国の手引の記述
手引より(定義)
「注意欠陥多動性障害とは、典型的には、年齢あるいは発達に不釣合いな程度において、以下のような不注意又は衝動性・多動性の状態を継続して示し、それらが社会的な活動や学校生活を営む上で著しい困難を示す状態を指す。」
この一文には、三つの条件が畳み込まれています。
| 条文の言葉 | 意味するところ |
| 年齢あるいは発達に不釣合いな程度において | 同じ年齢の子と比べて、という相対的な見方。絶対的な基準ではありません |
| 継続して示し | 一時的な様子ではない。手引は状態の把握にあたって、続いているかを見るとしています |
| 社会的な活動や学校生活を営む上で著しい困難を示す | 🔴暮らしに困難が出ているかどうか。行動の派手さではありません |
手引が挙げている三つの領域は、次のように説明されています。
| 領域 | 手引の説明 |
| ア 不注意 | 気が散りやすく、注意を集中させ続けることが困難であったり、必要な事柄を忘れやすかったりすること |
| イ 衝動性 | 話を最後まで聞いて答えることや順番を守ったりすることが困難であったり、思いつくままに行動して他者の行動を妨げてしまったりすること |
| ウ 多動性 | じっとしていることが苦手で、過度に手足を動かしたり、話したりすることから、落ち着いて活動や課題に取り組むことが困難であること |
🔴 評価の項目一覧は載せません
手引には、状態の把握のための
設問の一覧も掲載されています。
この記事には載せません。判断は、医療・保健・福祉などの関係機関や専門家チーム、学校の校内委員会などの体制の中で行われるものとして手引が書いているためです。
——
一覧を先に読むと、日々の様子が項目の当てはめとして見えてしまいます。
法律の定義は「社会的障壁」とセットです
ADHDは、発達障害者支援法 第2条第1項に「注意欠陥多動性障害」として名指しで挙げられています。そして同条第2項が、こう続きます。
発達障害者支援法 第2条第2項・第3項
第2項:「『発達障害者』とは、発達障害がある者であって
発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいい……」
第3項:「『社会的障壁』とは、……
社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。」
🔴
本人の状態だけでは、定義が完成していません。そして第3項の「慣行」には、
「全員が同じ時間、同じ姿勢で座っている」という運用も含まれ得ます(→
発達障害とは?)。
同法 第2条の2第2項は、支援について「社会的障壁の除去に資することを旨として、行われなければならない」としています。
🔴 学校の制度では、明記されています
制度によって、条文の書き方が違います。ADHDについては、こうです。
| 制度 | 条文での扱い |
通級による指導 (学校教育法施行規則 第140条) | 🔴第7号「注意欠陥多動性障害者」として明記されています(対象八区分の一つ) |
特別支援学級 (学校教育法 第81条第2項) | 六区分に名前はなく、第6号「その他障害のある者で、特別支援学級において教育を行うことが適当なもの」に含まれます |
特別支援学校 (学校教育法 第72条) | 五区分に名前はありません |
🔴 通級の授業時数だけ、扱いが違います
文部科学省の手引によれば、通級による指導の年間の授業時数は
おおむね35〜280単位時間が標準ですが——
第6号(学習障害)と第7号(注意欠陥多動性障害)だけ「10〜280単位時間」と、下限が低く定められています。
——
週に1単位時間に満たない頻度でも制度上は成り立つという設計です(→
通級による指導とは?)。
また文部科学省の通知(令和4年4月27日)は、通級の実施形態について「自校通級や巡回指導を一層推進することが望ましい」としています。他校通級しか案内がなかった場合、巡回指導という形があるかを尋ねる余地はあります。
🔴🔴 手引が書いている「見逃されやすさ」
手引より
「注意欠陥多動性障害は、障害そのものの社会的認知が十分でなく、また、注意欠陥多動性障害のない子供においても、不注意又は衝動性・多動性の状態を示すことがあることから、注意欠陥多動性障害のある子供は、『故意に活動や課題に取り組もうとしない』『怠けている』あるいは『自分勝手な行動をしている』などとみなされてしまい、障害の存在が見逃されやすい。」
国の文書が、実際に言われがちな三つの言葉をそのまま引用して「そう見なされてしまう」と書いています。
手引が求めていること
「まずは、これらの行動が障害に起因しており、その特性に応じた指導及び支援が必要であることを保護者や学校教育関係者が認識する必要がある。」「特に、早期からの適切な対応が効果的である場合が多いことから、低学年の段階で学級担任がその特性を十分に理解し、適切な指導や必要な支援の意義を認識することが重要である。」
