定義——「耳」ではなく、その先の話
ASHAは中枢聴覚処理を、中枢聴覚神経系(CANS)における聴覚情報の知覚的な処理と、それを支える神経生物学的な活動と説明しています。
| どこの話か | 含まれるもの |
| 末梢(ここではない) | 外耳・中耳(伝音)/蝸牛・聴神経(感音)——聴力検査で調べる部分 |
| 中枢(ここの話) | そこから先、音の情報を処理するしくみ |
「耳は聞こえているのに、聞き取れない」という言い方になるのは、この違いによるものです。
🔴 まず「〜ではないもの」から
ASHAは、CAPDが何によるものではないかをはっきり書いています。ここから読むほうが正確です。
| これは CAPD ではない | 内容 |
| 末梢の難聴によるもの | 伝音性(外耳・中耳)でも、感音性(蝸牛・聴神経)でも、それによる聞き取りにくさはCAPDではない |
| 多言語であることによるもの | 複数の言語を使っていることは、CAPDの原因ではない |
ASHAが特に注意している点
社会的コミュニケーションの規範の違いや、複数の言語を使っていることは、「相手の聴覚処理がどう見えるか」に影響しうるが、CAPDを示すものではない。つまり——
「聞いていないように見える」ことと、CAPDであることは別だということです。
徴候として挙げられているもの
ASHAが挙げているCAPDの徴候です。
- 音がどこから鳴っているか分かりにくい
- 別の声が重なっているとき/騒がしい場所/反響する場所/速く話されたとき、話しことばの理解が難しい
- 話しことばのやりとりで、返答までの時間が長い
- 聞き返しが多い
- 返答が一貫しない、場にそぐわない
- 速い話の理解が難しい
- 複雑な聞き取りの指示に従うのが難しい
- 歌やわらべうたを覚えるのが難しい
- メッセージを取り違える(皮肉や冗談を読み取る抑揚の変化を捉えにくい、など)
- 音楽・歌が苦手
- 注意を向けること、気が散るのを避けることが難しい
- 読み・つづり・学習の問題
🔴 このリストで判断はできません
ASHAは、このリストについて
「例示であって、網羅ではない」と断ったうえで、
「言語障害など、ほかの障害を示しうる徴候も含まれている」と明記しています。
そのため
包括的な評価と鑑別診断と合わせて、慎重に考える必要があるとされています。
当てはまる項目を数えて判断するものではありません。
🔴🔴 専門職の間でも、見解が分かれています
ここが、この用語をあつかううえでいちばん大事な点です。
ASHAの記載
専門職は、CAPDの解釈について、さまざまな立場をとってきた(ASHAは多数の文献を挙げています)。
また、
CAPDの診断・評価・治療について、聴覚学と言語聴覚学の専門職の中に長年にわたる見解の相違があり、だからこそ、根拠にもとづく臨床判断が何よりも重要になる、としています。
インターネット上には、APDを確立した診断であるかのように説明し、チェックリストで判定させるページが少なくありません。専門職の間でも定まっていないということは、知っておいていただきたい点です。
「APDかもしれない」と考えること自体は悪いことではありません。ただしそこで止めずに、聞こえの検査と、ことばの評価を受けることをお勧めします。
鑑別が必要なもの・いっしょに起きうるもの
ASHAは、CAPDが次のものといっしょに起きることがあり、また区別が必要になるとしています。
| 内容 |
| 注意欠如・多動症(ADHD) | 注意の面と聞き取りの面は、外から見た様子が似ることがある |
| ことばの遅れ・言語障害 | 「聞き取れない」のか「ことばがわからない」のかは、分けて見る必要がある |
| 学習障害 | 読み・つづり・学習の問題は、両方の徴候に挙がる |
さらにASHAは、背景の騒音の中で話を聞き取る力に影響しうる別の状態として、聴神経の病態(auditory neuropathy spectrum disorder)や「隠れ難聴」と呼ばれる蝸牛シナプス障害(cochlear synaptopathy)にも触れています。
つまり「騒がしいところで聞き取れない」という一点だけでは、何も決まりません。そこから先を分けるのが、専門職の評価です。
また、CAPDはより高次の言語・学習・コミュニケーションの働きの困難につながる、あるいはそれと関連することがあるともされています。
リスクとして挙げられているもの
ASHAは、関連しうる要因として次のものを挙げています。
- くり返す中耳炎にともなう伝音性の難聴
- 出生前・新生児期の要因——低酸素、サイトメガロウイルス、高ビリルビン血症、低出生体重、早産、胎児期の薬物曝露
※要因があるからといって、そうなるわけではありません。研究で挙げられている関連として紹介しています。
とくにくり返す中耳炎は、日常でよくあることです。耳の状態が続いていた時期がある場合は、相談のときにお伝えください。
日本で相談するとき——順番があります
ASHAでは、CAPDの同定・スクリーニング・評価・診断・治療の中心的な役割は、聴覚士(audiologist)が担うとされています。
🔴 日本とアメリカで、資格の仕組みが違います
日本には、聴覚士(audiologist)にあたる
