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運動会が近づいてきたら——練習が始まった今、園や学校に頼めること

最終更新:2026年9月7日
九月に入って、園や小学校で運動会の練習が始まりました。そして家では、朝の支度が進まなくなったり、帰ってきてから泣いたり、寝つきが悪くなったりしている——そんな数週間の途中で、このページを開かれたのだと思います。
運動会は、(ピストル、大きな音楽、歓声)と、見通しの立たなさ(いつもと違う一日、いつもと違う場所、いつもと違う先生の声)と、集団での一斉行動(並ぶ、待つ、合図で動く)という、三つのことが同時にかかる行事です。どれか一つが苦手なだけでも、しんどくなるのは自然なことです。しんどさが出ているのは、それだけ頑張っている時間があるということでもあります。
この記事は、参加させるための記事ではありません。その子にとっての「参加」がどういう形なのかを、園や学校と一緒に決められるということを、法律の条文と国の基本方針から確かめていきます。配慮をお願いすることは、特別なことではありません。

練習が始まってからの数週間、家で起きやすいこと

運動会の練習は、たいてい本番の三〜六週間前から始まります。園庭や校庭に出る時間が増え、いつもの日課が組み替えられ、繰り返しの練習が入ります。その時期に、家のほうで次のようなことが起きることがあります。

これは「後退」ではなく、多くの場合「疲れ」です

練習の期間は、いつもより感覚の入力が多く、予定が読めず、待つ時間が長い日々が続きます。園や学校で持ちこたえていた分が、安心できる家で出ている、という順番で起きていることがあります。
家で崩れるのは、家が安全だからです。保護者の関わり方が原因で起きているのではないことのほうが多く、実際、家庭の対応を変えても練習の時期が終わるまで戻らないことがあります。まず、ご自身を責めないでください。

「何が原因か」は、本人に聞いても出てこないことがあります

「どうして行きたくないの」と尋ねても、「わかんない」「なんでもない」としか返ってこないことがあります。年齢が小さいほど、また言葉で説明することが得意でないほど、そうなります。これは隠しているのではなく、自分の中で何が起きているかを言葉にする力が、まだ育っている途中だからです。ですから、聞き出すより、いつ・どこで崩れるかを外側から見るほうが早く手がかりが出ます。

※ 一週間だけ、カレンダーの端に「◎ふつう/△しんどそう/×崩れた」と書き足してみてください。三つの記号だけで十分です。園や学校に相談するとき、この一枚がそのまま材料になります。→ 登園しぶり

苦手の正体を、五つに分けてみる

「運動会が苦手」とひとまとめにすると、手の打ちようがなくなります。実際には、苦手になりやすい場所は五つに分けられます。分ければ、一つずつ手当てができます。

※ はじめにお断りしておきます。「運動会」を名指しで扱った国の文書は、確認できた範囲では見当たりません。以下は、国の法令・基本方針・ガイドラインが行事や日常の場面全般について書いていることを、運動会の場面に当てはめて整理したものです。根拠のある部分と、そうでない部分を分けて書きます。

① 音

ピストルの号砲、拡声器を通した大音量の音楽、笛、太鼓、そして数百人分の歓声。運動会は、一年でもっとも音が大きくなる日のひとつです。音の苦手さは、こども家庭庁の児童発達支援ガイドライン(令和6年7月)が定める本人支援の五領域のうち「運動・感覚」の中に、はっきり位置づけられています。ねらいのひとつが「感覚の特性への対応」で、支援内容には「感覚の特性(感覚の過敏や鈍麻)を踏まえ、感覚の偏りに対する環境調整等の支援を行う」と書かれています。

つまり国のガイドラインは、本人を慣れさせるのではなく環境の側を調整することを支援内容として挙げています。内閣府の「合理的配慮サーチ」も、発達障害の合理的配慮の提供の例として「感覚過敏があるときには、それを和らげるための対処(例えば聴覚過敏に耳栓使用)を行えるようにする」を挙げています。耳栓やイヤーマフは、国が例として書いている配慮です。→ 感覚過敏とは?

