散髪・爪切り・耳そうじは、困っていても口に出しにくい種類の困りごとです。命に関わるわけではなく、園で問題になるわけでもなく、家の中で終わってしまう。だから何年も、誰にも言わないまま続けているご家庭があります。
けれど国の文書のほうを開くと、この場面はきちんと名前を持って載っています。こども家庭庁の児童発達支援ガイドライン(令和6年7月)は、事業所が行う「本人支援」を五つの領域に整理していて、そのうち「健康・生活」の支援内容に、次の一文があります。
「こどもが食事、排泄、睡眠、衣類の着脱、身の回りを清潔にすること等の生活に必要な基本的技能を獲得できるよう、生活の場面における環境の工夫を行いながら、こどもの状態に応じて適切な時期に適切な支援をする」
読みどころは二つです。ひとつは「身の回りを清潔にすること」が支援の対象としてはっきり書かれていること。もうひとつは、方法として最初に挙がっているのが「がんばらせる」ではなく「環境の工夫」だということです。
同じガイドラインの「家族支援」の欄には、支援内容として「こどもの抱き方や食事のとり方等の具体的な介助方法についての助言・提案」が挙げられています。つまり、家庭での具体的なやり方について助言を受けることは、事業所が行う支援の中にもともと含まれている、ということです。「そこまで聞いていいのか」と迷う必要はありません。
同じガイドラインには、事業所に対するこういう定めも書かれています。
「職員が自分の体でこどもを押さえつけて行動を制限することや、自分の意思で開けることのできない居室等に隔離すること等は身体拘束に当たり、運営基準により、障害のあるこどもや他の障害のあるこどもの生命又は身体を保護するために緊急やむを得ない場合を除き、禁止されている」
やむを得ず行う場合も「切迫性、非代替性、一時性」の三つの要件を全て満たすことが求められる、と続きます。
これは事業所に対する運営基準の話であって、ご家庭に同じ基準がかかるわけではありません。ただ、ここから分かることがあります。専門職の側は「押さえつける」以外のやり方を考えるところから仕事を組み立てている、ということです。だから、押さえないと終わらないという話を持ち込んでも、驚かれることはありません。むしろそれは、一緒に考える材料そのものです。
※ この記事は一般的な情報提供です。爪や耳の状態について、処置が必要かどうか・どう処置するかの判断は医療の領域です。この記事はそこには立ち入らず、受け入れやすくするための工夫と相談できる先だけを扱います。
「散髪が苦手」とひとことで言うと、打つ手がありません。実際にはこの場面には、まったく別のことがいくつも同時に起きています。どれが苦手なのかが分かると、外せるものが出てきます。
| この場面に含まれているもの | その子に何を求めているか |
|---|---|
| 音 | バリカンのモーター音、はさみが耳のそばで鳴る音、ドライヤー、店内のBGM。 → 音が続くあいだ、逃げずにいることを求めています |
| 振動 | バリカンが頭皮に当たる振動、髪を引く感覚。 → 音とは別物です。音が平気でも振動がだめということが起こります |
| 切られる感覚・毛が当たる感覚 | 切った毛が首や背中に落ちる、ケープが首に触れる、濡れる、タオルが顔にかかる。 → 不快なものが体に触れているのを、終わるまで許すことを求めています |
| 見えないところを触られる | 後頭部・襟足・耳のうしろ・爪の先・耳の中。すべて自分では見えない場所です。 → 何をされているか分からない状態を受け入れることを求めています |
| 見通しが立たない | いつ終わるのか、あと何回なのかが分からない。「もうすぐ終わるよ」は毎回言われ、毎回終わりません。 → 終わりが見えないまま待つことを求めています |
| 姿勢の保持 | じっと座る、あごを引く、頭を倒す、手を膝に置いたままにする。 → 自分の体を、他人の都合に合わせて止めておくことを求めています |
| 場所と人 | 知らない店、知らない大人、鏡に映る自分、順番待ち。 → 初めての環境で、初めての人に体をあずけることを求めています |
こうして並べると、「散髪が苦手」は七つくらいの別々の課題が束になったものだと分かります。全部が苦手な子は、実はそう多くありません。音だけのこともあれば、見通しだけのこともあります。だから最初にやることは、練習ではなく切り分けです。
