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歯みがきが苦手なとき——押さえずに進める順番と、歯科の探し方

最終更新:2026年9月7日
口を開けてくれない。歯ブラシを見ただけで顔をそむける。押さえて磨いた夜に、これでよかったのかと思う——そんな日にこのページを開かれたのだと思います。
この記事では、歯みがきが苦手になりやすいのはなぜかを場面の条件に分けて見たうえで、「押さえてでもやる」以外の進め方——段階の分け方、道具の変え方、姿勢と時間帯、記録の残し方——を順に書きます。あわせて、乳幼児健診で歯科がどう見られているかを、こども家庭庁が示す健康診査票と問診票の様式そのものから確かめます。歯科所見の欄には、健診本体とは別の判定欄があり、そこには「要指導」という区分が置かれています。最後に、障害のある子の歯科をどこで探すかを、東京都と東京23区の公式ページで確かめた範囲で示します。磨き方の医学的な正解や、治療が要るかどうかには踏み込みません。ここで扱うのは、受け入れやすくする工夫と、相談できる先の名前です。

歯みがきが苦手になりやすいのは、条件が重なっているからです

歯みがきは、子どもの一日の中でも条件がいくつも重なっている場面です。ひとつずつ切り分けてみると、「どこがいやなのか」が見えてくることがあります。

重なっている条件その場面で起きていること
口の中に入る人の手と道具が口の中に入る場面は、生活のほかの時間にほとんどありません。食事は自分で入れますが、歯みがきは他人が入れるという点で別の経験です
見えない自分の口の中は自分では見えません。何が当たっているのか、あとどこを触られるのかが、その場では分かりません
終わりが分からない「あと少し」「はい終わり」は大人の側の都合で決まります。子どもの側に、終わりを数える手がかりがありません
動きを止められる仰向けになる、膝の上で頭を固定される、顔を上に向けられる。自分で姿勢を変えられない状態が続きます
味とにおい歯みがき剤の香料、泡、発泡する感じ。飲み込めないものが口の中に広がる、という条件が加わります
音と振動ブラシが歯に当たる音は、口の中と骨を通って直接聞こえます。電動のものを使えば、そこに連続した音と振動が足されます
回数が多いほかの苦手な場面——注射、散髪、耳かき——と違って、歯みがきは1日に何度も来ます。そのぶん、いやだった記憶が積み上がる速さも違います
いちばん大きいのは、最後の一行かもしれません

予防接種は年に数回、散髪は月に一度です。歯みがきは毎日、日によっては一日に三度来ます。ひとつひとつは小さな抵抗でも、回数が多ければ、子どもの側にも保護者の側にも積み重なります。だから、一回あたりの負荷を下げることが、そのまま全体の負荷を下げることになります。

どの条件が中心にあるかは、子どもによって違います。音がいちばんきつい子もいれば、仰向けだけがどうしても無理という子もいます。ぜんぶを一度に変えようとせず、ひとつずつ外してみると、通る形が見つかることがあります。

※ 感覚の受け取り方の違いそのものについては、別記事「感覚過敏」で扱っています。

健診では、歯科は「別の欄」で見られています

健診に歯科が入っていることは、法令で決まっています

乳幼児健診に歯科が入っていることは、法令で決まっています。母子保健法 第12条が1歳6か月児健診と3歳児健診を市町村の義務として定め、その項目を母子保健法施行規則 第2条が列挙しています。

母子保健法施行規則 第2条(健康診査)

1歳6か月児健診(全11項目)の第五号=「歯及び口くうの疾病及び異常の有無」
3歳児健診(全13項目)の第七号=「歯及び口くうの疾病及び異常の有無」

どちらの健診でも、歯と口の中を見ることが条文に書かれた項目として置かれています。

健康診査票には、歯科だけの欄と、歯科だけの判定があります

こども家庭庁の通知「乳幼児に対する健康診査について」(改正後全文・令和7年9月1日 第7次改正)には、1歳6か月児健康診査票と3歳児健康診査票の様式が丸ごと載っています。そこを開くと、歯科所見が独立した欄になっていて、内科の診察所見とは別に診察日診査歯科医名を書く形になっていることが分かります。

