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保健師が家に来ると言われたら——訪問の根拠・見ること・準備・断れるのか

最終更新:2026年9月7日
健診の帰り際に「後日、保健師がご自宅に伺いますね」と言われた。数日して知らない番号から「ご都合のよい日は」と電話があった。——そのとき、二つのことを同時に考えます。「何を見に来るのだろう」と、「家を見られるのか」
この記事は、その二つに一次資料でお答えします。先に結論だけ書きます。保健師の家庭訪問は、思いつきの見回りではなく、母子保健法と児童福祉法に根拠のある四つの制度のどれかです。条文を読んで確かめた限り、訪問を受けることを保護者に義務づけた条も、罰則も置かれていません。訪問する側の実務書である国の実践ガイドには、「家庭訪問は受け入れ難くても、ほかの事業なら参加できないか」という一文まであります。
だから、身構えなくて大丈夫です。何の制度からの訪問か、当日は何を見て何を聞くのか、何を手元に置けば足りるのか、そのあと何が起きるのか、家に来てほしくないときはどう伝えるか。順に開いていきます。

「保健師が伺います」は、四つの制度のどれかから来ています

保健師の家庭訪問は、ひとまとまりの制度ではありません。根拠になる法律と、対象になる時期が違う四つの仕組みがあり、電話をかけてきた側は、そのどれかの業務として動いています。まず、その四つを条文で並べます。

訪問の種類(根拠)対象と、条文の書きぶり
新生児の訪問指導
母子保健法 第11条
対象=新生児(同法第6条第5項=出生後28日を経過しない乳児)。条文は「市町村長は……育児上必要があると認めるときは、医師、保健師、助産師又はその他の職員をして当該新生児の保護者を訪問させ、必要な指導を行わせるものとする」。第2項に「新生児でなくなつた後においても、継続することができる」とあります
未熟児の訪問指導
母子保健法 第19条
対象=未熟児(第6条第6項)。「市町村長は……養育上必要があると認めるときは……その未熟児の保護者を訪問させ、必要な指導を行わせるものとする」。第11条第2項の継続の規定が準用されます
乳児家庭全戸訪問事業
児童福祉法 第6条の3 第4項
対象=「原則として全ての乳児のいる家庭」。「子育てに関する情報の提供並びに乳児及びその保護者の心身の状況及び養育環境の把握を行うほか、養育についての相談に応じ、助言その他の援助を行う事業」。国の実施要綱では生後4か月を迎えるまでに1回が原則。東京23区では「こんにちは赤ちゃん訪問」「すくすく赤ちゃん訪問」「赤ちゃん訪問」などの名で案内されています
養育支援訪問事業
児童福祉法 第6条の3 第5項
対象=全戸訪問「その他により把握した」保護者の養育を支援することが特に必要と認められる児童(要支援児童)などとその保護者、および特定妊婦。「当該要支援児童等の居宅において、養育に関する相談、指導、助言その他必要な支援を行う事業」。国の実施要綱の対象の筆頭は「妊娠や子育てに不安を持ち、支援を希望する家庭」です

この四つのほかに、健診のあとのフォローとしての訪問があります。これは独立した条文を持つ事業ではなく、次の節で書くとおり、健診票の判定欄と市町村の「保健指導」(母子保健法 第10条)の中で行われるものです。健診で「様子を見に伺います」と言われた訪問は、多くの場合ここに入ります。

四つに共通していること

主語がすべて「市町村」または「市町村長」です。「保護者は訪問を受けなければならない」という形の条文は、母子保健法にも児童福祉法にもありません。訪問は、自治体の側の業務として書かれています。

※ 母子保健法 第17条の2に「産後ケア事業」があり、その第1項第3号に「居宅を訪問し、産後ケアを行う事業」が含まれます。ただし対象は「出産後一年を経過しない女子及び乳児」で、乳児の産後ケアの一環です。幼児期の健診後の訪問の根拠ではありません。

保健師とは、法律上どういう人か——名称と守秘義務

来る人が何者かを、法律の定義で確かめておきます。保健師は、保健師助産師看護師法という法律で定められた国家資格です。

保健師助産師看護師法 第2条

この法律において「保健師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、保健師の名称を用いて、保健指導に従事することを業とする者をいう。

同じ法律の第29条は「保健師でない者は、保健師又はこれに類似する名称を用いて、第二条に規定する業をしてはならない」と定め、第42条の3は「保健師でない者は、保健師又はこれに紛らわしい名称を使用してはならない」と定めています。「保健師です」と名乗って訪ねて来られること自体が、免許の裏づけがあることの表れです。