② 見通し

運動会は、一日まるごといつもと違います。時間割が違い、場所が違い、保護者や来賓という見慣れない人がいて、先生の声も大きくなります。「次に何が起きるか」が読めない状態が朝から夕方まで続く、という点で、運動会は年間でもかなり負荷の高い日です。練習の期間もそうで、「今日は練習がある日なのか、ない日なのか」が本人に伝わっていないと、毎朝が賭けになります。

③ 待ち時間

実は、運動会で本人が動いている時間は多くありません。大半は待っている時間です。出番の前に整列して待つ、他学年の競技を座って見る、入退場の列で立って待つ。動くことは平気でも、何もしないで待つことが最も苦手、というお子さんは少なくありません。この場合、練習を頑張らせても改善しません。待ち方のほうを変える必要があります。

④ 整列・並ぶ・一斉に動く

前にならえ、体操隊形に開く、笛の合図で走り出す、列を崩さずに歩く。これらは周りを見て自分の位置を調整し続ける作業です。体を動かすこと自体は得意でも、この調整が負担になることがあります。また、隣の人との距離が近いことが苦手な場合もあります。→ 集団に入れない粗大運動とは?

⑤ 勝ち負け

かけっこで負ける、リレーで抜かれる、自分の組が負ける。負けたことより、負けたときにどうすればいいか分からないことがつらい、という形で出ることがあります。当日その場で泣くのが心配、というご相談も多い場面です。

苦手の正体まず何を頼むか(一つずつ)
① 音イヤーマフ・耳栓の持ち込みと使用を認めてもらう。ピストルを笛やホイッスルに替えられないか尋ねる。スピーカーから離れた位置に並ばせてもらう
根拠=内閣府 合理的配慮サーチ(発達障害)に「聴覚過敏に耳栓使用」が例示。児童発達支援ガイドラインの「運動・感覚」=感覚の偏りに対する環境調整
② 見通しプログラムを事前にもらう。練習のある日を週の初めに教えてもらう。当日の流れを絵や写真で作れるよう、会場の写真や並び順を先に見せてもらう
根拠=児童発達支援ガイドライン「認知・行動」=環境や状況を把握・理解できるようにする支援
③ 待ち時間待つ場所を日陰やテントにしてもらう。座って待てる場所を決めてもらう。待っている間に持てるもの(タオル、小さな物)を認めてもらう。出番の直前まで別の場所で待たせてもらう
④ 整列・一斉行動並ぶ位置を端か最後尾にしてもらう。隣を決まった子にしてもらう。合図の前に個別に声をかけてもらう。目印(線・コーン・マット)を置いてもらう
根拠=内閣府 合理的配慮サーチ(発達障害)「作業手順や道具配置などにこだわりがあるときには、一定のものを決めておく」
⑤ 勝ち負け順位のつかない種目に替えてもらう。負けたときにどこへ行けばよいかを先に決めておく。結果より「出た」ことを先生から言葉にしてもらう
共通途中で抜けられる場所(保健室、教室、テントの裏、保護者席)をあらかじめ決めておく。抜けたあとどう戻るかまで決めておく

※ 全部を一度に頼む必要はありません。いちばん困っている一つから始めるほうが、園や学校も動きやすくなります。

配慮をお願いすることには、法律の根拠があります

「うちの子だけ特別扱いをお願いするようで、言い出しにくい」——このためらいは、とてもよくうかがいます。けれど、園や学校に配慮をお願いすることは、好意にすがることではありません。根拠になる法律があります。「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(平成25年法律第65号。障害者差別解消法)です。

内閣府のページによれば、この法律は平成28年4月1日に施行され、令和3年法律第56号による改正法が令和6年4月1日に施行されました。この令和6年4月の改正が、後で述べるとおり、私立の園や学校の義務の重さを変えました。