そして重要なのは、歯科所見の判定が、健診本体の判定と違うということです。

どちらの判定か用紙に並んでいる選択肢
健診本体の判定1 異常なし / 2 既医療 / 3 要経過観察 / 4 要紹介(要精密・要治療)
+「紹介先」と「診査医名」の記入欄が続きます
歯科所見の判定1 問題なし / 2 要指導 / 3 要経過観察 / 4 要治療
+「診査歯科医名」の記入欄。1歳半・3歳児とも同じ4区分です
「要指導」という区分が、はじめから用意されています

歯科の判定には、治療でも経過観察でもない「要指導」という枠があります。つまり健診の様式の側に、「やり方を相談して終わりにする」ための区分が置かれている、ということです。むし歯があるかどうかとは別に、みがき方や生活のことで話をする道が、はじめから開いています。

歯科所見の欄に、何が書かれるのか

様式に並んでいる記入項目は、次のとおりです。当日に何を見られているのかが分かると、結果の紙も読みやすくなります。

歯科所見の記入項目用紙の書き方(様式のとおり)
むし歯乳歯の記号(E・D・C・B・A/A・B・C・D・E)が上下2段に並び、そこに記入する形です
罹患型1歳6か月児=O1・O2・A・B・C
3歳児=O・A・B・C1・C2
生歯「  本(未処置歯  本、処置歯  本)」——生えている本数と、その内訳を書きます
軟組織異常1歳6か月児=無・有
3歳児=無・有(小帯・歯肉・その他)
咬合異常1歳6か月児=無・有
3歳児=無・有(反対咬合・開咬(指しゃぶり 無・有)・その他)
清掃不良無・有
その他口腔所見の異常無・有
生活習慣等1歳6か月児=「間食の時間 決めている・決めていない」「母乳 飲んでいない・飲んでいる」
3歳児=「間食の時間 決めている・決めていない」

※ ここに挙げたのは、こども家庭庁の通知に載っている様式そのものです。実際にお住まいの市区町村が使う結果票の書き方や、伝え方の言葉づかいは自治体によって違います。

問診票は「毎日みがけているか」を、回数ではなく形で聞いています

同じ通知には、1歳6か月児健康診査問診票(全36問)3歳児健康診査問診票(全38問)の様式も載っています。その中に、歯みがきについての設問が一問ずつあります。

1歳半=問23/3歳児=問19(同じ文面です)

「保護者が、毎日、仕上げ磨きをしていますか。」

選択肢は次の四つです。

・仕上げ磨きをしている(こどもが磨いた後、保護者が仕上げ磨きをしている)
こどもが自分で磨かずに、保護者だけで磨いている
・こどもだけで磨いている
・こどもも保護者も磨いていない

ここを落ち着いて読むと、「こどもが自分で磨かずに、保護者だけで磨いている」が、はじめから選択肢として用意されていることが分かります。子どもが自分では歯ブラシを持たない状態は、様式の側でありうる形として想定されているということです。「自分で磨いてから、仕上げをする」形にたどり着いていなくても、書ける欄があります。

もうひとつ気づくのは、この設問が回数を聞いていないということです。「1日何回みがいていますか」ではなく、「毎日、どういう形でみがいているか」を聞いています。一日に三度できているかどうかを、健診の問診票は数えていません。

この二問は、国に報告される項目です

問診票の様式には、設問の頭に〇印が付いているものがあります。通知には、〇印の意味が「成育医療等基本方針に基づく評価指標等に係る問診項目(毎年の母子保健課調査にて国に報告)」と書かれています。仕上げ磨きの設問(1歳半 問23/3歳児 問19)には、この〇印が付いています。

3歳児健診には「かかりつけの歯科医師」の設問があります

3歳児健康診査問診票 問36・問37(どちらも〇印)

問36「お子さんのかかりつけの医師はいますか。」(はい・いいえ・何ともいえない)
問37「お子さんのかかりつけの歯科医師はいますか。」(はい・いいえ・何ともいえない)

1歳6か月児の問診票には「かかりつけの医師」の設問(問38)はありますが、「かかりつけの歯科医師」の設問は3歳児のほうにだけ置かれています。つまり、1歳半から3歳までの一年半の間に、どこか一か所、歯科とつながっておくことが、国の様式の側で見込まれている、と読めます。