家で見聞きしたことは、外に漏らしてはならないと定められています

保健師助産師看護師法 第42条の2

保健師、看護師又は准看護師は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。保健師、看護師又は准看護師でなくなつた後においても、同様とする。

乳児家庭全戸訪問事業と養育支援訪問事業の国の実施要綱にも、同じ趣旨の文がそれぞれ置かれています。「本事業に従事する者は……正当な理由なく、その業務上知り得た家庭等の秘密を漏らしてはならない」。訪問者が保健師以外(要綱が挙げるのは助産師・看護師・保育士・母子保健推進員・民生委員・児童委員など)であっても、この要綱の守秘義務がかかります。要綱は、訪問者に対して「個人情報の適切な管理や守秘義務等についても研修を行うこと」を市町村に求めています。

訪問の元になる建物は「市町村保健センター」です

電話の発信元は、多くの場合「保健センター」「健康支援センター」「保健サービスセンター」といった名前の機関です。この建物は地域保健法 第18条に根拠があり、「住民に対し、健康相談、保健指導及び健康診査その他地域保健に関し必要な事業を行うことを目的とする施設」と定義されています。名前は自治体ごとに違いますが、法律上の位置づけは同じです。

健診のあとの訪問は、健診票の「もう一つの判定欄」から始まっています

1歳6か月児健診と3歳児健診の健康診査票の様式は、こども家庭庁の通知「乳幼児に対する健康診査について」(令和7年9月1日 第7次改正)に丸ごと載っています。そこには、発育・発達の判定欄(1 異常なし/2 既医療/3 要経過観察/4 要紹介)とは別に、こういう欄があります。

健康診査票の「子育て支援の必要性の判定」欄(原文)

1 特に問題なし 2 保健師による支援が必要 3 その他の支援が必要

「保健師が伺います」という言葉は、多くの場合、この「2 保健師による支援が必要」に印が付いたところから出てきます。お子さんの発達に「要経過観察」が付いたかどうかとは別の欄です。つまり、発達の判定は「異常なし」でも、たとえば「育てにくさを感じている」と問診票に答えた場合や、上のお子さんの事情、ご家族の体調などから、この欄に印が付くことがあります。訪問が来る=お子さんの発達に何かが見つかった、ではありません。

同じ通知の「乳児一般健康診査等受診票交付台帳」の様式には、「事後指導の状況」という列があります。健診のあとに何をしたかを台帳に残すことが、様式の側で想定されているということです。

訪問は、健診後の「カンファレンス」で決まります

こども家庭庁が掲載している市町村向けの実務書「乳幼児健康診査事業 実践ガイド」は、健診後に多職種で行うカンファレンス(健診後の検討会)の進め方を書いています。そこで、発達の遅れやアンバランスが疑われる子について、心理職による発達検査の導入のほか、「家庭訪問での親子の生活の把握、あるいは集団の場に導入して子どもの遊びと保護者の関わりを見ることも検討する」と書かれています。

また、カンファレンスの記録には、状況を確認する内容(疾病精査、発育・発達など)と、方法(受診勧奨、保健指導、栄養指導など)と、手段——「地域サービス提供、機関連携支援……家庭訪問、面接、集団指導」——を具体的に示す、とあります。家庭訪問は、面接や親子教室と並ぶ手段の一つとして選ばれています。窓口での面接ではなく家庭訪問が選ばれたのは、「親子の生活の把握」に向くからで、家庭に落ち度があるからではありません。

※ 健診の判定欄そのものの読み方(要経過観察・要紹介)や、親子教室の正体は、別の記事にまとめてあります。この記事は「訪問」に絞ります。

訪問で何を見るのか——要綱に書かれている中身

「何を見に来るのか」は、国の実施要綱に列挙されています。いちばん読まれるべき部分なので、原文のまま引きます。

乳児家庭全戸訪問事業実施要綱「3 事業の内容」(原文)

生後4ヶ月までの乳児のいるすべての家庭……を訪問し、以下の支援を行う。
(1)育児に関する不安や悩みの傾聴、相談
(2)子育て支援に関する情報提供
(3)乳児及びその保護者の心身の様子及び養育環境の把握
(4)支援が必要な家庭に対する提供サービスの検討、関係機関との連絡調整

