2つは、別の力です
| 何の力か | 具体例 |
| 表出(expressive) | 自分から伝える力 | 話す、身ぶりで示す、指さす、絵カードを渡す、書く |
| 理解(receptive) | 相手のことばを受け取る力 | 聞いてわかる、指示に従う、読んでわかる |
ASHAは、包括的な評価の結果として下される話しことばの障害の診断に、「受容(理解)言語障害のみ」「表出言語障害のみ」「表出−受容の混合」の3つがありうると記しています。
つまりどちらか一方だけということが、実際にあります。「ことばが遅い」とひとくくりにせず、分けて見ることに意味があるのはそのためです。
🔴 なぜ分けて見るのか——経過が違うから
分けて見るいちばんの理由は、その後の見通しが変わるからです。
報告されていること
ことばの出はじめが遅い子どものうち、
理解にも遅れがある子は、理解が年齢の範囲内にある子に比べて経過がよくないと報告されています(Marchman & Fernald, 2013)。
詳しくはことばが出ない・遅い気がするときにまとめていますが、ことばの出はじめが遅かった子の50〜70%は就学前後までに追いつく一方、7歳の時点で言語の障害があった割合は20%(そうでなかった子は11%)という報告があります。
この差がどこから生まれるのか——理解の遅れの有無が、ひとつの分かれ目として挙げられています。
だから、「話さない」より先に「わかっているか」を確かめることに意味があります。
「わかっている」の根拠を確かめる
「言っていることは分かっているみたい」——その根拠が、ことばそのものなのか、身ぶりや場面の流れなのかを分けてみます。
| 確かめ方 | 何を見ているか |
| 後ろから名前を呼ぶ(姿が見えない状態で) | 音としての名前が届いているか。顔や動きの手がかりを外す |
| 物を見せずに「くつを持ってきて」 | ことばだけで対象を思い浮かべられるか |
| 2つつなげた指示「くつをはいて、玄関に行って」 | 2つの内容を保持して順に実行できるか |
| その場にない物の話「きのう、公園に行ったね」 | 目の前にないものについてのことばが通じるか |
| 身ぶりを添えずに言う | 身ぶりを外しても通じるか。ここがいちばん分かれます |
大事なのは「身ぶりを外して試す」こと
大人は無意識に、ことばと同時に指さしたり、目線を送ったり、体を向けたりしています。
それを外したときに通じるかどうかが、理解の力を見る手がかりになります。
試したことは、日付をつけてメモしておいてください。相談の場でそのまま材料になります。
※これは家庭で気づくための目安であり、検査ではありません。正確な評価は言語聴覚士などの専門職が行います。
表出は、話すことだけではありません
「表出が少ない」は、「話さない」と同じではありません。
- 指さす、手を引く、物を見せる・渡す
- うなずく、首を振る、表情を変える
- 絵カードを渡す(PECS)
- サインを出す(マカトン法)
- 機器やアプリで伝える(AAC)
これらはすべて表出です。話しことば以外の手段が出ているなら、伝えようとする力そのものは働いています。
ASHAは、AACの使用は発話とことばの発達を助けうるとしています。手段を増やすことは、話すことをあきらめることではありません。
ことばは、5つの領域からできています
ASHAは、話しことばの障害を5つの言語領域にわたる、聞くことと話すことの習得と使用の持続的な困難と定義しています。
| 領域 | 何のことか | つまずくとどうなるか |
| 音韻(phonology) | 音のしくみ | 発音がはっきりしない、音を置き換える |
| 形態(morphology) | 語の形の変化 | 「〜た」「〜ない」など語尾の使い分けが難しい |
| 統語(syntax) | 語の並べ方・文の組み立て | 文が短い、語順が入れかわる、複雑な文が作れない・わからない |
| 意味(semantics) | 語の意味と語彙 | 語彙が増えにくい、新しい語が入りにくい |
| 語用(pragmatics) | 場面に応じたことばの使い方 | 会話が始まらない・続かない、相手に合わせて言い方を変えられない |
この5領域は、それぞれ表出にも理解にも関わります。「ことばが遅い」の中身は、どの領域のどちら側か——ここまで分かって、はじめて手立てが決まります。
意味(語彙)の面で、見られること
ASHAが挙げている、意味の領域のつまずきの特徴です。
- 初語と語のつながり(2語文など)の獲得が遅かったという経過がある
- 語彙が増えていく速さが、そうでない子より遅い(第二言語の習得によるものではない場合)
- 動詞の獲得が遅れる——とくに動詞の形が細かく変化する言語で目立つ
- 新しい語と、それが指すものを、短い接触で結びつけること(ファスト・マッピング)が弱い
- 新しい語、とくに動作を表す語や抽象的な意味の語の理解が難しい
家庭で気づける手がかり
名詞は増えるのに、動詞が増えない。「くるま」「わんわん」「パン」は言うけれど、「いく」「たべる」「あける」が出てこない——
ASHAが
動詞の獲得の遅れと