第7条第2項(行政機関等)・第8条第2項(事業者)——条文はまったく同じ文です

行政機関等〔事業者〕は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

※ 〔 〕は第8条第2項の語。第7条第2項と第8条第2項は、主語以外は同一の文です。

ここに書かれている条件は、たった二つです。①保護者や本人から「これが必要です」と伝えることと、②その対応が過重な負担でないこと。この二つがそろえば、園や学校は「しなければならない」という書き方になっています。

公立か私立かで、義務のかかり方が違います

同じ法律の中で、行政機関等(第7条)と事業者(第8条)が書き分けられています。第2条第3号は「行政機関等」に地方公共団体を含めており、同条第7号は「事業者」を「商業その他の事業を行う者(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)」と定義しています。つまり区立・市立の保育園や小学校は行政機関等、私立の幼稚園・保育園・小学校は事業者にあたります。

どちらの条文がかかるか義務の重さ
区立・市立・都立の園や学校
=第7条(行政機関等)
不当な差別的取扱いの禁止=禁止(第7条第1項)
合理的配慮の提供=義務(第7条第2項)。平成28年4月1日の施行時から義務です
私立の幼稚園・保育園・小学校、認定こども園など
=第8条(事業者)
不当な差別的取扱いの禁止=禁止(第8条第1項)
合理的配慮の提供=義務(第8条第2項)。ただし義務になったのは令和6年4月1日から。それ以前は努力義務でした

※ 文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引」(令和3年6月)は、第7条第1項・第8条第1項の不当な差別的取扱いの禁止について「国公私立学校とも法的義務となっている」と明記しています。また同手引は、事業者の合理的配慮について「令和3年5月に成立した同法の改正法により、合理的配慮の提供が努力義務から法的義務へと改められた」と書いています。

東京都では、私立の園や学校はもっと前から義務でした

東京都には「東京都障害者への理解促進及び差別解消の推進に関する条例」があり、豊島区のページによれば平成30年10月1日から施行されています。この条例は、障害者差別解消法に先んじて、都内で事業を行う事業者の合理的配慮の提供を義務化しました。対象は「都内で事業を行う者」で、本社や事務所が都外であっても都条例の対象とされています。つまり東京都内の私立園・私立学校は、国の法改正を待たずに、平成30年10月から合理的配慮が義務だったということです。

診断や手帳がなくても、対象になります

ここが、健診や就学相談で指摘を受けたばかりのご家庭にとって、いちばん大事な点かもしれません。内閣府の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(令和5年3月14日閣議決定)は、この法律の対象となる障害者について、こう書いています。

基本方針(令和5年3月14日閣議決定)

法が対象とする障害者の該当性は、当該者の状況等に応じて個別に判断されることとなり、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない。

同じ箇所で、対象となる障害には発達障害高次脳機能障害難病等に起因する障害が含まれることも明記されています。診断名がついていなくても、手帳がなくても、「困っている状態がある」ことを伝えれば、この法律の話ができます。いま診断の有無で迷っておられるとしても、運動会の相談を先に進めて構いません。→ 合理的配慮とは?

入口は「意思の表明」、その先は「建設的対話」

第7条第2項・第8条第2項をもう一度見ると、配慮が動き出す引き金が書かれています。「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合」——これが入口です。国の側は、この「意思の表明」をかなり広くとっています。

基本方針——本人が言えなくてもかまいません

障害者からの意思表明のみでなく、障害の特性等により本人の意思表明が困難な場合には、障害者の家族、介助者等、コミュニケーションを支援する者が、本人を補佐して行う意思の表明も含む。

なお、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には、法の趣旨に鑑みれば、適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働きかけるなど、自主的な取組に努めることが望ましい

つまり、保護者が代わりに伝えてよいと、国の基本方針にはっきり書かれています。園児や小学校低学年のお子さんが自分で先生に交渉することは想定されていません。保護者が伝えることが、制度上の正規の入口です。