🔴🔴 手引は、叱責の積み重ねの行き先まで書いています
ここは、そのまま引きます。
手引より
「……衝動的に行動し、人やものにぶつかったり、危険な行動につながったりしてしまい、結果的に人とのトラブルになってしまうことも見られる。そのため、周囲の大人から行動を強く規制されたり、注意や叱責を受けたりする場面が増える可能性が高い。」「もちろん、危険な行為は制止する必要はあるが、このような関わりの繰り返しにより、自己肯定感が低下し、『自分はどうせ、何をやっても叱られる』『やりたいことは大人に禁止されてばかりだ』といった自己肯定感の低い投げやりな気持ちや無力感に陥ってしまう可能性が高くなる。」
手引が挙げている対応
「そのためには、注意や叱責をするよりも、望ましい行動を具体的に示したり、行動の良い面を見つけたらすぐに褒めたりすることが効果的である。」——
「すぐに」と書かれています(→
ほめ方について)。
そして手引は、その先についても書いています。「注意や叱責が重なり自分を否定的に捉えてしまったりして、行動改善につながらないだけでなく自尊感情の低下、対人関係や生活面でのストレス等により、反抗などの素行の問題あるいは不安やうつ症状を伴う二次的な障害につながるケースもある。」(→二次障害とは?)
🔴 予防として書かれていること
「このような状態を未然に防ぐためにも、対人関係に関する技能を習得するなかで、自分の特性に気付き、自分を認め、生活する上で必要な支援を求めることができるようにすることが大切である。」——
「支援を求めることができるようにする」。困りごとを減らすことだけでなく、
助けの求め方を身につけることが目標として書かれています。
園や学校に伝えるとき
配慮の提供は、法律上本人・保護者の側から言い出したときに始まります(障害者差別解消法 第7条第2項・第8条第2項=「その旨の意思の表明があった場合において」)。
- 場面を特定する——「朝の支度」「作文の時間」「休み時間から授業への切り替え」など
- そのとき何が起きているかを、解釈をつけずに書き留める——日付と時刻つきで
- うまくいっている場面も一緒に伝える——手引は「行動の良い面を見つけたらすぐに褒める」ことを挙げています
- 環境の側でできることを一緒に出す——座席、手順の示し方、課題の量、持ち物の置き場所
- いつ見直すかを決める——「一学期試して面談で見直す」と期限を添える
🔴 「困った行動を減らす」だけを目標にしない
こども家庭庁の
児童発達支援ガイドラインは、行動障害への予防及び対応について、それが
「感覚や認知の偏り、コミュニケーションの困難性から生ずる」ものとして記述しています。
——
出どころが三つ挙げられています。行動そのものを止めることは、そのうちのどれにも触れていないかもしれません(→
かんしゃくが起きるとき)。
この記事で書かないこと
診断基準・評価の設問一覧・「当てはまるかどうか」は書きません。手引はそれらを、専門家チームや校内委員会などの体制の中で用いるものとしています。
「元気すぎる子」との線引きも書きません。手引自身が「注意欠陥多動性障害のない子供においても、不注意又は衝動性・多動性の状態を示すことがある」と書いており、行動の有無で分けられるものとしては記述されていないためです。
薬に関することは書きません。医師の判断によるものです。
指導法の効果も書きません。ただし、手引が「注意や叱責をするよりも、望ましい行動を具体的に示したり、行動の良い面を見つけたらすぐに褒めたりすることが効果的である」と書いていることは、事実としてお伝えできます。
どこに相談すればいいか
| 相談先 | 何のため |
| 小児科・児童精神科など | 診断と、薬を含む治療に関する判断。療育は医療ではありません |
| 園・学校(担任・特別支援教育コーディネーター) | 配慮の相談。合理的配慮は「意思の表明があった場合」に始まります |
| 市区町村教育委員会 | 通級による指導の相談(自校通級・他校通級・巡回指導のどれがあるか) |
| 発達障害者支援センター | 発達障害者支援法 第14条。年齢で切られず、家族その他の関係者も相談できます |
| 市区町村の障害福祉の窓口 | 児童発達支援・放課後等デイサービスの利用(→受給者証について) |
| 親の会・ペアレントメンター | 同じ立場の人とつながる |
※本記事は一般的な情報提供です。診断・治療に関する判断は医師などの専門機関にご相談ください。療育は医療ではありません。
出典
※上記の出典は2026年9月5日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。
よくあるご質問
この記事に診断基準は載っていますか?