児童発達支援ガイドラインは、五領域のうち「運動・感覚」のねらいに「姿勢と運動・動作の基本的技能の向上」「保有する感覚の活用」「感覚の特性への対応」を挙げ、<感覚の特性への対応>の支援内容をこう書いています。
「感覚の特性(感覚の過敏や鈍麻)を踏まえ、感覚の偏りに対する環境調整等の支援を行う」
書かれているのは環境調整であって、「慣れさせる」ではありません。
同じガイドラインは、発達障害のあるこどもへの配慮としても「予定等の見通しをわかりやすくすることや、感覚の特性(感覚の過敏や鈍麻)に留意し、安心できる環境づくりが必要である」「具体的又は視覚的な手段を用いながら、活動や場面の理解を促すこと」と書いています。「健康・生活」の欄には「障害の特性に配慮し、時間や空間を本人に分かりやすく構造化する」という一文もあります。
※ 感覚の受け取り方そのもの(過敏・鈍麻・混合したパターン)については、感覚過敏——「敏感すぎる」ではなく、受け取り方が違うということ にまとめてあります。この記事では、その一般論はくり返さず、身だしなみの場面だけを扱います。
どちらが正しいということはありません。切り分けた結果、どの部品が苦手だったかで選び方が変わります。
| 家で切る | 店に行く |
|---|---|
| 向いていること ・場所と人が知っているものなので、そこは課題から外れます ・途中でやめられます。今日は前髪だけ、で終わってよい ・好きな動画を見ながら、抱っこのまま、風呂場で——やり方を自由に決められます ・待ち時間がありません | 向いていること ・短時間で仕上がるので、つらい時間そのものが短くなります ・道具と技術が違うので、引っぱられる感覚が少ないことがあります ・家の人が「いやなことをする人」にならずにすみます ・事前に特性を伝えておけば、席や時間帯を調整してもらえることがあります |
| つまずきやすいところ ・毎日いる人が毎回いやなことをする人になり、その後の抱っこや歯みがきにまで警戒が広がることがあります ・仕上がりが気になって、つい「あと少し」と続けてしまいます ・押さえる役ともう一人が要ることが多く、人手が要ります | つまずきやすいところ ・待ち時間、鏡、知らない人、音——課題が一度に増えます ・途中でやめにくい空気になります ・混んでいる時間帯だと、待つこと自体が本番より重くなります |
ガイドラインが書いているのは「適切な時期に適切な支援をする」です。期限は書かれていません。今日の目標を「髪型が仕上がること」ではなく「いやな記憶を増やさずに終わること」に置き換えると、翌月の1回目が楽になります。
「うちの子はお店では無理だ」と思ったときに、知っておく価値のある枠組みがあります。理容・美容はお店でしか行えないのが原則ですが、法律に例外の定めがあります。
| 条文 | 書かれていること |
|---|---|
| 理容師法 第6条の2 昭和22年法律第234号 | 「理容師は、理容所以外において、その業をしてはならない。但し、政令で定めるところにより、特別の事情がある場合には、理容所以外の場所においてその業を行うことができる。」 → 原則は店の中。ただし政令の定める場合は外でもよい、という構えです |
| 理容師法施行令 第4条 昭和28年政令第232号。美容師法施行令 第4条もほぼ同じ文言です | 理容所以外で業を行える場合の第一号が「疾病その他の理由により、理容所に来ることができない者に対して理容を行う場合」。 第三号は「都道府県(……特別区にあつては、市又は特別区)が条例で定める場合」——つまり自治体が上乗せできる仕組みです |
問題は「疾病その他の理由」が何を指すかです。ここについて東京都保健医療局のページが、厚生労働省の通知(平成28年3月24日付 生食衛発0324第1号)の内容を引いて、次のように書いています。
「疾病の状態にある場合のほか、骨折、認知症、障害、寝たきり等の要介護状態にある等の状態にある者であって、その状態の程度や生活環境に鑑み、社会通念上、理容所又は美容所に来ることが困難であると認められるもの」
同じページは、東京都で出張理容・出張美容が認められる場合として、この「来ることができない者」のほかに「婚礼その他の儀式の直前」「山間部等における理容所・美容所のない地域」「社会福祉施設等において、その入所者に対して施術を行う場合」「演劇に出演する者等」を挙げ、根拠規定として理容師法施行令第4条・美容師法施行令第4条(政令)と、理容師法施行条例第4条・美容師法施行規則第4条(都条例)を示しています。
