習い事という場を選ぶときに、まず考えたいこと
周りのお子さんが水泳や体操、ピアノ、そろばんなどを始めると、「うちの子も」という気持ちと、「うちの子には無理かもしれない」という気持ちが同時にやってくることがあります。どちらも、自然な気持ちです。
習い事を、療育の代わりや、療育の「次の段階」として考える必要はありません。こども家庭庁の児童発達支援ガイドラインは、障害児支援の基本理念のひとつとして「地域社会への参加・参加・包摂(インクルージョン)の推進」を掲げ、「こどもの育ちと個別のニーズを共に保障した上で、インクルージョン推進の観点を常に持ちながら、こどもや家族の意向も踏まえ、保育所、認定こども園、幼稚園等の一般のこども施策との併行利用や移行に向けた支援や、地域で暮らす他のこどもとの交流などの取組を進めていくこと」と書いています。
このガイドラインが名前を挙げているのは保育所・認定こども園・幼稚園です。習い事という語は原文にありません。ただ、「地域の一般の場に、こどもや家族の意向を踏まえて参加していく」という考え方そのものは、習い事にも当てはめて考えることができます。以下は、その考え方を実際の体験教室の場面に落とし込んだものです。
「合うかどうか」を確かめる場
体験教室は、合否を判定される場ではなく、
この教室とお子さんの相性を、双方が確かめる場です。うまくいかなかったとしても、それは「その教室・その回・その先生とは、今はタイミングが合わなかった」という以上の意味を持ちません。
体験教室で見ておきたい5つの点
何を見ればよいか分からないまま体験に行くと、「なんとなく大丈夫そう」「なんとなく難しそう」という印象だけが残りがちです。見るところをあらかじめ決めておくと、あとで比べやすくなります。次の5つは、当ラボが体験教室の見学でよく挙がる観点を整理したものです。法令が定めた項目ではなく、実務的な目安として使ってください。
| 観点 | 見ておきたいこと |
| ① 人数 | その回の生徒数と、先生の人数。先生1人あたり何人を見ているか。 |
| ② 指示の出し方 | 口頭だけか、見本を見せる・カードを示すなど他の手段も併用しているか。 |
| ③ 待ち時間 | 順番待ちがどのくらいの長さで発生するか。待つ間、何をして過ごすか。 |
| ④ 音と光 | 音楽の音量、反響のしやすさ、照明の明るさや点滅の有無。 |
| ⑤ 先生の言い方 | できなかったときの声かけが、禁止形か、次にすることを示す形か。 |
5点すべてが理想どおりである必要はありません。どれか一つが気になっても、他の4点や、先生との相性で補える場合もあります。
民間の教室も、合理的配慮を求めてよい場所です
スイミングスクールや体操教室、ピアノ教室、そろばん教室のような民間の習い事も、障害者差別解消法(平成25年法律第65号)が定める「事業者」にあたります。同法第8条第2項は、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、(中略)必要かつ合理的な配慮をしなければならない」と定めています。この義務は、令和6年4月1日から法的義務になりました。第8条・意思の表明・過重な負担の考え方そのものは、合理的配慮とは?——障害者差別解消法の条文で読む、始まり方と限界で詳しく扱っていますので、あわせてご覧ください。
「事業者」と聞くと会社を思い浮かべますが、文部科学省が定める対応指針は、「事業者」について「目的の営利・非営利,個人・法人の別を問わず,同種の行為を反復継続する意思をもって行う者であり,個人事業者や対価を得ない無報酬の事業を行う者,学校法人,宗教法人,非営利事業を行う社会福祉法人及び特定非営利活動法人を含む」と説明しています。先生お一人で開いている個人教室でも、「事業者」に含まれます。
どの省庁の対応指針が当たるか
同法第11条により、対応指針は事業分野ごとに主務大臣が定めます。教育・スポーツ・文化芸術の分野は文部科学省(スポーツ庁・文化庁を含む)が、それ以外の分野は他の省庁が、それぞれ対応指針を公表しています。内閣府のページに省庁ごとの一覧があります。
対応指針が具体的にどの教室に、どこまで細かく当てはまるかは、業種や運営形態によって変わります。ここでは「民間の習い事も法の対象から外れているわけではない」という枠組みまでを、確認できた範囲で書いています。
先生に伝えるとき——診断名ではなく「こうすると分かりやすい」の形
診断名を伝えるかどうかは、保護者が選べることです。伝えなくても、先生が明日から動ける情報は渡せます。効くのは診断名そのものより、「こうすると、うちの子には伝わりやすいです」という具体です。
- 体験の申し込み時に、一言だけ添える。
例:「初めての場所や大人数が苦手で、見本を見せてもらえると分かりやすいです」 - 体験の当日、開始前に先生へ短く伝える。
例:「大きな音に驚きやすいので、太鼓や笛は先に教えていただけると助かります」 - 体験のあと、続けるかどうかを決める前に、気になった点を先生に確認する。
例:「待ち時間に離席してしまいましたが、次からはどのように過ごしますか」 - 継続を決めたら、月謝袋や連絡帳ではなく、直接短い時間をもらって伝える。
園や学校の担任への伝え方は、園や学校の面談で、何をどう伝えるか——短い時間の使い方でより詳しく扱っています。継続して通う中での伝え方は、そちらの考え方も参考になります。
