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📖 用語・基礎知識

PECSとは?——絵カードを「手渡す」ことから始めるコミュニケーション

最終更新:2026年9月3日
PECS®(ペクス/Picture Exchange Communication System®・絵カード交換式コミュニケーションシステム)は、絵カードを相手に手渡すことから始めるコミュニケーション支援システムです。

ポイントは「絵カードを使う」ことではなく、「相手に渡す」ところにあります。カードを渡した相手がすぐに応えてくれる——この経験の積み重ねが、自分から伝えようとする力を育てます。この記事は、日本での正規窓口であるピラミッド教育コンサルタントオブジャパン(株)が公開している情報にもとづいてまとめています。

「絵カードを使う」ではなく「絵カードを渡す」

PECSがほかの絵カードの使い方といちばん違うのは、やりとりの相手が必ずいることです。

手続きは、対象となる人が1枚の絵カードを「コミュニケーションパートナー」に渡すところから始まります。カードを受け取った相手は、その交換をすぐに要求として受け取り、要求を叶えます

ここが要点
指さしなら、相手が気づかなければ終わってしまいます。でも手に渡されたカードは、相手が受け取らざるを得ません。「伝えたら、伝わった」という結果が確実に返ってくる——これがPECSの設計です。

PECSの最優先の目標は、機能的コミュニケーションを教えることだと説明されています。きれいに話せるようになることではなく、生活の中で必要なことを伝えられるようになることが目的です。

1985年、アメリカで生まれた

PECSは1985年アンディ・ボンディ氏(Ph.D.)とロリ・フロスト氏(MS. CCC-SLP)によってアメリカで考案されました。最初に実践されたのは、デラウェア自閉症プログラムの自閉症の未就学の児童に対してでした。

それ以降、PECSは世界中で、年齢を問わず、認知・身体・コミュニケーションのさまざまな障がいのある多くの学習者に実践されてきました。

手続きの基礎になっているのは、B.F.スキナーの著書『Verbal Behavior(言語行動)』と応用行動分析(ABA)の概念です。感覚や経験則ではなく、行動の理論にもとづいて手順が組まれている点が特徴です。

開発者の一人であるロリ・フロスト氏の肩書きにある「CCC-SLP」は、米国の言語聴覚士(Speech-Language Pathologist)の資格です。行動分析と言語聴覚の両方の視点から組み立てられた方法だといえます。

6つのフェイズ——何を、どの順番で学ぶか

PECSは6つのフェイズ(段階)で構成されています。順番に意味があり、飛ばして進めるものではありません。

フェイズ何を学ぶか内容
Iコミュニケーションの仕方本当に欲しいものや活動を獲得するために、1枚の絵カードを交換することを学ぶ
II距離と持続性1枚の絵カードを使いながら、違った場所・さまざまな人・移動しながら使うことで般化させる。持続性のあるコミュニケーターになるレッスンも含む
III絵カードの弁別欲しいものを要求するために、2枚以上の絵カードの中から正しいカードを選ぶ。カードはコミュニケーションブック(取り外しできるテープ付きのバインダー)に並べる
IV文構成「文カード」と呼ばれる取り外し可能なボードの上に、欲しい物の絵カードと右横に「ください」の絵カードを並べて文を作る
IV+属性語と言語の拡大形容詞・動詞・位置を表す語などを使い、表出を広げる
V応答による要求「何が欲しいの?」のような質問に、PECSを使って答える
VIコメント「何が見える?」「何が聞こえる?」「これは何?」などに答える。「見えます」「聞こえます」「感じます」「です」などの述語を使って文を構成する

フェイズIIの「般化」が独立した段階として置かれているところに、この方法の考え方がよく表れています。訓練の場だけでできても意味がない——場所・相手・状況が変わっても使えることが、最初のほうの目標になっています。

🔴「ことばを話さなくなるのでは」という不安について

絵カードを使うことに、この不安を持たれる方は少なくありません。開発団体は、この点を明確に否定しています。

公開資料の記載
PECS®の指導法が発語の発達を阻害したり、妨げたりすることはないことが研究により示されています。実際にはPECS®の指導法は発語の発達を促すことが研究により示されており、もっと発語でコミュニケーションがとれるようになる人もいる、と説明されています。

研究の中では、PECSを使っている中で発語が出るようになった生徒もいることがわかっているとされています。また、音声表出機器(SGD)に移行する方もいます。

PECSはエビデンスベースの介入と位置づけられており、現在世界中で190以上の研究が発表され、効果を裏付けているとされています。

※これは「PECSを使えば話せるようになる」という意味ではありません。発達には一人ひとり違いがあります。

ことばのプロンプトを使わない、という設計

PECSの手続きには、あまり知られていない特徴があります。言語プロンプト(ことばによる促し)を使わないという点です。

「〇〇って言ってごらん」「ちょうだいは?」——大人はつい、こうした声かけをします。しかしこれを続けると、大人が言うまで動かない状態になりやすいことが知られています。これをプロンプト依存といいます。

PECSの設計
PECSでは言語プロンプトを使わないため、すぐに自発のコミュニケーションを教えることができ、プロンプト依存も防げると説明されています。「大人に言わされる」のではなく、その子が自分から始めることを最初から目指しています。

