この記事を開いた方は、次のどれかの場面にいると思います。
受給者証の支給量は、更新を待たずに変更を申し出ることができます(→支給量を増やしたい——受給者証の変更申請)。更新のしくみそのものは受給者証の更新——有効期間は法令でどう決まっているかで扱っています。就学先の決定について、教育委員会との話し合いで調整する手続きは就学相談の「判定」——誰が、何をもとに、どう決めるのかにまとめています。
この記事は、それでも納得できないとき——窓口での相談や話し合いの先に、制度として用意されている手続きに絞って書きます。
※ この記事は、窓口に相談する前の段階を省略してよい、という意味ではありません。理由を尋ねる、変更を申し出る——多くの場合、そこで解決します。ここで扱うのは、それでも解決しないときの話です。
「不服申立て」は日常でよく使われる言い方ですが、いまの法律の正式な手続き名は審査請求です。根拠は行政不服審査法(平成26年法律第68号)という、特定の分野に限らない一般法です。
「この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。」
第2条は「行政庁の処分に不服がある者は……審査請求をすることができる」と定めています。裁判所に訴えるより手続きが軽く、書面を出して行政の側にあらためて審査させる仕組みです。
この法律は、行政のあらゆる処分(税金、建築、福祉、教育……)に共通して使われる一般法です。受給者証にかかわる処分に使えるのは、次の節で見る児童福祉法の条文が、この一般法を呼び込んでいるからです。
受給者証の支給量や、申請の可否を決めるのは市町村です。この市町村の決定(=処分)に不服があるとき、審査請求ができることは、児童福祉法にはっきり書かれています。
「市町村の障害児通所給付費又は特例障害児通所給付費に係る処分に不服がある障害児の保護者は、都道府県知事に対して審査請求をすることができる。」
「前項の審査請求については、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第八章(第九十七条第一項を除く。)の規定を準用する。」
「障害児通所給付費」とは、児童発達支援・放課後等デイサービス・居宅訪問型児童発達支援・保育所等訪問支援を利用したときに公費でまかなわれる費用のことです。この費用の支給に関する市町村の処分——申請の却下や支給量を減らす変更決定など——が、審査請求の対象になります。
| 市町村の決定 | 審査請求の対象になるか |
|---|---|
| 申請を却下する決定(不支給決定) | 対象になります。児童福祉法第56条の5の5にいう「処分」です |
| 変更申請で、希望より少ない支給量に決定 | 対象になります。申請に対して市町村が行った処分だからです |
| 更新で、前回より日数を減らして決定 | 対象になります。更新も新しい支給決定という処分です |
| 申請したのに、市町村から長期間なんの返事もない | 「不作為」として審査請求ができます 根拠=行政不服審査法第3条 |
※ 障害児入所給付費(入所施設)に関する処分は、この記事では扱っていません。窓口の異なる別の制度です。
審査請求の相手は、条文のとおり都道府県知事です。市町村ではありません(提出そのものは市町村の窓口を経由できる運用の自治体もあります。まずは窓口に確認してください)。
「処分についての審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して三月……を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。」
「処分についての審査請求は、処分があった日の翌日から起算して一年を経過したときは、することができない。」
つまり、原則は処分を知った日の翌日から3か月以内です。決定通知書が届いた日を起点に、カレンダーで数えられます。体調不良や連絡の行き違いなど「正当な理由」があれば例外も認められますが、まずは3か月という原則を前提に動くのが確実です。
行政不服審査法第82条は、行政庁が処分をするときに、不服申立てができる旨・審査請求すべき行政庁・審査請求ができる期間を書面で教示しなければならないと定めています。受け取った通知書のどこかに、この案内が書かれているはずなので、まずそこを確認してください。書かれていなかった場合も、処分をした市町村の窓口に不服申立書を提出すれば、はじめから正しい行政庁に審査請求があったものとみなす救済があります(同法第83条)。
審査請求を出すと、都道府県の中で審理が行われます。児童福祉法第56条の5の5第2項は、この審理について障害者総合支援法第8章(第97条第1項を除く)の規定を準用すると定めており、都道府県に置かれた不服審査会のしくみが技術的な読み替えのうえで関わることがあります。
