診断を要件にしていない三つの条文
① 障害者差別解消法 第2条第1号(障害者の定義)
「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害……がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。」🔴
「診断を受けた者」とも「手帳を有する者」とも書かれていません。書かれているのは
「相当な制限を受ける状態にあるもの」です。
② 学校教育法 第81条第1項
「幼稚園、小学校、中学校……においては、次項各号のいずれかに該当する幼児、児童及び生徒
その他教育上特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対し、……障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を
行うものとする。」
🔴
「その他教育上特別の支援を必要とする」——
特別支援学級に在籍していなくても、
通級を受けていなくても、この項の対象です。
そして語尾は
「行うものとする」。
③ 言語聴覚士法 第2条
言語聴覚士の業務に
「検査」「助言」「指導」が明記されており、医師の指示が必要な行為は
第42条で嚥下訓練・人工内耳の調整等に限定されています。
——
ことばの相談は、診断がなくても法律上できます(→
ことばの相談先について)。
ちなみに理学療法士及び作業療法士法 第2条は、定義そのものに
「医師の指示の下に」が入っています。
職種によって条文の作りが違います。
また発達障害者支援法 第2条第2項も、「発達障害者」を「発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるもの」と定義しています。本人の状態だけでは定義が完成していません(→発達障害とは?)。
🔴🔴 「8.8%」という数字の、正しい読み方
この言葉と一緒に、よく8.8%という数字が出てきます。出どころは、文部科学省の「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」(令和4年12月13日公表)です。
調査が示した数字
質問項目に対して
学級担任等が回答した内容から「知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒の割合——
小学校・中学校:推定値 8.8%(95%信頼区間 8.4%〜9.3%)
高等学校:推定値 2.2%
🔴🔴 調査自身が付けている留意事項(そのまま)
「本調査における『Ⅰ.児童生徒の困難の状況』については、学級担任等による回答に基づくもので、……発達障害の専門家チームによる判断や、医師による診断によるものではない。従って、本調査の結果は、発達障害のある児童生徒数の割合を示すものではなく、特別な教育的支援を必要とする児童生徒数の割合を示すものであることに留意する必要がある。」
有識者会議の座長も、報告書の冒頭でこう書いています——「……発達障害のある児童生徒数の割合や知的発達に遅れがある児童生徒数の割合を推定する調査ではないことに十分留意いただきたい。」
🔴 だから、こう読むのが正確です
✕「発達障害の子どもが8.8%いる」✕「10年で増えた」(調査は
「平成24年調査とは対象地域や一部質問項目等が異なるため、単純比較することはできない」としています)
○「担任から見て、知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示すと回答された児童生徒が、推定で8.8%いた」——
これは、困りごとの数であって、診断の数ではありません。
🔴 同じ調査が示した、もう二つの数字
この調査には、あまり引用されない結果があります。「著しい困難を示す」とされた児童生徒(推定8.8%)が、実際に何を受けているかです。
| 設問 | 回答(小学校・中学校/推定値) |
| 校内委員会において、現在、特別な教育的支援が必要と判断されているか | 必要と判断されている 28.7% 🔴必要と判断されていない 70.6% 不明 0.7% |
| 現在、通級による指導を受けているか | 受けている 10.6% 受けていない 86.9% 現在は受けていないが過去に受けていた 2.0% |
この二つが意味すること
担任が「著しい困難がある」と回答した子どものうち、校内委員会で支援が必要と判断されているのは3割弱です。
この数字は
誰かの怠慢を示すものではありません。困難の程度も、必要な支援も、一人ひとり違うからです。
ただし——
担任が気づいていることと、校内の手続きに乗ることのあいだには、距離があるという実態を示しています。
その距離を縮める入口が、
保護者からの相談である場合があります。
🔴🔴 国の手引も「見落とされやすさ」を書いています
文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引」より(知的障害の章)
「なお、知的機能の発達の遅れが軽度な場合は、就学時健康診断などでも『知的障害はない』と判断される場合が多く見られ、小学校入学後に授業についていけずに自己肯定感が低下し、二次的な障害が生じることもあることから、十分な注意が必要である。」そして——