独立した国家資格がありません。
日本では
言語聴覚士法 第2条が、対象を「音声機能、言語機能
又は聴覚に障害のある者」と定めており、
聴覚も言語聴覚士の領域に含まれています。
| 順番 | どこへ | 何のため |
| ① | 耳鼻咽喉科 | まず末梢の聞こえを確かめる。ここを外さないと先に進めません。中耳炎の経過もここで |
| ② | 言語聴覚士(ST) | ことばの検査・評価。「聞き取れない」のか「ことばがわからない」のかを分ける |
| ③ | 必要に応じて他の専門職 | 注意・学習の面など。ASHAも他職種への紹介をSTの役割に挙げています |
①を飛ばさないことが大切です。ASHAがCAPDを「末梢の難聴によるものではない」と定義している以上、末梢の聞こえを確かめないまま、APDかどうかを考えることはできません。
経過について
ASHAは、小児期に聴覚処理の困難を経験した人が、成人期まで言語とコミュニケーションの困難を経験し続けることがあるという報告を紹介しています(Del Zoppo et al., 2015)。
「大きくなれば自然に消える」とは言い切れない、ということです。一方で、必ず続くという意味でもありません。
※本記事は一般的な情報提供です。診断は医師が行います。療育は医療ではありません。
診断がなくても、今日からできる環境の工夫
ASHAが挙げている徴候から逆算すると、苦手な条件がはっきりしています——騒がしい場所、反響する場所、声が重なる場面、速い話、複雑な指示。
この裏返しが、そのまま工夫になります。
- 話す前に、名前を呼んで注意を向けてもらう——聞く準備ができてから内容を話します。
- まわりを静かにしてから話す——テレビや音楽を止める。声が重なる状況を減らします。
- 短く区切る——複雑な指示は、ひとつずつ。「くつをはいて」→(できたら)「玄関に行こう」。
- ゆっくり話す——大きな声にするより、速さを落とすほうが効きます。
- 目で見える形を添える——文字・絵・実物。視覚支援の考え方です。
- 反響を減らす——カーテン、敷物、クッション。硬い面ばかりの部屋は聞き取りにくくなります。
これらは診断の有無にかかわらず、聞き取りにくさのある子に役立ちます。そして、やってみて変わるかどうかが、相談のときの情報にもなります。
出典
※上記の出典は2026年9月3日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。
よくあるご質問
聴力検査は正常でした。それでも聞き取りにくいのはなぜですか?
ASHAはCAPDを、末梢の難聴(外耳・中耳の伝音性、蝸牛・聴神経の感音性)によるものではない状態として説明しています。聴力検査で調べるのは末梢の部分で、そこから先の処理の面は別に評価されます。ただし、ほかの状態でも同じような聞き取りにくさが起きるため、専門職の評価が必要です。
チェックリストで当てはまる項目が多いのですが
ASHAは徴候のリストについて「例示であって、網羅ではない」とし、言語障害などほかの障害を示しうる徴候も含まれていると明記しています。そのため包括的な評価と鑑別診断と合わせて慎重に考える必要があり、当てはまる数で判断できるものではありません。
APDは、確立した診断ですか?
ASHAは、専門職がCAPDの解釈についてさまざまな立場をとってきたこと、そして診断・評価・治療について聴覚学と言語聴覚学の専門職の中に長年にわたる見解の相違があることを明記しています。断定的に説明しているページは、この点をふまえて読んでください。
どこに相談すればいいですか?
まず耳鼻咽喉科で末梢の聞こえを確かめてください。ASHAがCAPDを「末梢の難聴によるものではない」と定義している以上、ここを飛ばすことはできません。そのうえで言語聴覚士(ST)による評価へ。日本には聴覚士(audiologist)にあたる独立した国家資格がなく、言語聴覚士法第2条は対象を「音声機能、言語機能又は聴覚に障害のある者」と定めています。
複数の言語を使っているのが原因でしょうか?
ASHAは「CAPDは多言語であることによるものではない」と明記しています。また、複数の言語を使っていることや社会的コミュニケーションの規範の違いは、相手の聴覚処理がどう見えるかに影響しうるが、CAPDを示すものではないとしています。
診断がつくまで、何もできませんか?
できることがあります。ASHAが挙げる徴候から、苦手な条件(騒がしい・反響する・声が重なる・速い・複雑)が分かります。静かにしてから話す、短く区切る、ゆっくり話す、文字や絵を添える、反響を減らす——診断の有無にかかわらず役に立ち、やってみて変わるかどうかが相談の情報にもなります。
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。
ことばのこと、言語聴覚士に相談してみませんか
のびのび発達ラボを運営する児童発達支援てらぴぁぽけっと早稲田教室(東京都新宿区・早稲田駅徒歩1分)には、言語聴覚士が在籍しています。ことばの専門評価と個別プログラムを、児童発達支援として提供しています。見学・ご相談は、診断の有無に関わらず承ります。