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事業所で事故が起きたとき——誰に、何が伝わるか

最終更新:2026年9月8日
通っている事業所で、もし事故が起きたら——誰に、どんなふうに伝わるのかを、契約のときにきちんと説明されたと言い切れる保護者は、実は多くありません。
結論を先に言うと、児童福祉法にもとづく運営基準(省令)は、事故が起きた場合に都道府県・市町村・家族への連絡、事故の記録、必要な措置を事業所の義務として定めています(第52条)。一方で、保育所や幼稚園にはある「国が毎年集計して公表する重大事故のデータベース」は、今回確認した一次資料の範囲では、児童発達支援・放課後等デイサービスにはまだありません
この記事では、条文そのもの、こども家庭庁の通知とガイドライン、保育所等の集計データを一次資料で確かめます。特定の事故の事例は扱いません。統計と手続きだけを、条・項・号まで書きます。

結論から——省令は「誰に、何を」と定めているか

児童発達支援や放課後等デイサービスの運営を定める省令には、事故が起きたときの対応を定めた条文があります。「児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成24年厚生労働省令第15号)第52条です。見出しにも、そのまま「(事故発生時の対応)」と書かれています。

第52条が事業所に義務づけていること(要点)
① 事故が発生した場合、速やかに都道府県・市町村・家族等へ連絡し、必要な措置を講じること(第1項)
② 事故の状況と、事故に際して採った処置を記録すること(第2項)
③ 賠償すべき事故の場合は、損害賠償を速やかに行うこと(第3項)

条文そのものは、次の節でそのまま引用します。ここで先に書いておきたいのは、条文には「何日以内に」「何時間以内に」といった具体的な期限は定められていない、という点です。書かれているのは「速やかに」という言葉だけです。

また、事故が起きてからの対応だけでなく、事故が起きる前の備えとして「安全計画」の策定も、同じ省令が事業所に義務づけています(第40条の2、令和6年4月1日から義務化)。

そしてもう一つ、確かめておきたい事実があります。保育所や幼稚園には、国が重大事故を毎年集計して公表する仕組みが既にありますが、今回確認した一次資料の範囲では、児童発達支援・放課後等デイサービスを対象にした同様の全国集計は、まだ公表されていません。こども家庭庁は「今後、教育・保育施設等と同様の仕組みを検討していく」段階にあると、令和6年7月4日付の通知に明記しています。この記事の後半で、一次資料にもとづいて確かめます。

運営基準(省令)第52条「事故発生時の対応」——条文そのもの

「児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成24年厚生労働省令第15号)第52条は、児童発達支援について、次のように定めています。原文のまま引用します。

第52条第1項
指定児童発達支援事業者は、障害児に対する指定児童発達支援の提供により事故が発生した場合は、速やかに都道府県、市町村、当該障害児の家族等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じなければならない。
第52条第2項
指定児童発達支援事業者は、前項の事故の状況及び事故に際して採った処置について、記録しなければならない。
第52条第3項
指定児童発達支援事業者は、障害児に対する指定児童発達支援の提供により賠償すべき事故が発生した場合は、損害賠償を速やかに行わなければならない。

3つの項に分けて読むと、次のような役割分担になっています。

定めている内容
第1項連絡(都道府県・市町村・家族等)+必要な措置
第2項事故の状況と、採った処置の記録
第3項賠償すべき事故の場合の、損害賠償

条文には、事故の大小による線引きはありません。「事故が発生した場合は」とだけ書かれており、「軽微な事故を除く」「一定の程度以上の事故に限る」といった文言は、第52条の中にはありません。

放課後等デイサービスなど、ほかのサービスにも同じ条文が働きます

第52条は、児童発達支援だけの条文ではありません。同じ省令には「準用」という規定があり、放課後等デイサービス・保育所等訪問支援・居宅訪問型児童発達支援の事業についても、第52条から第54条までの規定がそのまま働く(準用される)と定められています。

サービスの種類第52条が働く根拠
児童発達支援本則第52条がそのまま適用
放課後等デイサービス第71条(準用)
居宅訪問型児童発達支援第71条の14(準用)
保育所等訪問支援第79条(準用)