四つのうち、家庭の側が「見られる」と感じるのは(3)でしょう。けれど、順番に注目してください。要綱の筆頭は「傾聴、相談」です。訪問の第一の中身は、聞くことです。

養育支援訪問事業のほうは、対象が絞られるぶん中身も具体的です。要綱は「出産後間もない時期(概ね1年程度)の養育者に対する育児不安の解消や養育技術の提供等のための相談・支援」などを挙げ、訪問支援者を二つに分けています。専門的相談支援=保健師・助産師・看護師・保育士・児童指導員等、育児・家事援助=子育て経験者・ヘルパー等。つまり、この事業の訪問には「家事を手伝う」形のものも含まれます。

実際の自治体は、当日やることをこう書いています

東京23区の公式ページから、生後4か月までの訪問の中身を三つ挙げます。いずれも公式ページに書かれている文をそのまま引きます。

自治体(事業名)公式ページに書かれている訪問の中身
新宿区
すくすく赤ちゃん訪問
訪問指導員(助産師・保健師等)が訪問。「お子さんの発育(身体測定)、健康状態等の確認をしながらお母さんの健康や子育ての相談」、区の子育て支援事業の案内。無料
文京区
こんにちは赤ちゃん訪問(新生児訪問)
「赤ちゃんの体重測定や育児の相談」「産後の体調についての相談」「子育て情報の提供」。事前準備=同封アンケート用紙の記入・母子健康手帳・バスタオル(体重測定時に使用)の三つ
北区
赤ちゃん訪問(新生児訪問)
「保健師や助産師がご自宅にうかがい、わからない事や心配な事にお答えします。赤ちゃんの体重測定や母乳相談もできます」。妊婦のための支援給付(2回目)の申請案内も

三つに共通しているのは、体重を測る・相談に答える・区の制度を案内するの三点です。「家の中を点検する」とは、どのページにも書かれていません。

健診後のフォロー訪問で見ているもの

幼児期の訪問については、先ほどの実践ガイドの言葉がそのまま答えです。「家庭訪問での親子の生活の把握」——健診会場の10分間では分からない、いつもの遊び方、ことばのやりとり、食事や睡眠のリズム、保護者が困っている場面を、生活の中で見せてもらう。それが訪問の中身です。健診票の問診にあった「育てにくさを感じていますか」という設問に、会場では言えなかった答えを話す場でもあります。

家の片づけは要りません——見られているのは「点数」ではないからです

いちばん多い不安に、正面から答えます。訪問のために家を片づける必要はありません。根拠を三つ書きます。

  1. 要綱が求めている「事前準備」に、部屋のことは入っていません。文京区の公式ページが挙げる事前準備は「アンケート用紙の記入・母子健康手帳・バスタオル」の三つだけです。国の要綱の「事業の内容」にも、住居の状態を点検する項目はありません。
  2. 要綱の言葉は「養育環境の把握」であって、「評価」でも「採点」でもありません。把握とは、支援を考えるために状況を知ることです。乳児家庭全戸訪問事業の要綱は、訪問の結果「支援が必要と判断された家庭に対し、必要に応じて……ケース対応会議を開催し……支援に適切に結びつける」と書いています。把握の目的は、次の支援を考えることです。
  3. 散らかっている家のほうが、話が早く進むことがあります。片づけて「困っていません」の形を整えるより、いつもの状態を見てもらったほうが、「夕方はこうなります」「この時間帯がいちばん大変です」という話がそのまま通ります。訪問の第一の中身は「傾聴、相談」でした。相談は、実物があるほうが具体的になります。
それでも気になるときの、現実的な線

ふだんどおりで足ります。強いて言えば、赤ちゃんを寝かせて体重を測れる平らな場所(床にバスタオルを敷くだけで足ります)と、大人が二人座って話せる場所があれば十分です。玄関先や、集合住宅の共用スペースで話をすることも、自治体によっては可能です。「家の中に上がらずに話せますか」と、日程調整の電話で聞いてかまいません。

※ 養育支援訪問事業の要綱には、対象の一つとして「食事、衣服、生活環境等について、不適切な養育状態にある家庭等」という文言があります。これは、その状態にある家庭に支援を届けるための対象の定めであって、訪問者が家を採点するという意味ではありません。同じ要綱は、対象の筆頭に「妊娠や子育てに不安を持ち、支援を希望する家庭」を置き、平成29年の改正で「支援を希望する家庭」を対象として明確化したと書いています。