「障害」という語が、国の通知の側にはっきり書かれている——これがこの節でいちばん大事な事実です。出張理容・出張美容は、寝たきりの高齢者だけのものとして設計されているわけではありません。ただし条文が置いているのは「社会通念上、来ることが困難であると認められる」という判断であって、どの状態なら該当するかを一律に線引きした文書は、今回見つけられませんでした。実際に頼めるかどうかは、店や保健所に聞いて確かめることになります。
全国理容生活衛生同業組合連合会(47都道府県の理容組合を会員とする全国団体)は、公式サイトで次の二つを掲げています。
| 取り組み | 公式サイトに書かれている内容 |
|---|---|
| ケア理容師 | 「高齢者や障害者に安全で快適な理容サービスを提供するために生まれた制度」。理容店に来店する高齢者・障害者へのサービスと、在宅・施設での訪問理容サービスに焦点を絞った研修を修了した者に、全国理容連合会とシルバーサービス振興会から修了証と店舗表示用マークが交付されます。「理容の技術だけでなく、そうしたお客さまの身体状況や障害の特性に応じた対応をするための知識や技術を修得した」と説明されています。 同サイトに「全国ケア理容師(サロン)名簿」が地域別に置かれています |
| 訪問福祉理容 | 「訪問福祉理容に必要な知識と技術を身につけた理容師が全国各地で誕生し、地域の高齢者や障がい者の要望にお応えできる体制作りを進めています」。 同サイトに「全国訪問福祉理容師名簿」が置かれています |
区が費用を助成する訪問理美容サービスは、23区にもあります。ただし対象がはっきり限定されています。実際に公式ページを開いて確かめた二つを挙げます。
| 区と事業名 | 公式ページに書かれている対象と内容 |
|---|---|
| 世田谷区 障害者訪問理美容サービス | 対象=「ねたきりや座位が保てないなど、障害が理由で理美容店での理髪等が困難な、身障手帳1・2級または愛の手帳1・2度の方」。訪問理美容券を年6枚交付し、協力店が実施。利用者負担は1回1,000円。申込先は各総合支所保健福祉課。 ページ最終更新=2026年8月10日 |
| 豊島区 心身障害者理美容サービス | 「理美容店に出向いて散髪等を受けることが困難な重度の心身障害者のかたに、理美容券を年間12枚交付」。対象=豊島区に住所を有する65歳未満で、東京都重度心身障害者手当受給者、または脳性麻痺・進行性筋萎縮症のかた。1回につき1,400円の自己負担(世帯全員が非課税の場合は無料)。 ページ更新日=2025年4月15日 |
今回、東京23区の公式サイトの中に、「発達の特性があって理美容店での散髪が難しい子ども」を正面から対象にした事業は見つけられませんでした。見つかったのは上記のように身体障害者手帳・愛の手帳の等級や特定の疾病で対象を定めた事業です。
民間や民間団体が運営する「受け入れ経験のある理美容室を探せる」性格のサイトはいくつか見つかりましたが、本ラボでは特定の事業者名を挙げない方針のため、名前は書きません。制度として確実に押さえておけるのは、①出張理容・出張美容という法的な枠組みがあること、②業界団体に障害のある人を想定した研修制度と名簿があること、③個々の店に事前に相談できること——この三つです。
爪切りが散髪と違うのは、1本ずつ独立していることです。ここは有利に働きます。10本を一度に終わらせなければならない理由は、どこにもありません。
道具は大きく三種類あります。どれが正解ということはなく、その子が何を嫌がっているかで変わります。
| 道具の種類 | どういうときに向くか |
|---|---|
| てこ型(一般的な爪切り) | 力が要らず、一瞬で終わります。 → ただし「パチン」という音と振動が出ます。音が苦手な子には、ここが引っかかることがあります |
| はさみ型 | 音がほとんど出ません。少しずつ削るように切れます。 → 一方で切っている時間が長くなります。じっとしている時間の長さが苦手な子には向きません |
| やすり | 音も切断の瞬間もありません。「切る」という行為そのものを避けられます。 → 時間はかかります。こども家庭庁の「保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)」にも、発しんへの対応として「爪が伸びている場合は短く切り(ヤスリをかけて)皮膚を傷つけないようにする」という記述があり、やすりを使うこと自体は特別なやり方ではありません |