つまり、放課後等デイサービスを利用していても、保育所等訪問支援を利用していても、事故が起きたときに「都道府県・市町村・家族等への連絡」「記録」「必要に応じた損害賠償」という3つの義務は、同じ条文にもとづいて事業所にかかっています。

もう一つの備え——安全計画(第40条の2)という「起きる前」の義務

第52条が「事故が起きたあと」の対応だとすれば、同じ省令の第40条の2「(安全計画の策定等)」は、「事故が起きる前」の備えを事業所に義務づけている条文です。こども家庭庁の通知によれば、この義務は令和6年4月1日から始まりました。

第40条の2の要点(4つの項)
第1項:設備の安全点検、事業所内外での活動を含めた日常生活における安全に関する指導、従業者の研修・訓練などを内容とする「安全計画」を策定し、それに従って必要な措置を講じること
第2項:従業者に安全計画を周知し、研修・訓練を定期的に実施すること
第3項通所給付決定保護者(保護者)に対し、安全計画に基づく取組の内容等について周知すること
第4項:定期的に安全計画の見直しを行い、必要に応じて変更すること

第3項が示すとおり、安全計画は事業所の中だけで完結するものではなく、保護者に周知することまでが条文に書かれています。見学や契約の際に、安全計画の内容について尋ねることは、この条文が想定している範囲内のことです。

安全点検の頻度について、条文そのものには回数の定めはありません。こども家庭庁の通知(後述)は、目安として「少なくとも毎学期1回(年3回)以上」という頻度を挙げていますが、これは通知が示す目安であって、省令の条文が定めた基準ではありません。

誰に伝わるのか——通所支援と入所施設で、連絡先が違います

こども家庭庁は、令和6年7月4日付の通知「障害児支援における安全管理について」(こ支障第169号)の中で、第52条にもとづく連絡先を、サービスの形態ごとに整理しています。

区分事故発生時の連絡先
障害児通所支援(児童発達支援・放課後等デイサービス等)都道府県・市町村・家族等
障害児入所施設等都道府県・家族等(市町村は含まれない)

同じ通知は、通所支援の事業所について、次の3者が「どのような事故の場合に報告を求めているか」「どのような方法で報告を求めているか」を、それぞれ独自に定めていると説明しています。

🔴 報告の様式・運用は、市区町村によって違います
こども家庭庁の通知は、事業所に対して「必ず都道府県や市町村のホームページ等で確認し、適切な対応を行う必要がある」と求めています。つまり、事故報告の具体的な様式や基準は全国共通ではなく、自治体ごとに定められています。お住まいの窓口・受給者証を出した窓口で、その自治体の運用をお確かめください。

消費者事故等に該当する場合は、消費者庁への通知義務もあります

同じ通知は、事故が「消費者事故等」(消費生活において消費者に被害が発生した事故など)に該当する場合、事業所は消費者安全法(平成21年法律第50号)にもとづき、消費者庁に通知しなければならないことも示しています。これは都道府県・市町村への連絡(第52条)とは別の、もう一つの法律にもとづく義務です。

こども家庭庁の通知とガイドライン——「検証」という工程

こども家庭庁は令和6年7月4日、都道府県・指定都市・中核市・児童相談所設置市の障害児支援主管部(局)宛てに、「障害児支援における安全管理について」(こ支障第169号)という通知を出しました。同時に、別紙として「障害児支援の安全管理に関するガイドライン」(令和6年7月)を策定・公表しています。

この通知は、事故が発生したあとの対応を、事業所と地方自治体それぞれの役割として整理しています。

立場事故発生後に求められること
事業所等事故後の検証(要因の分析・改善点の検討)、再発防止策の立案と、安全計画・マニュアルへの反映
都道府県・市町村(自治体)死亡事故等の重大事故の場合、情報収集や事業所への指導、事業所に再発防止策の検討を求めること

通知は、死亡事故等の重大事故に限らず、「地方自治体で検証を行わない重大事故や重大事故以外の事故であっても、自ら事故後の検証を行い、事故の再発防止の取組を進めることが重要である」と、事業所に求めています。

国の調査研究報告書(「障害児支援における安全管理等に関する調査研究」)は、サービスの種類ごとに、重大事故が起こりやすい場面の傾向を分析しています。事業所での日々の安全対策は、この傾向を踏まえてつくられています。個別の事故を再現することはこの記事の目的ではないため、ここでは場面の分類だけを紹介します。