同じ基本方針は、伝え方についてもこう書いています。「言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など」の手段で伝えられる、そして「社会的障壁を解消するための方法等を相手に分かりやすく伝えることが望ましい」。難しい言い方をする必要はなく、「何に困っていて、どうしてほしいか」を具体的に言えば足ります。

断られたときに、次に何が起きるか

「それは難しいです」と言われることもあります。そのときに何が起きるべきかも、基本方針に書かれています。園や学校が過重な負担にあたると判断した場合、基本方針は「障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい」としています。そして「代替措置の選択も含めた対応を柔軟に検討することが求められる」とも書いています。

「過重な負担」は、その場の気分で決めるものではありません。基本方針は、個別の事案ごとに次の要素を考慮し、総合的・客観的に判断するとしています。

基本方針が「不当な差別的取扱い」に当たり得るとしている断り方

基本方針は、次のような対応を不当な差別的取扱いに当たり得る例として挙げています。運動会の相談でも、そのまま出てきそうな言い方が並びます。

  • デジタル機器の持込みを認めた前例がないことを理由に、必要な調整を行うことなく一律に対応を断ること
  • 移動に際して支援を求める申出があった場合に、「何かあったら困る」という抽象的な理由で具体的な支援の可能性を検討せず、支援を断ること
  • 弱視の方から見やすい席での受講を希望する申出があった場合に、事前の座席確保などの対応を検討せずに「特別扱いはできない」という理由で対応を断ること

「前例がない」「何かあったら困る」「特別扱いはできない」——この三つは、それ自体では断る理由にならないと国の基本方針が書いている、ということです。

とはいえ、相談の場でこの条文を持ち出す必要はまったくありません。基本方針が繰り返し使っている言葉は「建設的対話」です。「障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を障害者と行政機関等・事業者が共に考えていくために、双方がお互いの状況の理解に努めることが重要である」——これが国の想定している場面です。お願いする側と、される側という関係ではありません。一緒に案を出す場だと思って臨んでよいということです。

※ 基本方針は、合理的配慮について「事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばない」ことにも留意が必要としています。運動会そのものを別の行事に作り替えることは含まれませんが、参加のしかたを変えることは本質的な変更にはあたらないと考えるのが自然です。

いつ、誰に伝えるか——練習が始まる前がいちばん動きやすい

これは制度の話ではなく、段取りの話です。プログラムと配置が決まる前に伝えたほうが、園や学校は圧倒的に動きやすくなります。並び順、出番の順序、係の割り当ては、いったん全体の表になってしまうと一箇所だけ変えにくくなるからです。

いまは九月です。すでに練習が始まっている園や学校が多い時期ですが、プログラムの細部や当日の配置は、まだ確定していないことが多い段階です。今週が動きどきです。

誰に言えばよいか

場所最初に話す相手
保育園・幼稚園・認定こども園まず担任。担任が「園として決めます」と答えたら、主任または園長に同席をお願いする。園全体の判断が必要な配慮(並び順、待機場所、音の出し方)は、担任だけでは決められないことがあります
小学校まず担任。あわせて特別支援教育コーディネーターの先生につないでもらう。文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引」も、子供の実際の活動場面を観察する担当者として特別支援教育コーディネーターを挙げています
通級・特別支援教室を使っている場合そちらの担当の先生にも同じ内容を伝えておく。在籍学級と指導の場の両方で同じ情報が共有されているほうが、当日の動きが決まりやすくなります
児童発達支援や放課後等デイサービスを使っている場合児童発達支援管理責任者に伝える。こども家庭庁のガイドラインは「移行支援」の支援内容として「併行利用先とのこどもの状態や支援内容の共有(例:得意不得意やその背景、声掛けのタイミングやコミュニケーション手段の共有)」を挙げています。園や学校への伝達を事業所側から行う道があります