動作語・抽象語の理解の難しさを挙げていることを考えると、これは記録しておく価値のある観察です。
語用(やりとり)の面で、見られること
同じくASHAが挙げている、語用の領域の特徴です。
- 友だちとの遊びを始めることが難しい(一人で遊ぶことが多い)
- 相手の考えや気持ちを理解することが難しい
- 同じ年齢の子に比べて幼く見られる
- 考え・気持ち・自分の経験を表現することが難しい
- 会話を始めること、続けることが難しい
- 相手や状況に応じて言い方を変えること、行き違いを直すことが難しい
見落とされやすい特徴
ASHAは、
「同じ年ごろの子と同じ働きのことばは使えるが、その表し方が効果的でない」という点も挙げています。
つまり、
語彙も文も年齢相応なのに、やりとりだけがうまくいかないことがあります。「ことばは出ているから大丈夫」で見過ごされやすいのは、この形です。
評価の結果、「支援は要りません」となることもあります
調べることは、診断をつけられることと同じではありません。ASHAは、包括的な評価の結果としてありうるものを、次のように挙げています。
| 結果 | 内容 |
| 文化的・言語的な違いだけ | それ以上の評価も支援も必要ない、という結論 |
| 話しことばの障害の診断 | 受容のみ/表出のみ/表出−受容の混合 |
| 特性と重症度の記述 | どの領域が、どの程度 |
| 場面によるばらつきの判定 | 場面や相手によって力の出方が違うか |
| 読み書きの問題の特定 | 就学後につながる面 |
| 語音(発音)の障害の診断 | 音の面 |
| 聞こえの問題の可能性の特定 | 耳鼻咽喉科などへ |
| 支援の推奨/他職種への紹介 | 次にどうするか |
いちばん上をご覧ください
「違いだけで、支援は必要ない」——これも、評価の正式な結果のひとつです。
調べることは、何かを決めつけられることではありません。
心配がいらないと分かることも、立派な結果です。
どこに相談すればいいか
表出と理解を分けて評価するのは、言語聴覚士(ST)の仕事です。実際の進め方は言語聴覚士の支援では、実際に何をするのかにまとめています。
理解の面が気になる場合は、先に聞こえを確かめることをお勧めします。ASHAも、ことばのスクリーニングに聴力の低下を除外するための聞こえの確認を含めています。
※本記事は一般的な情報提供です。診断は医師が行います。療育は医療ではありません。お子さまの発達に医学的な心配がある場合は、小児科や児童精神科などにご相談ください。
出典
※上記の出典は2026年9月3日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。
よくあるご質問
「話さないけれど分かっている」は、大丈夫ということですか?
理解が年齢の範囲内であれば、比較的経過は良いとされています。ただしその「分かっている」の根拠を確かめることが大切です。身ぶりや場面の流れで通じているのか、ことばそのもので通じているのか。身ぶりを外して、後ろから名前を呼ぶ・物を見せずに指示を出す、といった形で確かめてみてください。
表出と理解、どちらが心配ですか?
ことばの出はじめが遅い子のうち、理解にも遅れがある子は、理解が正常範囲の子より経過がよくないと報告されています(Marchman & Fernald, 2013)。「話さない」ことより、「わかっているか」のほうを先に確かめる意味があります。
名詞は増えるのに、動詞が出てきません
ASHAは、意味の領域のつまずきの特徴として動詞の獲得の遅れと、動作を表す語や抽象的な意味の語の理解の難しさを挙げています。記録しておく価値のある観察です。日付をつけてメモし、相談の際にお伝えください。
ことばは出ているのに、友だちとうまくいきません
ASHAが挙げる語用(pragmatics)の領域にあたる可能性があります。会話を始めにくい・続けにくい、相手や状況に応じて言い方を変えにくい、といった特徴です。ASHAは「同じ働きのことばは使えるが、その表し方が効果的でない」という形もあると述べています。語彙や文が年齢相応でも、相談する意味があります。
絵カードやサインを使うと、表出の練習になりませんか?
それも表出です。指さし・身ぶり・絵カード・サイン・機器はすべて、伝えるための手段です。ASHAはAACの使用が発話とことばの発達を助けうるとしています。手段を増やすことは、話すことをあきらめることではありません。
検査を受けると、何かの診断がつくのですか?
必ずしもそうではありません。ASHAは、包括的な評価の結果として「文化的・言語的な違いだけで、それ以上の評価も支援も必要ない」という結論もありうると明記しています。調べた結果「心配はいりません」となることも、立派な結果です。
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。
ことばのこと、言語聴覚士に相談してみませんか
のびのび発達ラボを運営する児童発達支援てらぴぁぽけっと早稲田教室(東京都新宿区・早稲田駅徒歩1分)には、言語聴覚士が在籍しています。ことばの専門評価と個別プログラムを、児童発達支援として提供しています。見学・ご相談は、診断の有無に関わらず承ります。