実際にそうしているご家庭は少なくありません。この方法の是非について書いた国の資料・学会の資料は、今回は見つけられませんでした。ですので断定はせず、分かっていることだけを並べます。
| 寝ているあいだに切ると | 起きているときに切ると |
|---|---|
| ・その日は確実に終わります。泣かせずにすみます ・お互いの消耗がありません ・ただし、ガイドラインが挙げている「予定等の見通しをわかりやすくする」ことは起きていません。本人にとってはいつのまにか爪が短くなっているという体験です ・起きてしまったときに、寝る場面そのものへの警戒につながることがあります | ・時間はかかり、うまくいかない日もあります ・そのかわり「予告される→終わる」という経験が積み上がります ・「あと1本」「終わったよ」を本人が確認できます ・少ない本数でも、起きているときに1本切れたなら、それは次に使える手順です |
「寝ているあいだ」を全部やめる必要はありません。伸びて困っているぶんは寝ているあいだに処理し、起きているときは1日1本だけ一緒にやってみる——という分け方をしているご家庭もあります。全部を一度に切り替えないほうが、続きます。
※ 爪をどこまで切るか、切り方をどうするかは医療・衛生の領域です。この記事では立ち入りません。深爪や巻き爪、爪のまわりの赤みなど、爪そのものが気になるときは、かかりつけの小児科や皮膚科にご相談ください。
この節は、いちばんはっきりした答えがある場所です。一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が、一般向けの「子どものみみ・はな・のどの病気」のページで、次のように書いています。
Q1.耳掃除はしない方がよいのですか。
「ヒトには耳垢を自然に排泄する機能(自浄作用)が備わっているため、多少の耳垢であれば家庭で無理に取る必要はまったくありません。綿棒や耳かきで習慣的に耳掃除をしている人も少なくありませんが、入浴後にぬれた耳を軽く拭う程度が無難です。耳掃除は医学的には不必要かつ危険な行為であることを認識してください。どうしても耳垢が気になるときは耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします」
同じページには、耳垢そのものの働きについて「細菌やカビが外耳道に繁殖するのを防いだり、敏感な外耳道皮膚を保護する役割があります。また苦味があり、虫などの進入も防いでくれます。つまり耳垢が私たちの耳を保護しているのです」と書かれています。
耳そうじに伴うトラブルについて、同ページはこう書いています。
耳そうじを嫌がって暴れる——それはやめてよい理由が、学会の側から示されている数少ない場面です。
「動くから危ない」は、この学会のページでは耳そうじをしない理由の側に置かれています。動く子だからこそ押さえてやりきる、ではなく、動く子だからこそ家ではやらない。そういう向きの記述です。
そして「どうしても気になるときは耳鼻咽喉科を受診する」と書かれています。耳そうじのために耳鼻咽喉科にかかることは、想定された使い方です。
なお、同じ学会のページには、耳垢には「カサカサした乾性耳垢とベタベタした湿性耳垢があり」「日本人の70〜80%は乾性耳垢ですが、湿性でも乾性でも全く問題がありません」とも書かれています。
※ 耳垢が実際にたまっているかどうか、処置が必要かどうかは、見て判断するものです。この記事では立ち入りません。聞こえの面が気になるときは、感覚の話に進む前に耳鼻咽喉科で耳そのものを確かめる順番になります。
「慣れさせましょう」という言葉だけを渡されても、何をどうすればいいのか分かりません。実際にやることは、いまの本番を、本番より手前のところで何段階かに割ることです。
この方法が効くのは、段階を細かくしたからではなく、「今日はここまで」が最初から決まっているからです。ガイドラインが挙げている「予定等の見通しをわかりやすくすること」「具体的又は視覚的な手段を用いながら、活動や場面の理解を促すこと」は、具体的にはこういう形になります。
