法律の定義を、二つに分けて読みます
| 条 | 書かれていること |
| 第2条第1項 | 「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの |
| 第2条第2項 | 🔴「発達障害者」とは、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるもの |
| 第2条第3項 | 「社会的障壁」とは、……日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの |
🔴 第3項に「慣行」と「観念」が入っています
社会的障壁は、段差やスロープの話だけではありません。条文が並べているのは
「事物、制度、慣行、観念その他一切のもの」。
——
「みんな同じようにするもの」という慣行も、
「こうあるべき」という観念も、法律上の社会的障壁です。
だから、支援は
本人を変えることだけを意味しません。第2条の2第2項は
「発達障害者の支援は、社会的障壁の除去に資することを旨として、行われなければならない」としています。
また第2条の2第1項は、基本理念として「全ての発達障害者が社会参加の機会が確保されること及びどこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないことを旨として」としています。
🔴🔴 学会も、二つのモデルを並べて書いています
米国言語聴覚協会(ASHA)の自閉症のページは、支援にあたる人が知っておくべきこととして「障害の二つのモデル」を並べて記述しています。
| モデル | ASHAの記述(要旨) |
| 医学モデル | 障害を欠損・不調のレンズで見る。「典型的」「正常」とされる身体や神経のあり方が、介入やサービスの到達点になる(Gaddy & Crow, 2023)。医療保険など、多くの財源はこのモデルで支給の可否を判断する |
| 社会モデル | 障害を生活の自然な一部と見る。人は生まれつきの「欠陥」によって障害を負うのではなく、違いに対する社会の態度、有効なアクセシビリティと支援の不足、そして社会の多数派による包摂の欠如によって障害を負う |
🔴 日本の法律は、どちらに近いか
発達障害者支援法 第2条第2項は
「発達障害及び社会的障壁により……制限を受けるもの」と書いています。
——
二つを掛け合わせた定義です。本人の状態だけでも、社会の側だけでもありません。
ASHAも、社会モデルを踏まえる臨床家は
強みを活かすアプローチ(strengths-based approaches)、
配慮(accommodations)、
本人を中心に据えたケアを用いるとしています。
国の手引が書いている「基本的な障害特性」
文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引」(令和3年6月改訂)は、自閉症についてこう記述しています。
手引より
「自閉症とは、①他者との社会的関係の形成の困難さ、②言葉の発達の遅れ、③興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする発達の障害である。その特徴は、3歳くらいまでに現れることが多いが、成人期に症状が顕在化することもある。中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定されている。」そして——
「なお、高機能自閉症とは、知的発達の遅れを伴わない自閉症を指す。」
手引はさらに、併存についても書いています。「自閉症においては、知的障害、言語障害、注意欠陥多動性障害、学習障害や不安症など、様々な併存症が報告されている。……これらの併存の有無を確認するなど、子供一人一人の特性を理解することが重要とされる。」
🔴 用語について
法律(発達障害者支援法 第2条第1項)と国の手引は、いまも
「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」という語を使っています。
医療の診断名としては
「自閉スペクトラム症(ASD)」が使われます。
制度の書類と診断書で言葉が違うことがあります。これは食い違いではなく、
それぞれの文書が拠って立つものが違うためです。
🔴🔴 ASHAは「そう見えること」と「支援を検討すること」を分けています
ASHAの自閉症のページの書き方は、たいへん特徴的です。同じ領域について二つの見出しを立てています。
| 見出し | 意味 |
| “might look like”(そう見えることがある) | 自閉症の人によく見られるあらわれ方。それ自体は支援の必要を意味しません |
| “might require skilled services”(専門的な支援を要しうる) | 専門職の関わりを検討する状況 |
実例——共同注意の欄
“might look like”(そう見えることがある)・みんなが集団活動をしているとき
一人遊びを好むが、その部屋には残っている・
目を合わせるのではなく、共有された物や活動のほうに注意を向ける(縄跳びをしている子のそばで縄を回す、など)
・活動を楽しんでいることを、体の動きや表情の変化で示す
——
どれも「できていない」とは書かれていません。そういう形で参加しているという記述です(→
共同注意とは?)。
実例——行動と感情の欄
“might look like”・泣いている友達を見て
一緒に泣くふりをする・stimming(自己刺激)や没頭と考えられる反復的なパターン