口で言うより、一枚の紙にする

面談で口頭だけで伝えると、その場にいなかった先生には伝わりません。運動会当日は、担任以外の先生が本人のそばにいる時間のほうが長くなります。紙で渡すと、職員間で回覧され、当日の担当まで届きます。

どう書けばよいか迷われるときは、世田谷区が就学の場面で使っている「就学支援シート」の考え方が参考になります。区のページには、保護者が記入するにあたって「様式欄のすべてを記入しなくても結構です。『ここだけは』というポイントをご記入ください」と書かれています。引き継ぐ内容として挙げられているのも、「お子さんの好きなことや得意なこと、また、お子さんがどうしても苦手なこと」という並びです。苦手だけを書く紙ではありません。

  1. できていること・好きなことを先に書く(例:走るのは好き、音楽が好き、○○先生の声だと動ける)
  2. 苦手なことを、場面で書く(例:ピストルの音/整列して待つ時間/負けたあと)
  3. すでに家で効いている方法を書く(例:先に写真で見せると落ち着く、耳を押さえると持ちこたえる)
  4. お願いしたいことを、数を絞って具体的に書く(例:イヤーマフの持ち込み、並ぶ位置を最後尾に、抜ける場所を決めておく)
  5. 当日、崩れたときにどうしてほしいかを書く(例:声をかけずに保健室へ、保護者席へ連れてきてもらう)

※ A4一枚で十分です。長くする必要はありません。むしろ短いほうが当日の先生に伝わります。→ 相談の前に用意しておくメモ

学校の場合、決まったことは書類に残せます

文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引」は、合理的配慮の決定・提供について、「設置者及び学校と本人及び保護者により、個別の教育支援計画を作成する中で、発達の段階を考慮しつつ、(中略)合理的配慮について可能な限り合意形成を図った上で決定し、提供されることが望ましい」とし、「その内容は、個別の教育支援計画に明記するとともに、個別の指導計画においても活用されることが重要である」と書いています。

運動会のために一度決めた配慮は、その場かぎりで消える必要がありません。「これは個別の教育支援計画に書いていただけますか」と尋ねることは、この手引の書きぶりに沿った質問です。来年の運動会、遠足、学芸会にも同じ配慮が引き継がれます。→ 個別の教育支援計画とは?

実際に頼めることの一覧

文部科学省の手引は、合理的配慮を考えるときの観点を三つに整理しています。中央教育審議会初等中等教育分科会報告(平成24年7月23日)から引かれたもので、①教育内容・方法、②支援体制、③施設・設備の三つです。その中には「学習内容の変更・調整」「学習機会や体験の確保」「心理面・健康面の配慮」といった項目が並んでいます。運動会で頼めることを、この三つに当てはめて並べてみます。

※ 以下の個々の例は、国の文書に運動会の例として載っているものではありません。三つの観点は手引に載っているもので、当てはめ方はこの記事によるものです。

① 内容・方法にかかわるもの

② 人と体制にかかわるもの

③ 場所と物にかかわるもの

「環境の整備」は、また別に定められています

同じ法律の第5条は、こう定めています。「行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない」努力義務です。

基本方針は、これを「事前的改善措置」と呼び、不特定多数の障害者を主な対象としてあらかじめ行うものだと説明しています。文部科学省の手引はこれを教育の文脈で「基礎的環境整備」と呼びます。
つまり、個々の子に個別に行うのが合理的配慮あらかじめみんなのために整えておくのが環境の整備という二段構えです。基本方針は「環境の整備と合理的配慮の提供を両輪として進めることが重要である」と書いています。

※ ですから、「毎年お願いするのは気が引ける」と感じたときは、「来年から、そもそもテントに待機場所を用意していただけませんか」という言い方もできます。それは環境の整備の話です。

見通しを立てる——家でできる準備と、当日の朝

ここからは家の側の話です。こども家庭庁の児童発達支援ガイドラインは、本人支援の五領域のうち「認知・行動」の支援内容として、「取得した情報を過去に取得した情報と照合し、環境や状況を把握・理解できるようにするとともに、これらの情報を的確な判断や行動につなげることができるよう支援を行う」と書いています。運動会の準備でいえば、当日を「初めて」にしないということです。