当日の流れ——用意するもの、聞かれること、こちらから聞いてよいこと

訪問は、およそ次の順で進みます。国の要綱と自治体ページの記載を、時間の順に並べ直したものです。

  1. 日程調整の電話。乳児期の訪問では「出生通知票」(母子健康手帳に添付されている葉書)を出したあと、担当の保健センターから電話が来ます。文京区は「携帯電話からご連絡させていただく場合があります」と書いています。知らない番号からの着信は、これであることが多いです。
  2. 当日、玄関で名乗ります。保健師か助産師か、それ以外の訪問者か。名乗った職名は、そのまま聞き返してかまいません(「保健師さんですか」)。
  3. 母子健康手帳を見ながら、これまでの経過を確認します。健診の結果、予防接種、出生時の体重など。
  4. 乳児期なら体重測定(バスタオルの上で)。幼児期のフォロー訪問なら、遊んでいる様子や、ことばのやりとりを見せてもらいます。
  5. 相談。ここが本体です。問診票で答えた内容や、健診会場で言い切れなかったことを話します。
  6. 区の制度の案内。一時預かり、産後ケア、親子教室、発達相談の窓口など、その家庭に合いそうなものを紹介されます。
  7. 母子健康手帳への記載。母子保健法 第16条第2項は、乳児又は幼児の保健指導を受けたとき、保護者は「その都度、母子健康手帳に必要な事項の記載を受けなければならない」と定めています。訪問指導も保健指導ですから、手帳に何か書いてもらえるはずです。書いてもらえなかったら、「手帳に記載をお願いします」と言えます。

手元に置いておくもの

こちらから聞いてよいこと

訪問は、聞かれる場であると同時に、聞ける場です。次の五つは、その場で聞いておくと後がはっきりします。

訪問のあと、何が起きるのか——記録・会議・次の連絡

訪問が終わったあとの流れは、要綱と実践ガイドに書かれています。「あのあとどうなるのか」を、市町村の側の手順で追います。

訪問者は、結果を持ち帰って記録します

乳児家庭全戸訪問事業の要綱は、費用の算定を「家庭訪問件数を算定の基礎とする」と定めています。訪問1件ごとに記録が残るのは、この意味でも当然です。実践ガイドは、家庭訪問の結果を集計するときの区分を、こう例示しています。

実践ガイド 表4-4「家庭訪問」の区分(原文)

1.継続訪問した、2.1回で終了した、3.行ったが会えなかった、4.行かなかった

そして、「2.1回で終了した」について、「状況確認の結果、その後の支援は必要ないと判断していることが多い」と説明しています。つまり、1回来て、それきり連絡が来ないのは、「その後の支援は必要ない」と判断された結果であることが多いということです。放っておかれたのではありません。

支援が必要と判断されたら、「ケース対応会議」にかかります

乳児家庭全戸訪問事業実施要綱「4(4)ケース対応会議」(原文)

訪問実施後の結果により、支援が必要と判断された家庭に対し、必要に応じて、個別ケースごとに具体的なサービスの種類や内容等について、訪問者、市町村担当者、医療関係者等によるケース対応会議を開催し、その結果を踏まえ、養育支援訪問事業等による支援やその他の支援に適切に結びつけるものとする

ここで初めて、四つの制度の二つ目——養育支援訪問事業——につながる道が開きます。児童福祉法 第21条の10の2は、市町村が乳児家庭全戸訪問事業などにより要支援児童等を把握したときは「養育支援訪問事業の実施その他の必要な支援を行うものとする」と定めています。養育支援訪問事業の要綱では、支援の内容・方法・スケジュールを「中核機関」が立案し、訪問支援者がそれに基づいて訪問する、とあります。2回目以降の訪問には、計画があります。「次はいつ、何のために来るのか」を聞いてよい根拠がここにあります。

健診後のフォロー訪問では、「見通し」を持って続けます

実践ガイドは、個別支援を「電話や家庭訪問、来所面接など日常業務において、一定の方針のもとに仕掛ける相談」と定義しています。そして、仕掛ける時期については「長期的な視点で、対象者の状況から頃合いを図り、場合によってはしばらく状況確認のみを行って『寝かせる』時期があってもよい」とまで書いています。訪問のあと数か月、電話だけの時期があるのは、この「寝かせる」に当たることがあります。