——自傷行動は含まない(Kapp et al., 2019)
・
強い感情を感じているときに、自分から好きな調整の活動を始める——
最後の一つは、明らかに「力」として書かれています。
🔴🔴 支援を検討する三つの目安
反復的な行動・興味・活動のうち、専門的な支援を検討するものとしてASHAが挙げているのは、次の三つに当てはまるものです——
① 機会を制限する(restrict opportunities)② 苦痛や不快をもたらす(contribute to distress or discomfort)③ 自己管理に影響する(impact self-management)🔴
三つに「こだわりの強さ」も「回数の多さ」も入っていません。見るのは
その子にとってどうかです(→
こだわりが強いとき)。
🔴🔴 「共感がない」は、学会が否定しています
ここは、はっきり書かれています。
ASHAより
「社会は自閉症の行動を誤解し、自閉症の人には共感が欠けているという固定観念を続けている。自閉症の人には共感がある。ただし、思いやりの示し方が慣習的でないことがある」(DeThorne, 2020)
そして、行き違いの見方についても——
二重の共感の問題(double empathy problem)
「自閉症の人と、定型発達のコミュニケーション相手とのあいだで社会的コミュニケーションの行き違いが頻繁に起こるのは、互いに異なる視点・世界の見え方・社会的な捉え方からコミュニケーションしているためである」(Milton, 2012)
さらに——
自閉症の人のコミュニケーションは、自閉症でない人と話すときのほうが(自閉症の人どうしで話すときより)目立って見える(Crompton et al., 2020)
🔴
行き違いは、双方向のものとして書かれています。
ASHAはまた、こうも書いています——「自閉症についての地域社会の認識の乏しさと、自閉スペクトラムの人と関わる機会の不足が、行動の誤解や誤った受け取り方につながることがある」。これは社会的障壁そのものの記述です。
同じ診断名でも、同じ人はいません
ASHAより
「自閉症の人は、幅広い能力と経験をもつ。能力は、著しい認知面・言語面の困難から、平均を上回る認知能力・言語能力までにわたる。」「以下は領域ごとによく見られる特徴である。困難を示す具体的な領域は人によって異なる。同じ人は一人としていない。」
だからこそ、診断名を知ることと、その子を知ることは別のことです。国の手引も、自閉症について「子供一人一人の特性を理解することが重要」としています。
支援の考え方
ASHAは、言語聴覚士の役割をこう書いています——
「自閉症の人がもつ、自閉症でない同年代とは違って見えるかもしれない力を観察し、記録する。その強みを使って新しい力を築くことを助ける」そして、支援が要るのは
その人の日々の暮らしに悪い影響を与えている領域とされています。
——ここでも、基準は
その人にとってどうかです。
この記事で書かないこと
診断基準・チェックリスト・「当てはまるかどうか」の一覧は書きません。診断は医師が行うものであり、また一覧を先に読むとお子さまの日々の様子が、項目の当てはめとして見えてしまうからです。
原因も書きません。国の手引は「中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定されている」としており、それ以上は確認できた一次情報にありません。
療育や指導法の効果も書きません。効果がないという意味ではなく、ここでは判断しないという意味です。
書けるのは、法律と国の手引と学会が何と書いているかまでです。
どこに相談すればいいか
| 相談先 | 何のため |
| 小児科・児童精神科など | 診断に関する判断。療育は医療ではありません |
| 市区町村の子育て・母子保健の窓口 | 乳幼児健診、発達相談(→発達検査について) |
| 発達障害者支援センター | 発達障害者支援法 第14条。年齢で切られず、家族その他の関係者も相談できます |
| 市区町村の障害福祉の窓口 | 児童発達支援・放課後等デイサービスの利用(→受給者証について) |
| 園・学校 | 配慮の相談。合理的配慮は「意思の表明があった場合」に始まります |
| 親の会・ペアレントメンター | 同じ立場の人とつながる |
※本記事は一般的な情報提供です。診断に関する判断は医師などの専門機関にご相談ください。療育は医療ではありません。
出典
- 発達障害者支援法(平成16年法律第167号)/e-Gov法令検索第2条第1項(発達障害の定義=自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害)/第2項(発達障害者=発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるもの)/第3項(社会的障壁=事物、制度、慣行、観念その他一切のもの)/第2条の2(基本理念=社会参加の機会/どこで誰と生活するかについての選択の機会/社会的障壁の除去に資することを旨として)