月謝や契約を確認する——教室によって、法律の効き方が違います
習い事の契約というと、どれも同じ法律で守られているように思われがちですが、実際は違います。消費者庁の特定商取引法ガイドによると、特定継続的役務として指定され、契約書面の交付・クーリング・オフ・中途解約の権利が法律で定められているのは、次の7つの役務に限られます。
- エステティック
- 美容医療
- 語学教室
- 家庭教師
- 学習塾
- パソコン教室
- 結婚相手紹介サービス
このうち子ども向けの習い事に関係するのは、語学教室・家庭教師・学習塾・パソコン教室です。いずれも契約期間が2か月を超え、対価の総額が5万円を超える場合が対象で、書面を受け取った日から8日以内ならクーリング・オフができ(同法第48条)、その期間を過ぎたあとも、将来に向けて中途解約すること自体はできます(同法第49条)。解約時に事業者が請求できる金額には、役務ごとに上限が政令で定められています。
指定7役務に入らない習い事は
水泳・体操・ピアノ・そろばん・絵画など、多くの子ども向け習い事は、この指定7役務に含まれていません。つまり、上記のクーリング・オフや中途解約の権利は、
法律では保証されていません。退会・休会・返金のルールは、その教室が自分で定めた契約書・規約がすべてになります。契約前に、退会の申し出期限、休会中の月謝の扱い、返金の有無を、書面で確認してください。
体験のあと、どう決めるか
体験教室から帰ったら、5つの観点を、その日のうちに簡単にメモしておくと、他の教室と比べるときに役立ちます。点数をつける必要はありません。「気になった」「大丈夫そうだった」を一言ずつ書き留めるだけで十分です。
- その場でうまくいかなかったことは、次回や別の教室でも同じとは限らない
- 先生に配慮をお願いしたときの返答の仕方(一緒に考えてくれたか、断られたか)も、判断材料になる
- 本人が「楽しかった」「また行きたい」と言ったかどうかを、まず聞いてみる
続かなかったとき、やめどきの考え方
せっかく始めた習い事が続かなかったとき、「またすぐにやめてしまった」と感じる保護者は少なくありません。ですが、習い事は、一度選んだら変えてはいけないものではありません。
児童発達支援ガイドラインが掲げる地域社会への参加・インクルージョンの考え方は、「こどもや家族の意向も踏まえ」た併行利用や移行を前提にしています。つまり、はじめから「合う場所」を一度で見つける必要はなく、合わなければ変えるという前提そのものが、国の文書の考え方と矛盾しません。
やめどきを考える目安
本人が行くたびに強く嫌がる状態が続く/体調に響く様子がある/先生に配慮を相談しても検討してもらえない、といった状態が重なるときは、無理に続けるより、いったん離れて別の場を探す方が、本人にとって早い解決になることがあります。反対に、最初の数回だけ緊張していた場合は、数回続けてから判断しても遅くありません。
この記事で書かないこと
- 特定の教室・企業・スクールを名指しした比較や評価(この記事では一般名のみを扱います)
- 「療育だけで十分」「習い事は不要」といった当社に有利な結論
- 医学的な診断や、お子さんに合う・合わないの断定
- 経済産業省の対応指針の具体的な条文(一次資料をこちらの環境から取得できなかったため)
- 学習塾・家庭教師以外の役務にみられる、細かな政令上の金額・期間の例外規定
確認できなかったことは、確認できなかったとここに書きます。教室ごとの実際の対応は、契約前に必ずその教室へ直接お尋ねください。
どこに相談すればいいか
体験教室での様子や、先生への伝え方に迷ったときは、通っている園や、地域の保健センター、かかりつけ医、そして児童発達支援・保育所等訪問支援の事業所にも相談してよいことです。特に、日頃から集団の中でのお子さんの様子を見ている事業所は、体験教室で見ておくとよい点や、先生への伝え方の具体を、一緒に考えることができます。
出典
- 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)|e-Gov法令検索第8条第1項=事業者は不当な差別的取扱いにより障害者の権利利益を侵害してはならないこと/第8条第2項=障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、必要かつ合理的な配慮をしなければならないこと/第11条第1項=主務大臣が基本方針に即して事業者のための対応指針を定めるものとされていること。
- 文部科学省「文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針の策定について(通知)」対応指針(平成27年文部科学省告示第180号)の一部改正が令和6年4月1日から施行されたこと/スポーツ庁次長・文化庁次長が連名の発出者になっていること/「事業者」は目的の営利・非営利、個人・法人の別を問わず同種の行為を反復継続する意思をもって行う者であり、個人事業者や無報酬の事業を行う者、学校法人等を含むこと/私立の専修学校・各種学校、私立の社会教育施設・社会教育関係団体も本指針の対象であること/事業者による合理的配慮の提供は、これまで努力義務とされていたが令和3年の法改正により法的義務へ改められたこと。