一週間前から

  1. プログラムをもらう。園や学校に「先にいただけますか」と頼めば、たいてい出してもらえます
  2. 本人が出る種目だけに印をつけた紙を作る。全部を見せると情報が多すぎることがあります
  3. 会場の写真を見せる。テント、トイレの位置、保護者席、待つ場所。園庭や校庭であれば、送り迎えのときに一緒に見るだけでも違います
  4. 朝から帰るまでの流れを、絵か短い文で作る。「起きる→朝ごはん→園(学校)へ行く→体操→○○の種目→おべんとう→○○の種目→終わり→帰る」で十分です
  5. 「途中で抜けてもいい」ことを、本人に伝えておく。逃げ道を先に見せておくと、かえって最後までいられることがあります

※ 絵カードやスケジュール表の作り方は 視覚支援とは?切り替えが苦手 にまとめています。上手に作る必要はありません。手書きで十分です。

前日

当日の朝

持ち物

参加のしかたは、ひとつではありません

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。「全部出られたら成功、出られなかったら失敗」ではありません。運動会の参加には、実際には幅があります。

「参加させること」を目的にしない

目的は、運動会という日を、その子が自分の力で通り抜けられることです。全部出て一日じゅう耐えて、翌週から園や学校に行けなくなるより、半分だけ出て笑って帰るほうが、その子にとってはずっと良い一日です。
そして、どの形を選ぶかは、園や学校と一緒に決められます。相談の場で「どこまで出せますか」と聞かれることがありますが、「これとこれなら出られそうです。当日の様子で減らしてもいいですか」と、こちらから幅のある形で返して構いません。

「みんなと一緒」の意味

こども家庭庁の児童発達支援ガイドラインは、地域社会への参加・包摂(インクルージョン)について、「一人一人のこどもの育ちと個別のニーズを共に保障した上で」推進するという書き方をしています。個別のニーズを脇に置いて同じ場所に立たせることが、インクルージョンだとは書かれていません。同じガイドラインは、移行支援について「特に入園・入学時等のライフステージの移行時における『移行支援』は、こどもを取り巻く環境が大きく変化することも踏まえ、支援の一貫性の観点から、より丁寧な支援が求められる」とも書いています。

運動会も、環境が大きく変わる日です。丁寧に用意されるべき日であって、耐える力を試す日ではありません。

終わったあとの数日と、きょうだいのこと

翌日から数日は、反動が出ることがあります

当日をうまく越えられても、翌日にどっと崩れることがあります。練習期間から本番までの数週間、ずっと通常より高い負荷がかかっていたためです。「あんなに頑張れたのに、次の日に行けなくなった」というご相談は、この時期によくあります。

うまくいったことは、必ず記録に残す

運動会が終わったら、効いた配慮を一行でメモしてください。「イヤーマフで最後までいられた」「最後尾だと崩れなかった」「テントで待てた」。
これは来年の運動会だけでなく、遠足、学芸会、避難訓練、そして進級・進学のときの引き継ぎ材料になります。学校であれば、前述のとおり個別の教育支援計画に書いてもらうことができます。一度勝ち取った配慮を、毎年ゼロから交渉しなくてよくなります。

きょうだいがいる家庭の、当日の動き方

きょうだいがいると、当日の段取りはさらに複雑になります。「上の子の出番と下の子の出番が重なる」「片方に付き添うと、もう片方の競技を見られない」「途中で抜ける可能性があるので、そもそも席を離れられない」。

こども家庭庁の児童発達支援ガイドラインは、「家族支援」の対象について、「対象を保護者に限った支援ではなく、きょうだいや祖父母等への支援も含まれる。特にきょうだいは、心的負担等から精神的な問題を抱える場合も少なくない」と書いています。支援内容にも「きょうだい同士の交流の機会の提供やきょうだいに対する相談援助」が挙げられています。きょうだいのしんどさは、国のガイドラインが名指しで書いている論点です。家庭で抱え込む前に、通っている事業所に相談していただいて構いません。→ きょうだい児支援とは?