「発達検査や知能検査上、軽度の遅れの段階にある子供の判断は、経過を追いつつ慎重にする必要がある。」
同じ手引(学習障害の章)
「学習障害は、障害そのものの社会的な認知が十分でなく、また、一部の能力の習得と使用のみに困難を示すものであるため、『単に学習が遅れている』あるいは『本人の努力不足によるもの』とみなされてしまったり、子供自身が周囲に気付かれないようにカモフラージュしたりするなどの状況から、障害の存在が見逃されやすい。」
同じ手引(ADHDの章)
「注意欠陥多動性障害のない子供においても、不注意又は衝動性・多動性の状態を示すことがあることから、……『故意に活動や課題に取り組もうとしない』『怠けている』などとみなされてしまい、障害の存在が見逃されやすい。」
🔴 三つの章に、それぞれ「見逃されやすい」と書かれています。気になっているのに何も言われない、という状態は、国の文書が想定している状態です。
支援を考える目安として、確認できたもの
「どのくらいなら相談してよいか」の線は、確認できた一次情報にありません。ただし、米国言語聴覚協会(ASHA)が挙げている支援を検討する三つの目安は、そのままお伝えできます。
🔴🔴 三つの目安
① 機会を制限する(できるはずのことをする機会が狭まっている)
② 苦痛や不快をもたらす(本人がつらい)
③ 自己管理に影響する(自分で立て直しにくくなっている)
🔴
三つに「診断があるか」も「程度が重いか」も入っていません。
また、こども家庭庁の児童発達支援ガイドラインは、アセスメントについて「標準化されたツールを用いたフォーマルなアセスメント」と「日々の行動観察なども含むインフォーマルなアセスメント」を並べて挙げています。検査だけが判断材料ではないという書き方です(→アセスメントとは?)。
相談の前に、しておけること
解釈をつけずに、見たことを日付つきで書き留める。・いつ(日付・時刻)/どの場面で
・何が起きたか(「集中していない」ではなく「10分で3回立った」)
・そのあとどうなったか
・
うまくいった日は、何が違ったか——
これは診断の材料ではなく、相談の材料です。「気のせいかもしれない」と思っている段階でも、記録は残せます。
診断がなくても使えるもの/診断や手帳が要るもの
制度によって、入口の条件が違います。
| 入口 | 条文上の扱い |
| 園・学校への配慮の相談 | 障害者差別解消法 第7条第2項・第8条第2項=「意思の表明があった場合において」始まります |
| ことばの相談(言語聴覚士) | 言語聴覚士法 第2条に検査・助言・指導が明記。診断は要件ではありません |
| 発達障害者支援センター | 発達障害者支援法 第14条。年齢で切られず、家族その他の関係者も相談できます |
| 市区町村の乳幼児健診・発達相談 | 母子保健法 第12条(1歳6か月児健診・3歳児健診) |
| 児童発達支援・放課後等デイサービス | 🟠 市区町村の通所給付決定が要ります(→受給者証について)。必要な書類は自治体により異なります |
| 手帳(療育手帳・精神障害者保健福祉手帳) | 🟠 それぞれの判定・診断が必要です(→療育手帳について) |
🔴 断定しないこと
「診断書がなくても受給者証が出るか」は、この記事では書きません。運用が市区町村によって異なり、全国共通の取り扱いを一次情報として確認できなかったためです。
お住まいの
市区町村の障害福祉の窓口に
「診断がまだないのですが、相談できますか」とそのまま尋ねるのが確実です。
この記事で書かないこと
「どこからが診断で、どこまでがグレーゾーンか」は書きません。そもそも「グレーゾーン」は法令にも国の手引にも無い言葉であり、診断は医師が行うものだからです。
チェックリストも載せません。一覧を先に読むと、日々の様子が項目の当てはめとして見えてしまうためです。
「様子を見てよいか」も書きません。ただし、国の手引が「軽度の遅れの段階にある子供の判断は、経過を追いつつ慎重にする必要がある」と書いていることと、「見逃されやすい」という記述が三つの章にあることは、事実としてお伝えできます。
受給者証の必要書類も書きません(自治体により異なります)。
どこに相談すればいいか
| 相談先 | 何のため |
| 園・学校(担任・特別支援教育コーディネーター) | 困っている場面の共有。「支援が必要と判断されているか」を尋ねることもできます |
| 市区町村の子育て・母子保健の窓口 | 乳幼児健診、発達相談 |
| 発達障害者支援センター | 発達障害者支援法 第14条。診断の有無を問わず相談できます |
| 市区町村の障害福祉の窓口 | 通所支援の利用について。「診断がまだないのですが」からで大丈夫です |
| 小児科・児童精神科など | 診断に関する判断。療育は医療ではありません |
| 親の会・ペアレントメンター | 同じ立場の人とつながる |
※本記事は一般的な情報提供です。制度の運用は自治体により異なります。診断に関する判断は医師などの専門機関にご相談ください。療育は医療ではありません。
出典
※上記の出典は2026年9月5日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。
よくあるご質問
「グレーゾーン」は正式な言葉ですか?