訪問後に、こちらからできること

連絡が来ないままで気になるときは、保健センターに電話して「先日訪問していただいた者です。その後の予定を確認したいのですが」と言えば足ります。母子保健法 第9条の2は「市町村は……母子保健に関する相談に応じなければならない」と定めています。相談の電話は、いつでも制度の中に入っています。

断れるのか——条文の言葉で確かめます

「断れるか」に、断定で答えるのはやめておきます。代わりに、条文がどう書いているかを、主語と語尾に注目して並べます。読めば、答えは自ずと見えます。

条文主語と語尾
母子保健法 第11条(新生児の訪問指導)主語=市町村長。「育児上必要があると認めるときは……訪問させ、必要な指導を行わせるものとする」。保護者を主語にした義務の文はありません
母子保健法 第10条(保健指導)主語=市町村。「必要な保健指導を行い、又は……保健指導を受けることを勧奨しなければならない」。保護者に対しては「勧奨」=すすめる、という言葉です
児童福祉法 第21条の10の2主語=市町村。「乳児家庭全戸訪問事業、養育支援訪問事業……を行うよう努める」。市町村の努力義務として書かれています
乳児家庭全戸訪問事業実施要綱原則として全ての乳児のいる家庭」。「原則として」という留保が付いています。生後4か月を過ぎて「対象家庭の都合等により」訪問する場合も対象とする、と書かれ、家庭の都合が前提に織り込まれています
母子保健法 第4条第2項(保護者の努力)主語=保護者。「みずからすすんで……健康の保持及び増進に努めなければならない」。努力の規定です。母子保健法の本則(第1条〜第28条)に、訪問や健診を受けなかったことへの罰則の定めはありません

要するに、条文は「市町村はこうする」という形で書かれていて、「保護者はこうしなければならない」という形では書かれていません。

訪問する側の教科書には、「断られたとき」の書き方があります

実践ガイドは、支援を拒否する場合や同意が得られない場合について、こう書いています。

実践ガイド「支援を拒否する場合」(原文)

実際の支援場面では、支援の実現性を左右する様々な要因がある。保護者の意欲・関心、支援者との関係や来所の可能性、家庭訪問の同意が得られるか、家庭訪問は受け入れ難くても、Mother and Child Group (MCG)などの母子保健事業や子育て支援センターなどの他機関の事業なら参加できないか、さらには家族や近隣との関係など、様々な状況の違いによって、支援方法やタイミングを工夫する。

「家庭訪問の同意」という言葉が使われています。同意を前提にした業務です。そして「受け入れ難くても……他機関の事業なら」と、訪問以外の形が最初から選択肢に入っています。集計区分に「3.行ったが会えなかった」「4.行かなかった」があることも、同じことを示しています。

ここから言えること

「家には来ないでほしい」と伝えることは、条文にも実務書にも反しません。ただ、「来ないでほしい」と「つながらない」は別です。実践ガイドの考え方は「全ての親子に必要な支援が行き届くことを保障する」ですから、家庭訪問を断ると、代わりに窓口での面接や電話、親子教室などの別の形が提案されるのが通常の流れです。断るときは、代わりの形を一つ添えると、話が短く済みます。

※ 養育支援訪問事業には、対象として「保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」も含まれ、児童福祉法 第21条の10の2は児童相談所からの送致・通知を受けた場合の支援にも触れています。その場面は、この記事が扱う「健診のあとの訪問」とは別の手続です。この記事では扱いません。

都合が合わないとき・家に来てほしくないときの伝え方

日程調整の電話は、たいてい平日の日中にかかってきます。出られなかった、留守番電話に「保健センターの◯◯です」と入っていた——そこから先の言い方を、そのまま使える形で置いておきます。

日程を動かしたいとき

家に来てほしくないとき

里帰り中・転入したばかりのとき

北区は「里帰り先への赤ちゃん訪問をご希望される場合は、担当地区の健康支援センターまでお電話でお問い合わせください」と書いています。文京区は「転入等で『出生通知票』がない方、里帰り出産の方は、お問い合わせください」と書いています。里帰り先の自治体に訪問してもらう道があります。母子保健法 第19条の2は、市町村が他の市町村に対して健康診査等(第11条の訪問指導を含む)に関する情報の提供を求めることができると定めています。転居しても、経過は引き継がれる仕組みです。

今夜できること

留守番電話が残っているなら、翌日の午前中に折り返すのがいちばん短いです。母子健康手帳の表紙の裏に、担当の保健センターの電話番号を書いておくと、次からの連絡が楽になります。「何を見に来るのか」の答えは、この記事の第4節にあります——体重を測り、相談を聞き、制度を案内する。それだけです。