上記は、こども家庭庁の調査研究報告書が示す場面の分類です。特定の事故の日時・場所・当事者を示すものではありません。

ヒヤリハットと事故は、条文の扱いが別です

「ヒヤリハット」という言葉を、事業所の説明や資料で見たことがあるかもしれません。こども家庭庁のガイドラインは、ヒヤリハットの重要性を、次のように説明しています。

ガイドラインの説明(1:29:300)
1件の重大事故の背後には、重大事故に至らなかった29件の軽微な事故が隠れており、さらにその背後には300件のヒヤリ・ハットが隠れていると言われている。ヒヤリ・ハットの収集・分析は重大な事故を予防するうえで非常に有効である。

ヒヤリハットとは、「転倒しそうだった」「把握漏れになりそうだった」というように、結果には繋がらなかったものの、事故につながる可能性があった出来事を指します。第52条が対象にしているのは「事故が発生した場合」であり、結果として事故に至らなかったヒヤリハットは、第52条にもとづく都道府県・市町村への報告の対象ではありません。

区分条文上の扱い
事故(結果が生じたもの)第52条により、都道府県・市町村・家族等への連絡と記録が義務
ヒヤリハット(結果に至らなかったもの)第52条の報告対象ではない。安全計画(第40条の2)にもとづく事業所内の収集・分析の対象

こども家庭庁の通知は、ヒヤリハットについて「報告する組織内の仕組み(報告手順や様式等)を整えるとともに、報告しやすい雰囲気づくり」を事業所に求めています。つまり、ヒヤリハットの扱いは、都道府県・市町村への報告ではなく、事業所内の安全管理の仕組みとして位置づけられています。

保育所・幼稚園にはある「国の集計」——児童発達支援・放課後等デイサービスには、まだありません

こども家庭庁は、幼稚園・保育所・認可外保育施設・放課後児童クラブなど「教育・保育施設等」で発生した重大事故について、毎年、全国の件数を集計し、公表しています。直近の公表は令和7年(2025年)7月31日付の「令和6年教育・保育施設等における事故報告集計」です。

令和6年(2024年)1〜12月の集計(令和7年7月31日公表)
報告件数 3,190件(対前年+418)
負傷等の報告 3,187件、うち骨折によるもの 2,537件〔80%〕
発生場所 施設内が2,850件〔89%〕、うち施設内の室外が1,451件〔51%〕
死亡の報告 3件(対前年−6)

この集計の対象は、こども家庭庁が定める「教育・保育施設等」に限られます。集計資料に列挙されている対象は、認定こども園・幼稚園・認可保育所・小規模保育事業・家庭的保育事業・居宅訪問型保育事業・事業所内保育事業・一時預かり事業・病児保育事業・子育て援助活動支援事業・子育て短期支援事業・子育て世帯訪問支援事業・児童育成支援拠点事業・放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)・認可外保育施設・認可外の居宅訪問型保育事業です。

🔴 児童発達支援・放課後等デイサービスは、この一覧に含まれていません
今回確認した一次資料(令和6年集計の対象一覧)の範囲では、児童発達支援・放課後等デイサービスを含む障害児通所支援は、この国の集計の対象になっていません。事故の報告先は、前の節で見たとおり、都道府県・市町村という地方自治体単位にとどまります。

こども家庭庁自身も、令和6年7月4日付の通知の中で、この違いを認めています。国の調査研究報告書が「障害児入所施設・障害児通所支援事業所においても、教育・保育施設等と同じく国へ重大事故を報告する仕組みが重要である」と提言していることを踏まえ、通知は次のように述べています。

通知の記述(原文)
今後、教育・保育施設等と同様に、国に重大事故を報告する仕組み及び事故情報を集約し公表する仕組みの構築について検討していくこととしています。これらの仕組みについては、検討が進み次第、追ってお示しすることとしております。

つまり、令和6年7月4日の通知の時点で、国全体の集計・公表の仕組みは「検討していく」段階であり、まだ実現していません。その後の進捗を示す一次資料は、今回の確認範囲では見つかりませんでした。「保育所と同じような統計が、うちの子の通う事業所についてもある」と考えるのは、現時点では正確ではありません。