法令用語ではありません。e-Gov法令検索で全法令を横断して調べても該当する条文はありません(2026年9月5日確認)。国の手引にも出てこない言葉です。
診断がないと、支援は受けられませんか?
条文上、診断を入口の条件にしていない制度があります。障害者差別解消法 第2条第1号は「障害者」を「障害及び社会的障壁により継続的に……相当な制限を受ける状態にあるもの」と定義し、学校教育法 第81条第1項は「その他教育上特別の支援を必要とする」幼児児童生徒への教育を「行うものとする」としています。
「発達障害の子どもが8.8%いる」と聞きました
その読み方は、調査自身が明確に否定しています。文部科学省の令和4年調査は「本調査の結果は、発達障害のある児童生徒数の割合を示すものではなく、特別な教育的支援を必要とする児童生徒数の割合を示すものである」と留意事項に明記しています。回答者は学級担任等で、医師による診断でも専門家チームによる判断でもありません。
10年前より増えたということですか?
調査は「平成24年調査とは対象地域や一部質問項目等が異なるため、単純比較することはできない」としています。
担任は気にしているようですが、学校からは何も言われません
同じ調査によれば、担任が「著しい困難を示す」と回答した児童生徒のうち校内委員会で特別な教育的支援が必要と判断されているのは28.7%、判断されていないのが70.6%でした。担任が気づいていることと、校内の手続きに乗ることのあいだには距離があります。保護者からの相談が、その入口になることがあります。
「様子を見ましょう」と言われました
この記事では様子を見てよいかを書きません。ただし国の手引は「軽度の遅れの段階にある子供の判断は、経過を追いつつ慎重にする必要がある」としており、また「見逃されやすい」という記述が知的障害・学習障害・ADHDの三つの章それぞれにあります。
どのくらいなら相談してよいのでしょうか?
線は確認できた一次情報にありません。ただし米国言語聴覚協会(ASHA)が挙げる目安は①機会を制限する ②苦痛や不快をもたらす ③自己管理に影響するの三つで、🔴「診断があるか」も「程度が重いか」も入っていません。
相談の前に、しておけることはありますか?
解釈をつけずに、見たことを日付つきで書き留めることです。「集中していない」ではなく「10分で3回立った」のように。うまくいった日は何が違ったかも書き添えると、相談の場でそのまま使えます。
受給者証は、診断書がないと出ませんか?
この記事では書きません。運用が市区町村によって異なり、全国共通の取り扱いを確認できなかったためです。「診断がまだないのですが、相談できますか」と市区町村の障害福祉の窓口にそのままお尋ねください。
ことばの相談は、診断がないとできませんか?
法律上はできます。言語聴覚士法 第2条には検査・助言・指導が明記され、医師の指示が必要な行為は第42条で限定されています。(理学療法士・作業療法士は、定義そのものに「医師の指示の下に」が入っており、職種によって条文の作りが違います。)
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。
お子さまのこと、専門スタッフに相談してみませんか
のびのび発達ラボを運営する児童発達支援てらぴぁぽけっと早稲田教室(東京都新宿区・早稲田駅徒歩1分)には、言語聴覚士・公認心理師・精神保健福祉士・保育士など多職種の専門スタッフが在籍しています。見学・ご相談は、診断の有無に関わらず承ります。