国の手引の書き方
文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引」(令和3年6月改訂)は、衝動性を注意欠陥多動性障害の三つの領域の一つとして説明しています。
| 領域 | 手引の説明 |
| ア 不注意 | 気が散りやすく、注意を集中させ続けることが困難であったり、必要な事柄を忘れやすかったりすること |
| イ 衝動性 | 話を最後まで聞いて答えることや順番を守ったりすることが困難であったり、思いつくままに行動して他者の行動を妨げてしまったりすること |
| ウ 多動性 | じっとしていることが苦手で、過度に手足を動かしたり、話したりすることから、落ち着いて活動や課題に取り組むことが困難であること |
🔴 三つの条件が畳み込まれています
手引の定義は
「典型的には、年齢あるいは発達に不釣合いな程度において、……不注意又は衝動性・多動性の状態を継続して示し、それらが社会的な活動や学校生活を営む上で著しい困難を示す状態」です。
①
年齢との相対——絶対的な基準ではありません
②
継続——一時的な様子ではありません
③
暮らしの困難——行動の派手さではありません
三つとも、
行動そのものではなく「その子にとってどうか」を見る書き方になっています。
🔴 「衝動性がある」と「診断がつく」は、別のことです
手引より(そのまま)
「注意欠陥多動性障害は、障害そのものの社会的認知が十分でなく、また、注意欠陥多動性障害のない子供においても、不注意又は衝動性・多動性の状態を示すことがあることから、注意欠陥多動性障害のある子供は、『故意に活動や課題に取り組もうとしない』『怠けている』あるいは『自分勝手な行動をしている』などとみなされてしまい、障害の存在が見逃されやすい。」
この一文は、二つの向きに効きます。
- 衝動的な様子があるからといって、診断がつくとは限らない——だから、行動の有無で線を引くことはできません
- 診断がついていない子にも、支援が要ることがある——手引はこれを「見逃されやすい」と書いています
制度の側も、診断を入口にしていません
学校教育法 第81条第1項は、
「その他教育上特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対し」障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を
「行うものとする」としています。
障害者差別解消法 第2条第1号の「障害者」の定義も、
「障害及び社会的障壁により継続的に……相当な制限を受ける状態にあるもの」で、
診断や手帳を要件としていません(→
グレーゾーンとは?)。
🔴 「順番を守る」は、行儀ではなく技能として書かれています
手引の説明にある「順番を守ったりすることが困難」。この「順番」を、学会は別の角度から書いています。
米国言語聴覚協会(ASHA)「Social Communication Disorder」より
会話に参加すること(engaging in conversation)の中身として挙げられているもの——
・会話を始める、または入っていくこと・話題を保つこと🔴
・順番交代(turn-taking)・応じること・ちょうどよい量の情報を出すこと——
順番交代は、社会的コミュニケーションの技能として並べられています。
技能として書かれているということは、身につけていく途中のものとして扱われているということです。ASHAは、行き違いが起きたときの「修復(repairing communication breakdowns)」も同じ一覧に挙げています——言い直すことも技能の一つです(→順番が待てないとき)。
🔴🔴 国のガイドラインは、出どころを三つ挙げています
こども家庭庁の児童発達支援ガイドラインは、本人支援の「認知・行動」領域の支援内容に行動障害への予防及び対応を挙げています。そして、その行動がどこから生じるかを、こう書いています。
児童発達支援ガイドラインより
🔴
「感覚や認知の偏り、コミュニケーションの困難性から生ずる行動障害の予防及び対応」——
三つ挙げられています。
①
感覚の偏り(→
感覚過敏とは?)
②
認知の偏り③
コミュニケーションの困難性行動そのものを止めることは、このどれにも触れていないかもしれません。
同じガイドラインは、障害特性に応じた配慮として予定等の見通しを持てるようにすることを挙げています。次に何が起きるか分かることが、待てるかどうかに関わる、という書き方です。
叱責が積み重なったときのことも、手引に書かれています
手引より
「……衝動的に行動し、人やものにぶつかったり、危険な行動につながったりしてしまい、結果的に人とのトラブルになってしまうことも見られる。そのため、周囲の大人から行動を強く規制されたり、注意や叱責を受けたりする場面が増える可能性が高い。」「もちろん、危険な行為は制止する必要はあるが、このような関わりの繰り返しにより、自己肯定感が低下し、『自分はどうせ、何をやっても叱られる』『やりたいことは大人に禁止されてばかりだ』といった自己肯定感の低い投げやりな気持ちや無力感に陥ってしまう可能性が高くなる。」
🔴 手引が挙げている対応
「そのためには、注意や叱責をするよりも、望ましい行動を具体的に示したり、行動の良い面を見つけたらすぐに褒めたりすることが効果的である。」——
「すぐに」と書かれています(→
ほめ方について)。
そして予防として——
「自分の特性に気付き、自分を認め、生活する上で必要な支援を求めることができるようにすることが大切である。」(→
二次障害とは?)
