のある子どもは、読むことと書くことの習得に困難を抱えることが多い」そのため、ASHAは話しことばの障害の評価と支援に
読み書きを含めるとしています。
だから、読みの心配で言語聴覚士に相談することは、筋の通った選択です。ASHAは、言語聴覚士が「読みと書きの障害——ディスレクシアを含む——の診断・評価・治療において重要で直接的な役割を果たす」としています。
チームで見る
ASHAが挙げている、関わりうる職種——
読みの専門家/作業療法士/特別支援教育の教員/学習の専門家/理学療法士/言語聴覚士/第二言語としての英語の教員——
一つの職種で完結するものとしては書かれていません。
なお、日本では言語聴覚士法 第2条に検査・助言・指導が明記されており、医師の指示が必要な行為は第42条で限定されています。診断がなくても、ことばの相談は法律上できます(→ことばの相談先について)。
🔴 教科書と教材は、法律で代えられます
学校教育法 第34条第3項(要点)
「……
視覚障害、発達障害その他の文部科学大臣の定める事由により教科用図書を使用して学習することが困難な児童に対し、
文字、図形等の拡大又は音声への変換その他の方法で指導することにより
学習上の困難の程度を低減させる必要があると認められるときは、……
教育課程の全部又は一部において、教科用図書に代えて当該教材を使用することができる。」
その「事由」を定める学校教育法施行規則 第56条の5第3項に🔴
「視覚障害、発達障害その他の障害」と明記されています。
一般のデジタル教科書(同条第2項)は「教育課程の一部」までですが、学習の困難がある場合の第3項は「全部又は一部」です。条文が、はっきり分けて書いています。
教科書バリアフリー法
第7条の見出しは
「発達障害等のある児童及び生徒が使用する教科用特定図書等に関する調査研究等の推進」。条文は
「発達障害その他の障害のある児童及び生徒であって……文字、図形等を認識することが困難なもの」としています。
そして第9条は、学校に対して🔴
「必要な配慮をしなければならない」と定めています。
文部科学省の音声教材は原則として無償で提供されるとされています。申請の方法は学校または市区町村教育委員会にご確認ください(→読み書きが苦手なとき/ICTを活用した学びの支援とは?)。
見えにくさと、二次的な障害
手引より(学習障害の章)
「学習障害は、障害そのものの社会的な認知が十分でなく、また、一部の能力の習得と使用のみに困難を示すものであるため、『単に学習が遅れている』あるいは『本人の努力不足によるもの』とみなされてしまったり、子供自身が周囲に気付かれないようにカモフラージュしたりするなどの状況から、障害の存在が見逃されやすい。」
手引が状態の把握で見るとしているのは「国語、算数(数学)等の基礎的能力に著しいアンバランスがあること」——全体の点数ではなく、ばらつきです。
🔴 手引が書いている行き先
「学習場面への参加の困難さを感じることが多く、また本人は努力していても周囲にはそれが認められにくい場合もあることから、その結果として、不登校や心身症などの二次的な障害を起こす場合がある。」防ぎ方として手引が挙げているのは
「通常の学級における必要な支援と環境調整を行うこと」を通級との連携と並べたものです(→
二次障害とは?)。
学校に伝えるとき
配慮の提供は、法律上本人・保護者の側から言い出したときに始まります(障害者差別解消法 第7条第2項・第8条第2項)。
- どの作業で止まるか——「初見の文章の音読」「板書写し」「文章題」「テストの問題文」など、場面を特定して
- どこまではできているか——聞いて理解する力、話す力、内容の理解。ばらつきが手がかりです
- 時間と労力を書き留める——「宿題に何分かかったか」「終わったあとどうなっていたか」
- 家庭で試して合った方法——読み上げ、行を隠す、拡大、書く量を減らすなど
- 教科書に代わる教材の相談——学校教育法 第34条第3項と音声教材のこと
- いつ見直すか——「一学期試して面談で見直す」と期限を添える
🔴 「読めるようになってから」を条件にしない
法律の条文は
「学習上の困難の程度を低減させる必要があると認められるとき」としており、
読む力が伸びるまで待つという書き方をしていません。
読み上げや拡大は、
読む練習の代わりではなく
その教科の内容を学ぶための手立てとして条文に位置づけられています。
この記事で書かないこと
診断基準・チェックリストは書きません。診断は医師が行うものであり、また一覧を先に読むと日々の様子が項目の当てはめとして見えてしまうためです。
