🔴 ASHAが書いていること
ASHAは、多言語の人への支援について専門の項目を設けています。そこに書かれていることのうち、家庭に関わる部分を挙げます。
① 多言語であること自体は、障害ではありません
「Being multilingual is not a communication disorder(多言語であることは、コミュニケーション障害ではない)」複数の言語に触れていることが、ことばの障害を作るとは書かれていません。
② 🔴 障害の徴候は、使うすべての言語に現れます
「コミュニケーション障害の徴候は、その多言語話者が使うすべての言語に見られる。ただし、症状の現れ方は言語によって異なるのが通常である」——これは、判断のときにいちばん役に立つ一文です。
英語だけでうまくいかないのなら、それは「障害の徴候」の形をしていません。逆に、
日本語でも同じ困りごとがあるなら、英語の話とは別に相談する理由になります。
③ 「その言語を使わないほうがいい」と言われた家族へ
ASHAは、専門職の役割の一つとして次のことを挙げています——
「特定の言語を子どもに使わないほうがよいと言われた、あるいはそう感じさせられた家族に対して、多言語であることの利点を擁護すること」つまりASHAは、
「一つの言語に絞りなさい」という助言に対して、はっきり反対の立場をとっています。
※ASHAは米国の職能団体であり、その記述は日本の制度や教育課程を対象としたものではありません。ここでは、ことばの発達に関する専門的な整理として紹介しています。
第二言語に触れるときに起こる、正常な現象
ASHAは、第二言語の習得の過程で起こる現象として、次のようなものを挙げています。いずれも、障害の指標としては扱われていません。
| 現象 | ASHAの記述 |
| 沈黙期(silent period) | 第二言語の習得の初期の段階で起こりうるもの |
コードスイッチング (言語を混ぜて使う) | 流暢な多言語話者の多くがコードスイッチングを行う。必ずしも言語障害を示すものではない |
| 言語の喪失(language loss) | 受け継いだ言語が使われ続けないときに起こるもの |
「英語をやったら急にしゃべらなくなった」
沈黙期は、
初期に起こりうるものとしてASHAが挙げている現象です。
ただし、
沈黙期だと決めつけないでください。期間の目安も、見分け方も、この記事では書きません(確認できていません)。
気になるときは、
日本語のほうでも同じことが起きていないかを見るのが、ASHAの書き方に沿った順序です。
心配なときに、何を見るか
ASHAの記述を、家庭で使える順序に並べ替えると次のようになります。
- 日本語のほうを見る——同じ困りごとが日本語でも起きているか。ASHAは障害の徴候はすべての言語に現れるとしています。
- いつからかを確かめる——英語を始める前から気になっていたのか、始めてからか。
- 場面を確かめる——家では話すのに教室では話さない、といった場面差があるか(→場面緘黙)。
- 日本語のことばの発達として相談する——気になるなら、英語の話としてではなくことばの相談として(→ことばの相談)。
専門職が使う見分け方
ASHAは
動的アセスメント(test–teach–retest)を挙げています。テストする → 教える → もう一度テストする、という方法で、
今の力と、学ぶ可能性の両方を見ます。
教えることで変わる場合は
言語の違い(difference)、変わりにくい場合は
障害(disorder)である可能性が高い、という考え方です。
これは専門職が用いる評価方法であり、家庭で行うものではありません。
「相談すれば、そういう見分け方がある」ということを知っておく価値があります。
学校の英語の授業と、配慮のしくみ
学校での配慮は、合理的配慮のしくみで相談できます。障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律は、次のように定めています。
条文の要点(第7条第2項・第8条第2項)
「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは……必要かつ合理的な配慮をしなければならない」第7条は行政機関等(公立学校など)、第8条は事業者が対象です。(→
合理的配慮とは?)