- American Speech-Language-Hearing Association「Autism」(Practice Portal)The Models of Disability(医学モデル=欠損・不調のレンズ、「典型的」「正常」なあり方が介入の到達点/社会モデル=人は生まれつきの「欠陥」ではなく、違いに対する社会の態度・アクセシビリティと支援の不足・多数派による包摂の欠如によって障害を負う)/Common Characteristics(幅広い能力と経験/同じ人は一人としていない)/“might look like”と“might require skilled services”の区別/支援を検討する三つの目安(機会を制限する・苦痛や不快をもたらす・自己管理に影響する)/自閉症の人には共感がある、ただし思いやりの示し方が慣習的でないことがある(DeThorne, 2020)/二重の共感の問題(Milton, 2012/Crompton et al., 2020)/stimmingに自傷行動は含まない(Kapp et al., 2019)
- 文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引~子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて~」(令和3年6月改訂)第3編Ⅶ 自閉症(基本的な障害特性=①他者との社会的関係の形成の困難さ②言葉の発達の遅れ③興味や関心が狭く特定のものにこだわること/3歳くらいまでに現れることが多いが成人期に顕在化することもある/中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定されている/高機能自閉症は知的発達の遅れを伴わない自閉症/知的障害・言語障害・注意欠陥多動性障害・学習障害や不安症などの併存症/二次的な障害として情緒不安や不登校、ひきこもり、自尊感情や自己肯定感の低下等が起きやすい)
- こども家庭庁「各種ガイドライン・手引き等について」(児童発達支援ガイドライン 令和6年7月)本人支援の5領域/支援を行うに当たっての環境(時間や空間を本人にわかりやすく構造化すること)/留意事項⑦(単に運動機能や検査上に表される知的能力にとどまらず、こどものできること、得意なこと及び可能性に着目し可能性を拡げること)
- 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)/e-Gov法令検索第7条第2項・第8条第2項(合理的配慮=意思の表明があった場合において、負担が過重でないとき)/第2条第2号(社会的障壁に「慣行」が含まれる)
※上記の出典は2026年9月5日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。
よくあるご質問
この記事に診断基準は載っていますか?
載せていません。診断は医師が行うものであり、また一覧を先に読むと日々の様子が項目の当てはめとして見えてしまうためです。気になることがあれば、小児科・児童精神科などにご相談ください。
法律の定義は、どうなっていますか?
発達障害者支援法 第2条第2項は「発達障害者」を「発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるもの」と定義しています。本人の状態だけでは定義が完成していません。
「社会的障壁」とは、段差のようなもののことですか?
それも含みますが、それだけではありません。同法 第2条第3項は「事物、制度、慣行、観念その他一切のもの」としています。「みんな同じようにするもの」という慣行も、法律上の社会的障壁です。
こだわりが強いと、支援が必要ということですか?
ASHAが挙げる目安は三つです——①機会を制限する ②苦痛や不快をもたらす ③自己管理に影響する。🔴この三つに「こだわりの強さ」も「回数の多さ」も入っていません。
目を合わせないことが心配です
ASHAは、共同注意が“そう見えることがある”形として「目を合わせるのではなく、共有された物や活動のほうに注意を向ける」(縄跳びをしている子のそばで縄を回す、など)を挙げています。目を合わせないこと=伝え合っていない、ではありません。
「自閉症の人には共感がない」と聞いたことがあります
ASHAは、それを固定観念として明確に否定しています——「自閉症の人には共感がある。ただし、思いやりの示し方が慣習的でないことがある」(DeThorne, 2020)。
診断名は「自閉症」ですか「ASD」ですか?
文書によって違います。発達障害者支援法 第2条第1項と国の手引は「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」という語を使い、医療の診断名としては「自閉スペクトラム症(ASD)」が使われます。食い違いではなく、拠って立つ文書が違うためです。
同じ診断でも、子どもによってずいぶん違うようです
ASHAは「自閉症の人は幅広い能力と経験をもつ」とし、「困難を示す具体的な領域は人によって異なる。同じ人は一人としていない」と明記しています。
併存する障害はありますか?
国の手引は「知的障害、言語障害、注意欠陥多動性障害、学習障害や不安症など、様々な併存症が報告されている」とし、医学的併存疾患としててんかんを合併しやすいことも報告されているとしています。併存の有無の確認は医療機関にご相談ください。
療育を受ければ、特性はなくなりますか?
この記事では効果を書きません。確認できた一次情報にその記述がないためです。効果がないという意味ではなく、ここでは判断しないという意味です。なお、発達障害者支援法 第2条の2第2項は支援について「社会的障壁の除去に資することを旨として」行われなければならないとしています。
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。
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