そのかわり、独自のコミュニケーションを教えるために、特定のプロンプトや強化の方法が手続きの中で使われます。また、エラーが起きたときに学習を促進する系統的なエラー修正手続きも含まれています。うまくいかなかったときにどうするかまで、手順として決まっているということです。

誰が、どんな人に使っているか

PECSは、特定の職種だけのものではありません。開発団体は、これまでに教員・指導者・保護者・介護者・兄弟姉妹など数十万人に実践的な指導を行ってきたとしています。

内容
使っている専門職作業療法士(OT)、言語聴覚士(SLP)、理学療法士(PT)、支援者、教員、ソーシャルワーカー、行動分析士
対象となる年齢生後18か月の幼児から80代の成人まで
実践される場所家庭・学校・地域社会

保護者や兄弟姉妹も指導の対象に入っていることは、押さえておきたい点です。PECSは事業所の中だけで完結する方法ではなく、家庭で使われることを前提にしています

🔴 正しく学ぶには——商標と、実践の忠実さ

ここは、ネット上の情報だけで進めようとする前に知っておいていただきたい点です。

知っておいてください
Picture Exchange Communication System®(絵カード交換式コミュニケーションシステム)、PECS、教育へのピラミッドアプローチ® は、アメリカ本部 Pyramid Educational Consultants, LLC. の登録商標です。

また、PECSの効果は、トレーニングの質と忠実な実践に深く結びついているとされています。これは研究と臨床経験の両面から一貫して示されている、と説明されています。

基礎的な知識は『PECS®トレーニングマニュアル』や、団体が公開している無料資料・動画からも学べます。ただし団体は、正式なトレーニングでは体系的な指導と実践演習を通じて、より一貫性のある成果が得られると評価されている、としています。

つまり、「絵カードを渡させる」だけではPECSにはなりません。手順のどこを省いたかによって、結果は変わります。本格的に取り入れたい場合は、ピラミッド教育コンサルタントオブジャパン(株)のワークショップを確認するのが確実です。

※日本の窓口は、ピラミッド教育コンサルタントオブジャパン株式会社(兵庫県尼崎市)です。ワークショップの日程・内容・費用は同社の公式サイトでご確認ください。

マカトン法・視覚支援との違い

PECSは、AAC(拡大・代替コミュニケーション)のひとつです。AACの中での位置づけを、よく比べられる方法と並べてみます。

始まり方話しことばとの関係手段
PECS絵カードを相手に手渡す言語プロンプトを使わない。発語を促すことが研究で示されている絵カード+コミュニケーションブック
マカトン法話しことばにサインを添える話しことばと同時に使うことが前提サイン(手の動き)+シンボル(線画)
視覚支援見通しや手順を示す特に定めはない写真・イラスト・文字など

どれが良い・悪いではなく、その子が今どの段階にいて、何に困っているかで選ばれます。「自分から伝えようとしない」が課題ならPECS、「ことばは出ているが伝わらない」ならサインや視覚支援、というように、課題のほうから考えるとわかりやすくなります。

迷ったときは、言語聴覚士(ST)など、ことばの発達を評価できる専門職にご相談ください。

出典

※上記の出典は2026年9月3日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。

よくあるご質問

PECSを使うと、話さなくなりませんか?
開発団体は、PECSの指導法が発語の発達を阻害したり妨げたりすることはないことが研究により示されていると明記しています。むしろ発語の発達を促すことが研究で示されており、PECSを使う中で発語が出るようになった生徒もいる、とされています。
何歳から使えますか?
開発団体は、対象となる学習者は生後18か月の幼児から80代の成人まで幅広い、と説明しています。年齢そのものよりも、今どの段階にいるかで進め方が決まります。
家庭でもできますか?
PECSは家庭で実践されることを前提にしています。開発団体は、教員・指導者・保護者・介護者・兄弟姉妹など数十万人に実践的な指導を行ってきたとしています。ただし効果はトレーニングの質と忠実な実践に結びつくとされているため、自己流で進める前に、正式なトレーニングか、PECSを用いている専門職への相談をお勧めします。
絵カードを見せて選ばせるのと、何が違うのですか?
PECSは子どもが自分から絵カードを相手に手渡すところから始まります。大人が見せて選ばせるのは、大人が始めるやりとりです。PECSは言語プロンプトを使わず、自発のコミュニケーションを最初から目指す点が違います。
マカトン法とどちらがいいですか?
どちらが優れているというものではありません。PECSは絵カードを手渡すところから始めマカトン法は話しことばにサインを添えて使う——始まり方と前提が違います。お子さまの今の段階と課題によって選ばれるものなので、言語聴覚士など専門職の評価をお勧めします。
市販の絵カードを買えば始められますか?
カードだけでは手続きになりません。PECSは6つのフェイズの順序、強化の方法、エラーが起きたときの修正手続きまで含めた体系です。「Picture Exchange Communication System®」「PECS」は登録商標でもあります。取り入れる際は、正規のトレーニングか、PECSを用いている専門職にご相談ください。
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。

ことばのこと、言語聴覚士に相談してみませんか

のびのび発達ラボを運営する児童発達支援てらぴぁぽけっと早稲田教室(東京都新宿区・早稲田駅徒歩1分)には、言語聴覚士が在籍しています。ことばの専門評価と個別プログラムを、児童発達支援として提供しています。見学・ご相談は、診断の有無に関わらず承ります。