また発達障害者支援法第8条(教育)は、「その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育を受けられるようにするため」必要な措置を講じるものとしています。
- 聞き取りが難しい——音声の速さ、文字での提示(→聞き取りの困難)
- 書き写しが難しい——量の調整、板書の写真(→読み書きが苦手)
- 人前で話すのが難しい——発表の形、少人数での代替
- 一斉のテンポが合わない——課題の量、時間の延長
この記事で書かないこと
英語学習が発達に良い影響を与える、とは書きません。また、個別なら伸びる/集団は向かない、といった効果の比較もしません。
確認できたのは、多言語であること自体はコミュニケーション障害ではないこと、障害の徴候はその人が使うすべての言語に現れること、沈黙期やコードスイッチングは第二言語習得で起こりうる現象であること——ここまでです。
効果がないという意味ではなく、ここでは判断しないという意味です。
始める時期についても、書きません
「何歳から始めるとよい」という目安を示す一次情報を確認できていません。
数字を書けば読みやすくなりますが、
根拠を示せないものは書かない——このシリーズの方針です。
どこに相談すればいいか
| 相談先 | 何のため |
| 言語聴覚士(ST) | ことばの発達の相談。ASHAは障害の徴候を「すべての言語に現れる」ものとして記述しています |
| 区市町村の発達相談窓口 | 無料。診断の有無にかかわらず |
| 学校(担任・特別支援教育コーディネーター) | 英語の授業での配慮 |
| 小児科・児童精神科 | 診断について知りたいとき |
| 耳鼻咽喉科 | 聞き取りが気になるとき、まず聴力の確認から |
※本記事は一般的な情報提供です。診断は医師が行います。ASHAは米国の職能団体であり、その記述は日本の制度や教育課程を対象としたものではありません。療育は医療ではありません。
出典
※上記の出典は2026年9月4日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。
よくあるご質問
日本語が遅れているのに、英語をやって大丈夫ですか?
ASHAは「多言語であることは、コミュニケーション障害ではない」と記述しています。複数の言語に触れることがことばの障害を作る、とは書かれていません。そのうえで、ことばの発達に心配があるなら、英語の話としてではなく、ことばの相談として専門職にご相談ください。
二つの言語をやると、どちらも中途半端になりませんか?
ASHAは、専門職の役割として「特定の言語を子どもに使わないほうがよいと言われた、あるいはそう感じさせられた家族に対して、多言語であることの利点を擁護すること」を挙げています。一つに絞るべきだという助言に対して、反対の立場が示されています。
英語だけがうまくいきません。障害でしょうか?
ASHAは「コミュニケーション障害の徴候は、その人が使うすべての言語に見られる」と記述しています。英語だけの困難は、障害の徴候の形をしていません。逆に、日本語でも同じ困りごとがあるなら、相談する理由になります。
英語を始めてから、急にしゃべらなくなりました
ASHAは沈黙期(silent period)を、第二言語習得の初期に起こりうる現象として挙げています。ただし沈黙期だと決めつけないでください。期間の目安や見分け方は、この記事では書きません。日本語でも同じことが起きていないかを見るのが、確認できた記述に沿った順序です。
日本語と英語を混ぜて話します
ASHAは「流暢な多言語話者の多くがコードスイッチングを行う」とし、必ずしも言語障害を示すものではないと記述しています。
何歳から始めるのがいいですか?
この記事では書きません。時期の目安を示す一次情報を確認できていないためです。根拠を示せない数字は書かない、という方針です。
学校の英語の授業がつらそうです
合理的配慮を相談できます。障害者差別解消法は、その提供を「意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないとき」と定めています。聞き取り、書き写し、発表の形、課題の量——何が難しいかを分けて伝えると話が進みやすくなります。
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。
お子さまのこと、専門スタッフに相談してみませんか
のびのび発達ラボを運営する児童発達支援てらぴぁぽけっと早稲田教室(東京都新宿区・早稲田駅徒歩1分)には、言語聴覚士・公認心理師・精神保健福祉士・保育士など多職種の専門スタッフが在籍しています。見学・ご相談は、診断の有無に関わらず承ります。