逆に言えば、3歳児健診までに一度どこかにかかっておけば、この欄は「はい」になります。治療のためでなくてかまいません。次の節から先で書くとおり、見学だけ・座るだけの初回でも、かかった先は「かかりつけ」になります。

今日の目標を、いったん下げてみる

進め方に入る前に、決めておいたほうがよいことがあります。「今日どこまでやるか」を、先に下げておくということです。

「押さえてでもやる」を、今日の目標から外す

押さえれば、その日は磨けます。けれど歯みがきは1日に何度も来る場面です。一回を通したことで次の回が重くなると、翌日はもっと力が要ります。ここが、年に数回しか来ない場面といちばん違うところです。

押さえない、と決めたときに困るのは「では今日は何をするのか」です。そこで、目標を「みがくこと」から「秒数」や「段階」に置き換えます。3秒で終わりにする日があってよい、という決め方です。

1日1回にしぼる、という考え方

前の節で見たとおり、健診の問診票は回数を聞いていません。「毎日、どういう形でみがいているか」を聞いています。一日三回を三回とも嫌な時間にするより、一日一回を、いちばん条件のよい時間に置くという選び方があります。

回数を減らすことの是非は、歯科で相談してください

この記事では、1日に何回みがくのが望ましいかという医学的な判断には踏み込みません。回数を減らす形にするかどうかは、いま口の中がどういう状態かによって変わります。あとの節で挙げる区の歯科相談かかりつけの歯科で、「いま家ではここまでしかできていない」と伝えたうえで決めるのが確実です。ここで書けるのは、回数を分散させると一回あたりの負荷が下がる場合があるという、進め方の話までです。

終わりを、子どもの側から見える形にする

※ 絵や紙で見えるようにする方法は、別記事「視覚支援」でまとめて扱っています。

段階を分けて進める——見る/持つ/口に入れる/前歯だけ

「歯をみがく」はひとつの行動に見えますが、実際にはいくつもの動作が連なっています。連なりのどこで止まっているかを見つけて、そこだけを扱うと、進みやすくなります。

  1. 見る——歯ブラシを、洗面所ではなく子どもの見えるところに置いておきます。この段階では使いません。手に取ったら、それでその日は終わりでかまいません
  2. 持つ——子どもが自分で持ちます。振り回してもかまいません。口に入れるかどうかは、この段階では問いません
  3. 口の外にふれる——ほっぺた、くちびる、口の周り。歯ブラシの背(毛のついていない側)を先に当てると、当たり方が変わります
  4. 口に入れる——入れてすぐ出す。1秒でかまいません。「入って、出た」を、子どもの側で確かめられる形にします
  5. 前歯だけ——下の前歯の外側から始めることが多い形です。上唇の裏側はいちばん最後に回します
  6. 秒数を延ばす——3秒 → 5秒 → 10秒。数えながら行い、数え終わったら必ず終わりにします
  7. 範囲を広げる——前歯の外側 → 前歯の内側 → 奥歯。一度に一か所だけ足します
戻ってよい、と決めておく

この段階分けは、上から順に一段ずつ上がるためのものではありません。今日は上がれない日があるという前提で作ります。前の日に5秒できたからといって、今日も5秒とは限りません。「今日は3秒に戻す」と決められるほうが、翌日につながります。

ひとつの段階に数週間かかることもあります。それは止まっているのではなく、その段階を通っている途中です。

仕上げは、保護者だけで磨く形でもかまいません

ここで、前の節の問診票の選択肢がもう一度効いてきます。「こどもが自分で磨かずに、保護者だけで磨いている」は、健診の様式に用意された形です。子どもが自分で持つ段階に届いていなくても、保護者が口の中にふれられるところまで進んでいれば、書ける形になっています。