話が進まないときに、相談できるところ

園や学校と話しても前に進まない、あるいは「そういう決まりですので」で止まってしまう。そういうときの相談先が、制度として用意されています。

① 内閣府「つなぐ窓口」

国が設置している、障害者差別に関する相談窓口です。窓口のページによれば、「障害者差別解消法に関する質問に対して回答することや、障害を理由とする差別に関する相談事案を適切な自治体・各府省庁等の相談窓口に円滑につなげるための調整・取次を行うこと」を目的としています。

※ 同じページには、法の対象について「障害者手帳をお持ちの方に限りません」、事業者に該当するものの一例として教育機関が挙げられています。分野についても「教育、医療、福祉、公共交通等、全般的に対象」と書かれています(雇用・就業関係は対象外)。

② 東京都の「広域支援相談員」

東京都には、都条例にもとづく広域支援相談員が置かれています。豊島区のページによれば、「障害者ご本人や周りの関係者の方、民間事業者からの相談も含め、幅広く相談を受け付けます」とされ、「区市町村と連携し、相談者への助言や調査、情報提供及び関係者間の調整などを行います」と説明されています。

さらに都条例には、広域支援相談員に相談しても解決しない場合の仕組みとしてあっせん・勧告・公表の手続きがあり、公正かつ中立な第三者機関である「東京都障害を理由とする差別解消のための調整委員会」が関わるとされています。同じページには、相談者は「区の窓口でも、東京都の広域支援相談員でも、望む相談先に相談していただくことができます」とも書かれています。

③ お住まいの区市町村の窓口

区市町村にも障害福祉の相談窓口があります。また、園や保育の入り口の段階から相談できる場合もあります。たとえば新宿区は、区内の認可保育園・認定こども園の全園で障害児等保育を行っており、「入園申込みにあたって、お子さんの健康状況、発育状況について、気になることがありましたらご相談ください」と案内しています。同時に「集団での保育であるため、お子さんに保育士が常に1対1で対応するものではありません」とも明記されています。できることとできないことを先に示しているのは、相談する側にとってはむしろ話しやすい書き方です。

④ 学校で、意見が一致しないとき

文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引」は、合理的配慮の決定について、「設置者及び学校と本人及び保護者の意見が一致しない場合には、教育支援委員会等の助言等により、その解決を図ることが望ましい」と書いています。学校とご家庭の二者で行き詰まったときに、第三者が入る道が想定されているということです。

⑤ すでに通っている事業所

児童発達支援や放課後等デイサービスを利用しておられる場合、児童発達支援管理責任者に相談することができます。こども家庭庁のガイドラインは「移行支援」の支援内容として、「移行先との支援方針・支援内容の共有や、こどもの状態・親の意向・支援方法についての伝達」「移行先の受け入れ体制づくりへの協力」を挙げており、併行利用先との連携も支援内容に含めています。保護者が一人で交渉する必要はありません。児童発達支援管理責任者(児発管)とは?

※ 保育所等訪問支援を利用している場合は、訪問支援員が園や学校を訪れて、集団の中での様子を見たうえで助言する仕組みもあります。→ 保育所等訪問支援とは?