🔴 環境の側は「しなければならない」と書かれています
こども家庭庁の児童発達支援ガイドラインは、環境について支援する側の義務の形で書いています。
児童発達支援ガイドラインより
「事業所等は、こうした人、物、場等の環境が相互に関連しあい、こどもの生活が豊かなものとなるよう、次の事項に留意しつつ、計画的に環境を整え、工夫して、こどもに対し支援を行わなければならない。」そこに挙げられているもの——
①
こどもによる選択ができるよう配慮すること③
時間や空間を本人にわかりやすく構造化すること/
不安な気持ちを落ち着かせる環境を整えること
つまり、待てるようにするのは、本人の努力だけの話として書かれていません。見通し・順番の示し方・待つ時間の長さ・待つあいだにできることは、環境の側で変えられるものです(→環境調整とは?)。
園や学校に伝えるとき
- 場面を特定する——「順番を待つ列」「発表の指名」「給食の配膳」など
- そのとき何が起きているかを、解釈をつけずに書き留める——「集中していない」ではなく「10分で3回立った」のように
- 待てた場面も一緒に伝える——手引は「行動の良い面を見つけたらすぐに褒める」ことを挙げています
- 環境の側の案を一緒に出す——見通しの示し方、順番の可視化、待つ時間の長さ、待つあいだの役割
- いつ見直すかを決める——「一学期試して面談で見直す」と期限を添える
配慮の提供は、法律上本人・保護者の側から言い出したときに始まります(障害者差別解消法 第7条第2項・第8条第2項=「その旨の意思の表明があった場合において」)。
この記事で書かないこと
診断基準・チェックリストは書きません。診断は医師が行うものであり、手引が掲載している評価の設問一覧も専門家チームや校内委員会などの体制の中で用いるものとされているためです。
「どこからが衝動性か」の線も書きません。手引自身が「注意欠陥多動性障害のない子供においても、不注意又は衝動性・多動性の状態を示すことがある」と書いており、行動の有無で分けられるものとしては記述されていないためです。
年齢ごとの「待てる時間」の目安も書きません。確認できた一次情報にその目安がないためです。
薬に関することは書きません。医師の判断によるものです。
どこに相談すればいいか
| 相談先 | 何のため |
| 園・学校(担任・特別支援教育コーディネーター) | 困っている場面の共有、見通しの示し方、配慮。まずここが入口です |
| 市区町村の子育て・母子保健の窓口 | 乳幼児健診、発達相談 |
| 小児科・児童精神科など | 診断と、薬を含む治療に関する判断。療育は医療ではありません |
| 発達障害者支援センター | 発達障害者支援法 第14条。年齢で切られず、家族その他の関係者も相談できます |
| 市区町村の障害福祉の窓口 | 児童発達支援・放課後等デイサービスの利用(→受給者証について) |
| 親の会・ペアレントメンター | 同じ立場の人とつながる |
※本記事は一般的な情報提供です。診断・治療に関する判断は医師などの専門機関にご相談ください。療育は医療ではありません。
出典
※上記の出典は2026年9月6日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。
よくあるご質問
衝動的な様子があると、ADHDということですか?
国の手引はそう書いていません。「注意欠陥多動性障害のない子供においても、不注意又は衝動性・多動性の状態を示すことがある」と明記されています。診断は医師が行うものです。
手引は、衝動性をどう説明していますか?
「話を最後まで聞いて答えることや順番を守ったりすることが困難であったり、思いつくままに行動して他者の行動を妨げてしまったりすること」です。
どこからが「困難」なのですか?
手引の定義には三つの条件が入っています——①年齢あるいは発達に不釣合いな程度において ②継続して示し ③社会的な活動や学校生活を営む上で著しい困難を示す。行動の派手さではなく、その子の暮らしに困難が出ているかを見る書き方です。
診断がないと、支援は受けられませんか?
学校教育法 第81条第1項は「その他教育上特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対し」教育を「行うものとする」としています。障害者差別解消法 第2条第1号の「障害者」の定義も診断や手帳を要件としていません。
「順番が守れない」のは、しつけの問題でしょうか?
米国言語聴覚協会(ASHA)は順番交代(turn-taking)を社会的コミュニケーションの技能として、「会話を始めること」「話題を保つこと」「応じること」と並べて挙げています。身につけていく途中のものとして扱われています。
行動を減らすことが目標になってしまいます
こども家庭庁の児童発達支援ガイドラインは、行動障害を「感覚や認知の偏り、コミュニケーションの困難性から生ずる」ものとしています。出どころが三つ挙げられています。行動そのものを止めることは、そのどれにも触れていないかもしれません。
叱ってばかりになってしまいます
国の手引も、その循環を書いています——「注意や叱責を受けたりする場面が増える可能性が高い」「『自分はどうせ、何をやっても叱られる』……といった無力感に陥ってしまう可能性が高くなる」。そのうえで「望ましい行動を具体的に示したり、行動の良い面を見つけたらすぐに褒めたりすることが効果的」としています。
家庭で工夫できることはありますか?
国のガイドラインは、環境として「時間や空間を本人にわかりやすく構造化すること」「不安な気持ちを落ち着かせる環境」「こどもによる選択」を挙げ、障害特性への配慮として予定等の見通しを持てるようにすることを挙げています。見通し・順番の示し方・待つ時間の長さは変えられるものです。
何歳くらいまで待てないのは普通ですか?
この記事では目安を書きません。確認できた一次情報に年齢ごとの目安がないためです。気になることがあれば、園・学校や乳幼児健診の窓口にご相談ください。
薬について知りたいのですが
この記事では書きません。医師の判断によるものです。小児科・児童精神科などにご相談ください。
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。
お子さまのこと、専門スタッフに相談してみませんか
のびのび発達ラボを運営する児童発達支援てらぴぁぽけっと早稲田教室(東京都新宿区・早稲田駅徒歩1分)には、言語聴覚士・公認心理師・精神保健福祉士・保育士など多職種の専門スタッフが在籍しています。見学・ご相談は、診断の有無に関わらず承ります。