※ 小さな段階に分けて、近づいた分をそのつど認めていく進め方については、別記事「シェイピング」で扱っています。

道具を変えるだけで、通ることがあります

やり方を変えても動かないときは、道具のほうを変えてみるという手があります。苦手の中心が道具の側にあるなら、変えたとたんに通ることがあります。

変えられるところ変えると何が変わるか
ヘッドの大きさ小さいほど口の中で占める面積が減り、当たる範囲が狭くなります。「口いっぱいに何かが入る」感じが苦手なときに、いちばん先に試せるところです
毛のかたさやわらかいものは当たり方が変わります。ただし、かたさの選び方には汚れの落ち方という別の面もあります。歯科でご相談ください
柄の形太い柄・すべり止めのあるものは、子どもが自分で持つ段階で持ちやすくなります。指にはめる形のものは、保護者が距離を近くとれます
電動かどうか連続した音と振動が加わります。音が苦手なら手用に戻すのが早い解決です。逆に、振動があるほうが受け入れやすい子もいます。どちらに転ぶかは試してみないと分かりません
歯みがき剤味・におい・泡が引き金になっているなら、味のないもの、あるいはつけないという選び方があります。何をどう使うかは歯科医師・歯科衛生士に相談してください
歯ブラシ以外から入るガーゼやシートで拭くところから始める形もあります。「口の中に何かが入る」ことに慣れる段階を、歯ブラシを使わずに通す進め方です
この節で扱っているのは「受け入れやすさ」だけです

どの道具が歯の健康にとって望ましいか、どの成分をどう使うか——これは歯科医師・歯科衛生士が、その子の口の中を見て決めることです。この記事では判断できませんし、判断しません。

ここに並べたのは、「どこを変えると場面の条件が変わるか」だけです。実際に何を使うかは、「家ではこれなら口に入れられました」という情報を持って、歯科で決めていただくのがいちばん確実です。

道具を変えるときは、一度にひとつだけにしてください。同じ日にヘッドの大きさと歯みがき剤を両方変えると、うまくいっても、うまくいかなくても、どちらが効いたのか分からなくなります。

姿勢と場所と時間帯を、動かしてみる

仰向けは、口の中がよく見える姿勢です。ただし子どもの側から見ると、自分で姿勢を変えられない状態でもあります。苦手の中心がそこにあるなら、見えやすさをいったん手放してみる価値があります。

「どの姿勢なら磨きやすいか」は、歯科で見てもらえます

このあとの節で挙げる区の窓口には、歯みがきのやり方そのものを相談できる枠があります。たとえば練馬区の公式ページは、心身障害者(児)歯科相談の内容として「歯磨きの指導や食事療法の相談など」を挙げ、「歯の病気の予防を図っています」と書いています。つまり治療ではなく、やり方の相談で行ってよい窓口が、公的に置かれているということです。

※ 各区の実施日・対象・予約方法は変わることがあります。行かれる前に、その区の公式ページか電話でご確認ください。

うまくいった日を、3行だけ残しておく

毎日のことなので、うまくいった日は流れていきます。けれど、あとで使う場面が確実にあります。3行でかまいません。

できなかった日は書かない、と決めてよい

記録は、続けるためのものです。毎日書く決まりにすると、書けない日が増えたところで止まります。できた日だけ書くと決めておけば、たまってきた紙がそのまま「できたことの一覧」になります。

この3行が、あとで使えるところ

使う場面そこで何の役に立つか
健診の問診票「保護者が、毎日、仕上げ磨きをしていますか」の四つの選択肢のうち、どれに丸をつけるか迷わずに済みます。当日の記憶ではなく、書いてあるもので選べます
歯科の初診「口の中を触られるのが苦手です」だけよりも、「前歯を5秒までなら、立ったままでできます」のほうが、受ける側にとって扱いやすい情報になります
区の歯科相談短い時間の相談で、いまどこまで進んでいるかを最初の一分で渡せます
次の一手を決めるとき「立ったままの日はできている」「電動にした日は止まっている」——どの条件が効いているかは、並べてみないと見えません
母子健康手帳の余白でかまいません

母子保健法 第16条第2項は、乳幼児が健康診査や保健指導を受けたときに、保護者が母子健康手帳に必要な事項の記載を受けなければならないと定めています。手帳は、健診と相談の記録が一か所に集まる場所です。歯みがきの3行も、そこに書いておけば、健診の日にも歯科の初診にも、持って行くものを増やさずに渡せます。