保護者は何を求めてよいか

ここまで確かめた条文と通知から、保護者が事業所に対して尋ねてよいことを、3つに整理します。

  1. 事実の説明——第52条第1項は、事故が起きた場合の家族への連絡を事業所の義務としています。何が起きたかの説明を求めることは、条文が想定している範囲です。
  2. 記録の存在——第52条第2項は、事故の状況と、事業所が採った処置を記録する義務を定めています。記録が作成されているかどうかは、確認してよいことです。
  3. 再発防止策——こども家庭庁の通知は、事業所に事故後の検証と再発防止策の検討を求めています。どのような検証と対策が行われたかを尋ねることは、通知の趣旨に沿っています。

第52条・第40条の2は、保護者に対する開示の書式や期限までは定めていません。事業所ごとに説明の仕方は異なります。

事故そのものとは別に、「苦情」を伝える窓口も条文にあります

同じ省令の第50条「(苦情解決)」は、事故報告(第52条)とは別に、サービスに関する苦情全般についての条文です。事業所には、次のことが義務づけられています。

事故の説明や対応そのものに納得できないときは、この第50条にもとづく苦情の窓口や、社会福祉法にもとづく運営適正化委員会という制度があることも、あわせて知っておいてよいことです。

この記事で書かないこと

出典

※上記の出典は2026年9月8日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。

よくあるご質問

事故が起きたら、家族にはいつ連絡が来ますか?
運営基準(省令)第52条第1項は「速やかに」連絡を行うことを事業所に義務づけていますが、条文には「何時間以内」「何日以内」といった具体的な期限は定められていません。連絡の具体的なタイミングは、事業所や自治体の運用に委ねられている部分です。
小さなケガでも、都道府県や市町村に報告されますか?
第52条は「事故が発生した場合」とだけ定めており、事故の大小による線引きは条文にありません。ただし、実際にどのような事故の場合に報告を求めるかは、指定権者である都道府県、支給決定の実施主体である市町村、事業所所在地の市町村が、それぞれ独自に定めています。自治体ごとに運用が異なるため、お住まいの窓口・受給者証を出した窓口でお確かめください。
ヒヤリハットも、都道府県や市町村に報告されるのですか?
いいえ。ヒヤリハットは、結果としては事故に至らなかった出来事を指し、第52条が定める「事故が発生した場合」の報告対象ではありません。こども家庭庁のガイドラインは、ヒヤリハットについて、事業所内で報告・分析する仕組みを整えることを求めています。
保育園にあるような「重大事故の全国集計」は、児童発達支援にもありますか?
今回確認した一次資料の範囲では、児童発達支援・放課後等デイサービスを対象にした全国集計・データベースは、まだ公表されていません。こども家庭庁は令和6年7月4日付の通知で、教育・保育施設等と同様の仕組みを「今後、検討していく」段階にあると述べています。
事故の記録は、保護者が見せてもらうことはできますか?
第52条第2項は、事業所に事故の状況と採った処置の記録を義務づけていますが、条文は記録の保護者への開示方法までは定めていません。記録が作成されているかどうか、どのような経緯だったかを尋ねることは、条文が想定している範囲のことです。
損害賠償は、事故が起きれば必ず行われるのですか?
第52条第3項が定めているのは「賠償すべき事故が発生した場合」の損害賠償です。つまり、法律上の賠償責任があると判断された場合に限られます。個別の事故で賠償責任が生じるかどうかの判断そのものは、この記事の確認範囲を超えます。
事業所の説明や対応に納得できないときは、どうすればよいですか?
同じ省令の第50条は、事故報告(第52条)とは別に、苦情を受け付ける窓口の設置を事業所に義務づけています。また、社会福祉法にもとづく運営適正化委員会という、事業所とは別の第三者機関に相談する道もあります。
安全計画は、保護者も見ることができますか?
第40条の2第3項は、事業所に対し、通所給付決定保護者(保護者)へ安全計画に基づく取組の内容等を周知することを義務づけています。見学や契約の際に、安全計画についてどう周知しているかを尋ねることは、条文が想定している範囲です。
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。

制度のこと、見学のときに一緒に確認できます

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