指導法・教材・訓練の効果も書きません。効果がないという意味ではなく、ここでは判断しないという意味です。
「何歳までにどこまで読めるか」も書きません。日本語の読みの発達について、確認できた一次情報に年齢ごとの目安がないためです。
書けるのは、ASHAと国の手引と法令が何と書いているかと、使える制度がどこにあるかまでです。
どこに相談すればいいか
| 相談先 | 何のため |
| 学校(担任・特別支援教育コーディネーター) | 困っている作業の共有、配慮、通級、教科書に代わる教材の相談 |
| 市区町村教育委員会 | 通級による指導、音声教材・拡大教科書等の申請 |
| 眼科・耳鼻咽喉科 | 🔴見え方・聞こえ方を先に確かめる。手立てを考える前にできることです |
| 言語聴覚士のいる機関 | ASHAは、言語聴覚士が読み書きの障害の診断・評価・治療に直接の役割を果たすとしています |
| 小児科・児童精神科など | 診断に関する判断。療育は医療ではありません |
| 発達障害者支援センター | 学校との調整に関する相談 |
※本記事は一般的な情報提供です。診断に関する判断は医師などの専門機関にご相談ください。療育は医療ではありません。
出典
※上記の出典は2026年9月5日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。
よくあるご質問
「ディスレクシア」は日本の制度にある言葉ですか?
ありません。e-Gov法令検索で全法令を横断して調べても該当がなく、文部科学省の「障害のある子供の教育支援の手引」にも出てきません(2026年9月5日確認)。制度が使っているのは「学習障害」で、その中の「読む能力」という枠です。
ASHAは、何が中核だと書いていますか?
「ディスレクシアの場合、音韻処理の問題が中核的な困難である」(Hogan et al., 2005/Seidenberg, 2017)としています。音韻とは、ことばを構成する音の単位のことです。
「読むこと全般」の障害ということですか?
ASHAの書き方はもう少し限定的で、「単語を読むことの障害は、ディスレクシアとしても知られる」としています。読解・単語の読み・綴り・書いて表すことは、それぞれ分けて記述されています。
ことばの相談も、したほうがよいですか?
ASHAは「話しことばの障害のある子どもは、読むことと書くことの習得に困難を抱えることが多い」とし、言語聴覚士がディスレクシアを含む読み書きの障害の診断・評価・治療に重要で直接的な役割を果たすとしています。日本では言語聴覚士法 第2条により、診断がなくても相談できます。
教科書を読み上げてもらうことはできますか?
学校教育法 第34条第3項は、文部科学大臣の定める事由により教科書で学習することが困難な児童に対し音声への変換等の方法により教育課程の全部又は一部において教科書に代えて教材を使用できるとしています。その事由には省令に「発達障害」が明記されています。
読めるようになってからでないと、配慮は受けられませんか?
条文はそう書いていません。第34条第3項の条件は「学習上の困難の程度を低減させる必要があると認められるとき」で、読む力が伸びるまで待つという書き方ではありません。読み上げや拡大はその教科の内容を学ぶための手立てとして位置づけられています。
音声教材は有料ですか?
文部科学省は原則として無償で提供するとしています。申請の方法は学校または市区町村教育委員会にご確認ください。
成績が極端に悪いわけではありません
手引が状態の把握で見るとしているのは「国語、算数(数学)等の基礎的能力に著しいアンバランスがあること」——全体の点数ではなく、ばらつきです。手引は「子供自身が周囲に気付かれないようにカモフラージュしたりする」ことも見逃されやすさの理由に挙げています。
どんな訓練が効きますか?
この記事では効果を書きません。効果がないという意味ではなく、ここでは判断しないという意味です。実施する専門職とご相談ください。
先に確かめておくとよいことはありますか?
見え方と聞こえ方です。手立てを考える前に、眼科・耳鼻咽喉科で確かめておくことができます(→
聞こえの検査について)。
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。
お子さまのこと、専門スタッフに相談してみませんか
のびのび発達ラボを運営する児童発達支援てらぴぁぽけっと早稲田教室(東京都新宿区・早稲田駅徒歩1分)には、言語聴覚士・公認心理師・精神保健福祉士・保育士など多職種の専門スタッフが在籍しています。見学・ご相談は、診断の有無に関わらず承ります。