行政不服審査法第16条は、審査庁に対し、審査請求が届いてから裁決までに通常要すべき標準的な期間(標準審理期間)を定め、公表するよう努めることとしています。ただし、これは努力義務であり、法律そのものに「何日以内」という具体的な日数は定められていません。実際の標準審理期間は審査庁(都道府県)ごとに定められ、公表されている場合があります。確認するときは、審査請求先に直接尋ねるのが確実です。
審理の結果は裁決という文書で伝えられます。行政不服審査法は、次の種類を定めています。
| 裁決の種類 | 内容 |
|---|---|
| 却下 | 3か月の期間を過ぎているなど、審査の入口で退けられる場合 根拠=第45条第1項 |
| 棄却 | 審査はされたが、審査請求に理由がないと判断された場合 根拠=第45条第2項 |
| 認容 | 審査請求に理由があると認められ、処分の全部または一部が取り消され、または変更される場合 根拠=第46条 |
審査請求をしたことで、いまより不利な決定に変えられることはありません。法律は「審査庁は、審査請求人の不利益に当該処分を変更……することはできない」と明記しています。結果が思うようにならなくても、状況が今より悪くなることはない仕組みです。
審査請求の手続き中も、通所の予定を立てる必要があります。ここは執行不停止の原則が基本です。
「審査請求は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。」
つまり、審査請求を出しただけでは、変更後(減らされたあと)の支給量がいったん止まる、ということにはなりません。審査の結果が出るまでは、通知された内容にもとづいて利用を続けることになります。
ただし、審査庁は必要があると認めるときに、申立てまたは職権で執行停止(処分の効力や執行を一時止める措置)をとることができます(同条第2項〜第4項)。急を要する事情があるときは、審査請求書を出すときに、この執行停止についてもあわせて相談できます。
審査請求は、裁判に進む前に必ず通らなければならない手続きではありません。
「処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。」
これは自由選択主義と呼ばれる原則です。児童福祉法にも障害者総合支援法にも、審査請求を先にしなければ裁判を起こせないという「前置」の定めは、確認できた範囲では見当たりませんでした。審査請求と裁判のどちらから始めても構わない、という建てつけです。
とはいえ、審査請求には、書面を出すだけで始められる・提出そのものに手数料はかからない・弁護士に依頼しなくても本人で進められるという利点があります。まず審査請求で見直しを求め、それでも解決しなければ裁判、という順番を選ぶ方が多い制度です。
就学相談の結果——どの学校、どの学びの場に通うか——について、教育委員会との話し合いで調整する手続きは、別記事(就学相談の「判定」——誰が、何をもとに、どう決めるのか)で扱っています。合意に至らないときの調整の手立て(第三者の関与、体験入学のやり直しなど)は、そちらをご覧ください。
この記事で追加で確かめられたのは、次の一点です。文部科学省の手引は、意見が一致しない場合の手立てのひとつとして、次のように述べています。
「市区町村教育委員会は、あらかじめ本人及び保護者に対し、行政不服審査制度も含めた就学に関する異議申し立ての制度やプロセスについても情報提供を行っておくことが望ましい。」
つまり、就学先の決定についても、行政不服審査制度(審査請求)が異議申し立ての選択肢のひとつとして、国の手引で位置づけられています。ただし、この記事で確認できたのは「情報提供が望ましい」という手引の記述までです。就学先の決定という処分について、具体的にどの行政庁が審査庁になるか、どういう手続きになるかは、自治体によって案内が異なります。まずは在籍(予定)の教育委員会の窓口で、この手引にもとづく案内を求めてください。
確かめられなかったこと、この記事の範囲外にしたことを、正直に書きます。
争うための記事ではありません。落ち着いて、順番に確認できることをまとめます。
※上記の出典は2026年9月8日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。
のびのび発達ラボを運営する児童発達支援てらぴぁぽけっと早稲田教室(東京都新宿区・早稲田駅徒歩1分)には、言語聴覚士・公認心理師・精神保健福祉士・保育士など多職種の専門スタッフが在籍しています。見学・ご相談は、診断の有無に関わらず承ります。