ガイドラインが「運動・感覚」の支援内容に書いているのは「感覚の偏りに対する環境調整等の支援」です。つまり先に環境のほうを変えるという順番になっています。
段階を分けるのは、耐える力を鍛えるためではありません。いやな記憶を積み増さずに、本人が「終わった」と分かる経験を重ねるためです。つらい回を重ねると、その場面そのものを避けるようになることがあります。
※ 課題を段階に分ける考え方そのものは スモールステップとは? にまとめてあります。
この場面でいちばんもったいないのは、うまくいった日のやり方が、その日のうちに忘れられることです。散髪は1〜2か月に1回。次のときには、前回何がよかったのか誰も覚えていません。
参考になるのは、事業所に課されている決まりのほうです。児童発達支援ガイドラインは職員に対して、「その日行った支援の手順、内容、こどもの反応や気づきについて、記録をとらなければならない」と定めています。手順・内容・反応の三つです。家でも、この三つだけ残せば足ります。
| 残すこと | 書き方の例(一行でかまいません) |
|---|---|
| いつ・どこで・だれが | 9/7 夕方 風呂場 母/前回は昼間の居間、これはだめだった |
| 手順(何をどの順でやったか) | 動画を先に見せる→ケープなし→前から→前髪だけ→10数えて終了 |
| 道具 | はさみ(バリカンは音でだめ)/爪はやすりのみ |
| 本人の反応 | 座れた。3数えたところで手が出たが、数を数え直したら最後までいけた |
| 次にやること | 次回は襟足。バリカンは電源を入れずに当てるところまで |
同じガイドラインは、事業所から別の場(保育所や学校)へ引き継ぐ「移行支援」の支援内容として、「移行先との支援方針・支援内容の共有や、こどもの状態・親の意向・支援方法についての伝達」を挙げています。併行利用先との連携については、共有する内容の例として「得意不得意やその背景、声掛けのタイミングやコミュニケーション手段の共有」という具体例まで書かれています。
つまり「声のかけ方」「タイミング」は、引き継ぐ値打ちのある情報として国の文書に例示されているということです。散髪や爪切りでうまくいった手順は、まさにそれにあたります。同じ紙を、次に行くお店にも、事業所にも、祖父母にも渡せます。
※ 相談の場に何を持っていくかは 相談前の準備メモ も参考になります。
身だしなみの困りごとは、家の外で、よかれと思って進められてしまうことがあります。祖父母の家で「みっともないから」と切られる。園で「爪が伸びていますよ」と言われる。先に一言渡しておくだけで、この種の場面はかなり減ります。
児童発達支援ガイドラインの「家族支援」の配慮事項には、こう書かれています。
「『家族支援』は、大きなストレスや負担にさらされている母親が中心となる場合が多いが、父親やきょうだい、さらには祖父母など、家族全体を支援していく観点が必要である」
続けて「家族がこどもの障害の特性等を理解していくために重要な支援であるが、理解のプロセス及び態様は、それぞれの家族で異なることを理解することが重要である」とも書かれています。祖父母の理解が家族の中でずれていることは、想定されている、ということです。
| 伝わりにくい言い方 | 伝わりやすい言い方 |
|---|---|
| この子は散髪が苦手で | バリカンの音がだめです。はさみなら座っていられます。切るのは前髪だけにしています |
| 爪切りを嫌がるんです | 1日1本ずつ切っています。もし伸びていても、その場で切らずに教えてください |
| 耳そうじができなくて | 耳は家では触らないことにしています。気になるときは耳鼻咽喉科で見てもらいます |
| じっとしていられなくて | 「10数えたら終わり」と約束しています。10で必ず終わると、次も座れます |
共通しているのは、「苦手です」ではなく「こうすれば通ります」を渡していることです。相手にとっては、断りの言葉ではなく手順書になります。
感覚や身のまわりのことの困りごとは、診断がなくても、区の発達相談の窓口に相談できます。この記事を書くにあたって公式ページを開いて確かめた二区を、区名つきで挙げます。
| 区と窓口 | 公式ページに書かれている内容 |
|---|---|