載せていません。診断は医師が行うものであり、手引が掲載している評価の設問一覧も専門家チームや校内委員会などの体制の中で用いるものとされているためです。
元気な子とADHDは、どう違うのですか?
この記事では線引きを書きません。国の手引自身が「注意欠陥多動性障害のない子供においても、不注意又は衝動性・多動性の状態を示すことがある」と書いており、行動の有無で分けられるものとしては記述されていないためです。
手引の定義は、どうなっていますか?
「年齢あるいは発達に不釣合いな程度において……不注意又は衝動性・多動性の状態を継続して示し、それらが社会的な活動や学校生活を営む上で著しい困難を示す状態」です。「年齢との相対」「継続」「暮らしの困難」の三つが入っています。
学校の制度では、どう扱われますか?
通級による指導(学校教育法施行規則 第140条)では第7号「注意欠陥多動性障害者」として明記されています。一方、特別支援学級(学校教育法 第81条第2項)の六区分には名前がなく、第6号「その他」に含まれます。
通級の時間は、どのくらいですか?
文部科学省の手引によれば標準は年間おおむね35〜280単位時間ですが、第6号(学習障害)と第7号(注意欠陥多動性障害)だけは「10〜280単位時間」と下限が低く定められています。
叱ってばかりで、悪循環になっている気がします
国の手引も、その循環を明記しています——「注意や叱責を受けたりする場面が増える可能性が高い」「『自分はどうせ、何をやっても叱られる』……といった自己肯定感の低い投げやりな気持ちや無力感に陥ってしまう可能性が高くなる」。そのうえで「望ましい行動を具体的に示したり、行動の良い面を見つけたらすぐに褒めたりすることが効果的」としています。
二次障害が心配です
手引は、自尊感情の低下や対人関係・生活面のストレスから「反抗などの素行の問題あるいは不安やうつ症状を伴う二次的な障害につながるケースもある」としています。予防として挙げられているのは「自分の特性に気付き、自分を認め、生活する上で必要な支援を求めることができるようにする」ことです。
薬について知りたいのですが
この記事では書きません。医師の判断によるものです。小児科・児童精神科などにご相談ください。
園や学校に、どう伝えればよいですか?
合理的配慮は「その旨の意思の表明があった場合において」始まると条文にあります。場面を特定して、そのとき何が起きているかを解釈をつけずに伝えることが出発点です。うまくいっている場面も一緒にお伝えください。
行動を減らすことが目標になってしまいます
こども家庭庁の児童発達支援ガイドラインは、行動障害を「感覚や認知の偏り、コミュニケーションの困難性から生ずる」ものとして記述しています。出どころが三つ挙げられています。行動そのものを止めることは、そのどれにも触れていないかもしれません。
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。
お子さまのこと、専門スタッフに相談してみませんか
のびのび発達ラボを運営する児童発達支援てらぴぁぽけっと早稲田教室(東京都新宿区・早稲田駅徒歩1分)には、言語聴覚士・公認心理師・精神保健福祉士・保育士など多職種の専門スタッフが在籍しています。見学・ご相談は、診断の有無に関わらず承ります。