出典

※上記の出典は2026年9月7日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。

よくあるご質問

もう練習が始まっています。いまから相談しても遅くないでしょうか。
遅くありません。プログラムの細部(並び順、出番の順序、待機場所、係の割り当て)は、練習が始まったあとでも動くことが多い部分です。また、当日の配慮だけでなく練習期間の配慮——見学にする、途中で抜ける、練習のある日を事前に教えてもらう——は、今日からでも効きます。まずは担任の先生に、いちばん困っていること一つを伝えるところからで十分です。
診断も手帳もありません。それでも「配慮」をお願いできますか。
お願いできます。内閣府の基本方針(令和5年3月14日閣議決定)は、障害者差別解消法が対象とする障害者の該当性について、「当該者の状況等に応じて個別に判断されることとなり、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない」と明記しています。内閣府の「つなぐ窓口」のページにも「障害者手帳をお持ちの方に限りません」と書かれています。診断名を伝える必要もありません。「この場面で、こう困っています」という具体の話で進められます。
「特別扱いはできません」と言われました。それで終わりでしょうか。
内閣府の基本方針は、事前の座席確保などの対応を検討せずに「特別扱いはできない」という理由で対応を断ることを、不当な差別的取扱いに当たり得る例として挙げています。「前例がないことを理由に一律に断ること」「『何かあったら困る』という抽象的な理由で具体的な支援の可能性を検討せずに断ること」も同じ並びに挙げられています。ただし、いきなり法律を持ち出すよりも、「では、どういう形なら可能でしょうか」と代替案を一緒に探すほうが早く進むことが多いです。基本方針も、代替措置の選択を含めて柔軟に検討することを求めています。それでも動かないときに、次の質問の窓口があります。
園や学校と話しても進みません。どこに相談できますか。
三つあります。①内閣府の「つなぐ窓口」(電話 0120-262-701)——どこに相談すればよいか分からない段階の相談を想定した国の窓口で、適切な自治体や府省庁の窓口へ取り次ぎます。②東京都の広域支援相談員——都条例にもとづく相談員で、区市町村と連携して助言・調査・調整を行います。解決しない場合はあっせん・勧告の手続きもあります。③お住まいの区市町村の窓口。豊島区のページによれば、相談者は区の窓口でも東京都の広域支援相談員でも、望む相談先に相談できるとされています。
公立と私立で、頼めることに違いはありますか。
法律のかかり方が違います。区立・市立・都立の園や学校は行政機関等にあたり、障害者差別解消法第7条第2項により平成28年4月1日から合理的配慮の提供が義務です。私立の幼稚園・保育園・小学校などは事業者にあたり、第8条第2項により令和6年4月1日から義務になりました(それ以前は努力義務)。ただし東京都では、都条例により平成30年10月1日から都内で事業を行う事業者の合理的配慮の提供が義務化されています。なお、不当な差別的取扱いの禁止は、文部科学省の手引によれば国公私立学校とも法的義務です。
当日、全部は出られそうにありません。休ませたほうがよいでしょうか。
「全部出るか、休むか」の二択にする必要はありません。一部の種目だけ出る、別の役割で参加する、見学席から見る、写真だけ撮る、途中で抜ける——実際にはこれだけの幅があり、どの形にするかは園や学校と一緒に決められます。目的は、その一日を、その子が自分の力で通り抜けられることです。当日の朝に決める、という決め方も含めて、あらかじめ先生と共有しておくと動きやすくなります。
うまくいった配慮を、来年も続けてもらえますか。
学校であれば、書類に残す道があります。文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引」は、合理的配慮について「その内容は、個別の教育支援計画に明記するとともに、個別の指導計画においても活用されることが重要である」としています。運動会が終わったら、効いた配慮を一行メモしておき、次の面談で「これを個別の教育支援計画に書いていただけますか」と伝えてみてください。遠足や学芸会、進級のときの引き継ぎにも使えます。
運動会のあと、行きしぶりが強くなりました。何かおかしいのでしょうか。
練習期間から本番まで、通常より高い負荷が数週間続いたあとです。反動が翌日以降に出ることは珍しくありません。数日から一週間ほど、予定を減らして休ませる時間をとってみてください。あわせて、園や学校に当日と練習中の様子を聞いてみると、家では言わなかったことが出てくることがあります。長く続く場合や、食事・睡眠に大きく影響している場合は、通っている事業所や区市町村の相談窓口にご相談ください。→ 登園しぶり
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。

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