- 内閣府「関係府省庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」主務大臣が基本方針に即して対応指針を定めるものとされていること/文部科学省・経済産業省・厚生労働省など各省庁が、それぞれ対応指針掲載ページを持つこと(一覧に記載)/改正障害者差別解消法の令和6年4月施行に伴い、順次更新を行っていること。
- こども家庭庁「児童発達支援ガイドライン(令和6年7月)(詳細版①)」障害児支援の基本理念(4)「地域社会への参加・参加・包摂(インクルージョン)の推進」=こどもの育ちと個別のニーズを共に保障した上で、インクルージョン推進の観点を持ちながら、保育所・認定こども園・幼稚園等の一般のこども施策との併行利用や移行に向けた支援、地域で暮らす他のこどもとの交流などの取組を進めていくこと/基本理念(2)「合理的配慮の提供」=物理的な環境や意思疎通、ルールや慣行など何が活動を制限する社会的なバリアとなっているのか保護者と対話を重ねて検討していくこと。
- 消費者庁「特定商取引法ガイド」特定継続的役務提供特定継続的役務として指定されているのは、エステティック・美容医療・語学教室・家庭教師・学習塾・パソコン教室・結婚相手紹介サービスの7役務に限られること/語学教室・家庭教師・学習塾・パソコン教室は、期間2か月を超え、対価の総額が5万円を超える場合に対象になること/契約締結前の概要書面、締結後の契約書面の交付が義務づけられていること(第42条)/書面受領日から8日以内はクーリング・オフができること(第48条)/クーリング・オフ期間経過後も将来に向けて中途解約できること(第49条)。
- 消費者庁「特定継続的役務提供Q&A」対象7役務それぞれの期間・金額の定義(法第41条第2項に基づく政令指定)/中途解約時に事業者が請求できる損害賠償等の上限額が役務ごとに政令で定められていること(例=学習塾は役務提供開始後で2万円又は1か月分の授業料相当額のいずれか低い額)/対象となるのは「現在」指定されている7役務のみであること。
- 内閣府「合理的配慮等具体例データ集(合理的配慮サーチ)サービス(買物、飲食店など)」障害者差別解消法に基づく合理的配慮・環境整備の事例を関係省庁・地方公共団体・障害者団体等から収集し平成29年4月に取りまとめた事例集であること/サービス分野には買物・飲食店等の事例が10件収録されており、習い事の教室に特化した事例は、確認した範囲では収録されていなかったこと。
※上記の出典は2026年9月8日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。
よくあるご質問
体験教室でうまくいかなかったら、その場でやめると決めるべきですか?
その場で決めなくて大丈夫です。緊張や初めての場所への戸惑いは、最初の数回だけということもあります。帰ってから5つの観点をメモし、本人が「楽しかった」と言ったかどうかも合わせて、数日かけて考えてよいものです。
診断名を伝えないと、合理的配慮はしてもらえませんか?
診断名がなくても大丈夫です。障害者差別解消法第8条が求めているのは「社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明」であり、診断名の提示ではありません。「大きな音に驚きやすいです」「見本を見せてもらえると伝わりやすいです」のような具体的な伝え方で十分です。
先生お一人で開いている小さな教室にも、合理的配慮をお願いしていいのですか?
はい。文部科学省の対応指針は「事業者」について、営利・非営利や法人・個人を問わず、同種の行為を反復継続する意思をもって行う者であり、個人事業者を含むと説明しています。先生お一人の教室も対象から外れるものではありません。ただし、実施に伴う負担が過重なときは配慮が難しい場合もあり、その判断は教室ごとの事情によります。
配慮をお願いしたら、断られることもありますか?
あります。障害者差別解消法第8条は、負担が「過重でないとき」に合理的配慮を求めており、実施が難しい場合まで一律に義務づけているわけではありません。断られたときは、代わりにできる方法がないか、教室と話し合ってみることが次の一歩になります。
月謝を払ったあとにやめたくなったら、必ず返金されますか?
教室の種類によります。語学教室・家庭教師・学習塾・パソコン教室で、期間2か月超・金額5万円超の契約であれば、消費者庁のガイドが説明する中途解約のルール(上限額つきの精算)が適用されます。一方、水泳・体操・ピアノ・そろばんなど、それ以外の多くの習い事は、この法律の対象に含まれていません。返金の有無や金額は、契約時に確認した規約に従うことになります。
体験教室では大丈夫だったのに、本入会後に様子が変わることはありますか?
体験の1回だけでは分からないことも多く、通う回数が増えてから見えてくる様子もあります。この記事では、その先の「通い続ける中での伝え方」までは詳しく扱っていません。継続して通う中での先生との伝え方は、面談での伝え方に関する記事もあわせてご覧ください。
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。
お子さまのこと、専門スタッフに相談してみませんか
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