この記事で書かないこと——一次資料で確かめられなかったこと

推測で埋めないために、確かめられなかったことを書いておきます。

確かめられたのは、訪問の根拠が四つの制度にあること、条文の主語が市町村であること、訪問者に守秘義務があること、訪問の中身の筆頭が「傾聴、相談」であること、訪問する側の実務書に「同意」「受け入れ難くても」の言葉があることです。この五つで、身構える必要がないことは言えます。細部は、お住まいの保健センターに聞くのがいちばん近道です。

出典

※上記の出典は2026年9月7日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。

よくあるご質問

保健師の家庭訪問を受けるのは、法律上の義務ですか?
母子保健法と児童福祉法の関係する条文を読む限り、保護者を主語にして「訪問を受けなければならない」と定めた条はありません。第11条(新生児の訪問指導)の主語は市町村長で「訪問させ、必要な指導を行わせるものとする」、児童福祉法 第21条の10の2の主語は市町村で「行うよう努める」です。保護者については母子保健法 第4条第2項が「みずからすすんで……努めなければならない」という努力の規定を置いているだけで、罰則の定めもありません。断定ではなく条文の言葉としては、そう読めます。
健診のあと「保健師が伺います」と言われました。子どもの発達に何か見つかったということですか?
必ずしもそうではありません。1歳6か月児・3歳児の健康診査票には、発育・発達の判定欄(異常なし/既医療/要経過観察/要紹介)とは別に「子育て支援の必要性の判定」欄があり、その選択肢の一つが「2 保健師による支援が必要」です。発達の判定が「異常なし」でも、問診票の「育てにくさを感じていますか」への答えやご家庭の事情から、この欄に印が付くことがあります。どの欄からの訪問なのかは、電話で聞いてかまいません。
家を片づけておかないといけませんか?
要りません。文京区の公式ページが挙げる事前準備は「アンケート用紙の記入・母子健康手帳・バスタオル」の三つで、部屋のことは書かれていません。国の実施要綱の言葉も「養育環境の把握」であって採点ではなく、把握の目的は「支援が必要と判断された家庭」を次の支援に結びつけることです。ふだんどおりの状態のほうが、「この時間帯が大変です」という相談がそのまま通ります。
訪問で話したことは、どこまで伝わりますか?保育園に知られますか?
保健師には保健師助産師看護師法 第42条の2の守秘義務(退職後も同様)があり、乳児家庭全戸訪問事業・養育支援訪問事業の要綱にも「業務上知り得た家庭等の秘密を漏らしてはならない」と書かれています。保健センターから園へ自動的に伝わる仕組みはなく、伝えるとしたら保護者の同意が前提です。心配なら、当日「今日の内容はどこに記録として残りますか」「園には伝わりますか」と、その場で聞いてください。
1回来たきり、その後の連絡がありません。忘れられていますか?
実践ガイドは家庭訪問の結果を「継続訪問した/1回で終了した/行ったが会えなかった/行かなかった」に区分し、「1回で終了した」は「状況確認の結果、その後の支援は必要ないと判断していることが多い」と説明しています。放っておかれたのではなく、そう判断された結果であることが多いです。気になれば、母子保健法 第9条の2(市町村は相談に応じなければならない)を根拠に、こちらから保健センターへ電話してかまいません。
家には来てほしくないけれど、相談はしたい。どう言えばよいですか?
「自宅への訪問は難しいのですが、保健センターの窓口に伺うことはできます」と、代わりの形を一つ添えて伝えるのが短いです。実践ガイドには「家庭訪問の同意が得られるか、家庭訪問は受け入れ難くても……他機関の事業なら参加できないか」と書かれており、訪問以外の形は最初から選択肢に入っています。玄関先や近くの児童館で話す、という頼み方もあります。
平日の日中は仕事で無理です。夕方や土曜に来てもらえますか?
可能かどうかは自治体によって違い、この記事で引用した三つの区の公式ページには時間帯の記載がありませんでした。日程調整の電話で「夕方以降か土曜は可能でしょうか」と聞いてよいことです。難しい場合は、窓口での面接に切り替える、日程を翌月にずらす(全戸訪問の要綱は家庭の都合で生後4か月を過ぎても対象とする、と書いています)といった道があります。
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。

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