| 新宿区 子ども総合センター 児童発達支援センター 愛称「あいあい」 | 「言葉や生活面、友だちとのかかわり方等、お子さんの発達へのご不安、ご心配について、専門スタッフが電話にて相談を受けつけています」。 発達相談・サービス利用相談の電話=03-6273-8701/月〜金 8:30〜18:00、土 8:30〜17:00。電話相談の内容によって、後日の来所相談(予約制)を案内する流れです。令和7年4月に児童発達支援センターへ機能拡充。 ページ最終更新=2026年9月4日 |
| 世田谷区 世田谷区発達障害相談・療育センター「げんき」 | 対象=世田谷区在住で発達障害者支援法に規定される発達障害のある方、又はその疑いがある方(療育は18歳未満)。「ライフステージを通したあらゆる年齢層の当事者、家族及び関係機関(保育園、幼稚園、学校等)から発達障害に関する全般的な相談に応じます」。 発達相談の電話=03-5727-2236(代表 03-5727-2235)/月〜土(祝日・年末年始を除く)9:00〜18:00。相談と地域支援は無料。利用希望者は直接電話で申し込む形です。 ページ最終更新=2025年6月4日 |
ほかの区にも同じ性格の窓口があります。区ごとの名前と連絡先は 東京23区の相談窓口 にまとめてあります。
身のまわりの動作や、体の使い方、感覚の受け取り方についての相談先として名前が挙がるのが作業療法士です。この職種は理学療法士及び作業療法士法(昭和40年法律第137号)という法律で定められています。条文はこうです。
| 条文 | 書かれていること |
|---|---|
| 第2条第2項(定義) | 「この法律で「作業療法」とは、身体又は精神に障害のある者に対し、主としてその応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作その他の作業を行なわせることをいう。」 身のまわりの動作=日常の応用的な動作は、この「応用的動作能力」の側にあります |
| 第2条第4項(作業療法士) | 「厚生労働大臣の免許を受けて、作業療法士の名称を用いて、医師の指示の下に、作業療法を行なうことを業とする者をいう。」 第17条第2項で、作業療法士でない者がこの名称を使うことは禁じられています=名乗れる人が限定された資格です |
つまり作業療法士は、国家資格を持ち、医師の指示のもとで、日常の動作や社会生活への適応の面から支援する職種です。「散髪のとき体をどう支えると楽か」「どの感覚が引っかかっているか」といった相談は、この職種の守備範囲に重なります。職種の違いは ST・OT・PTの違い、作業療法士については 作業療法士(OT)とは? にまとめてあります。
| 相談先 | この場面で頼めること |
|---|---|
| 区市町村の発達相談窓口 | 診断の有無にかかわらず相談できます。まず電話で「散髪と爪切りが毎回たいへんで」と切り出して差し支えありません。上の二区のように、相談そのものは無料としている区があります |
| 児童発達支援などの事業所 | ガイドラインの「健康・生活」に身のまわりを清潔にすることが、「家族支援」に具体的な介助方法の助言・提案が挙がっています。家でのやり方を一緒に組み立ててもらうのは、支援の内容そのものです |
| 作業療法士(OT) | 体の支え方・姿勢・感覚の受け取り方の面から。医師の指示のもとで働く職種なので、医療機関や事業所を通じて出会うことが多くなります |
| 耳鼻咽喉科 | 耳垢が気になるとき。学会のページが「どうしても耳垢が気になるときは耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします」と書いています |
| 理容室・美容室 | 予約のときに特性と限界時間を伝える。出張理容・出張美容という枠組みがあること、業界団体に障害のある人を想定した研修制度と名簿があることは、この記事の第4節のとおりです |
※ 本記事は一般的な情報提供です。爪や耳の処置の要否・方法、皮膚や耳の状態についての判断は医療の領域であり、この記事では扱っていません。診断は医師が行います。療育は医療ではありません。
※上記の出典は2026年9月7日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。
のびのび発達ラボを運営する児童発達支援てらぴぁぽけっと早稲田教室(東京都新宿区・早稲田駅徒歩1分)には、言語聴覚士・公認心理師・精神保健福祉士・保育士など多職種の専門スタッフが在籍しています。見学・ご相談は、診断の有無に関わらず承ります。