歯科にかかりにくい人がいることは、法律の側で前提になっています

「うちの子は歯科に連れて行けない」と感じているとき、それが個別の困りごととして扱われているのか、それとも制度の側で見込まれていることなのかは、知っておいて損のない違いです。

歯科口腔保健の推進に関する法律 第9条(障害者等が定期的に歯科検診を受けること等のための施策等)

国及び地方公共団体は、障害者、介護を必要とする高齢者その他の者であって定期的に歯科検診を受けること等又は歯科医療を受けることが困難なものが、定期的に歯科検診を受けること等又は歯科医療を受けることができるようにするため、必要な施策を講ずるものとする

この法律(平成23年法律第95号)は、第8条で「国民が定期的に歯科検診を受けること等」の勧奨を定めたうえで、その次の第9条を、受けることが困難な人のためだけに使っています。つまり、受けにくい人がいることは、条文の構成の中で織り込み済みだということです。

同じ法律の第2条第2号は、施策の基本理念として「乳幼児期から高齢期までのそれぞれの時期における口腔とその機能の状態及び歯科疾患の特性に応じて、適切かつ効果的に歯科口腔保健を推進すること」を挙げています。乳幼児期は、はじめに名前の挙がっている時期です。

国の計画にも、独立した節があります

厚生労働省は、令和5年10月5日付けの通知(医政発1005第2号)で「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」の全部改正を告示しました(令和5年厚生労働省告示第289号)。その本文には、「第4節 定期的に歯科検診又は歯科医療を受けることが困難な者に対する歯科口腔保健」という独立した節が置かれ、障害者・障害児が最初に名指しされています。

同じ文書には、都道府県の取組状況を測る参考指標も並んでいます。そこに書かれている数字は、まだ全国に行き渡っていないことを率直に示しています。

参考指標現状値(令和4年度)と目標値
障害者・障害児に関する歯科口腔保健事業を実施している都道府県数現状値 33都道府県 → 目標値 47都道府県
在宅等で生活等する障害者・障害児に関する歯科口腔保健事業を実施している都道府県数現状値 16都道府県 → 目標値 47都道府県
3歳児で4本以上のう蝕のある歯を有する者の割合この指標は「歯・口腔に関する健康格差の縮小」の指標として設定されています
=乳幼児期の状況が、格差を映す指標として位置づけられているということです

民間の歯科医院にも、配慮を求めてよいことになっています

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 第8条第2項は、事業者について次のように定めています。街の歯科医院も、ここでいう事業者です。

障害者差別解消法 第8条第2項(事業者における障害を理由とする差別の禁止)

事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない

読むときに大事なのは、「意思の表明があった場合において」という一句です。こちらから言うことが出発点だと、条文が書いています。次の節で、電話で何を言えばよいかを具体的に並べます。

手帳の有無で決まるわけではありません

同じ法律の第2条第1号は「障害者」を、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害……がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と定義しています。条文に手帳を持っていることという条件は書かれていません

ただし、区が行う障害者歯科診療の対象要件は、区ごとに別に決められています。そちらは次の節のとおり、手帳を挙げている区もあれば、手帳以外の条件を並べている区もあります。

歯科をどう探すか——東京都と、東京23区の公的な窓口

「障害のある子を診てくれる歯科」は、探し方が分からないだけで、公的な窓口がすでに置かれています。東京都と、23区のうち実際に確かめた4区を挙げます。

東京都——都立の施設と、地域への橋渡し

東京都保健医療局の公式ページには、東京都立心身障害者口腔保健センターについて、次のように書かれています。

向かう先は、都立の施設だけではありません

都のページの書き方で目を引くのは、「身近な地域で健診や治療を受けられるよう」という一句です。都立の施設に集めることではなく、近所の歯科でかかれるようにすることが目標として書かれています。そのために研修と、医療連携室による橋渡しが置かれています。

ですから、はじめの一歩はお住まいの区の窓口でかまいません。そこで手に負えないと判断されたときに、上の段の施設に渡す道が用意されています。

東京23区——公式ページで確かめた4区

同じ「障害者歯科」でも、治療の枠を持つ区と、相談の枠を持つ区があります。歯みがきのやり方だけを聞きたいのであれば、後者を先に当たるほうが早いことがあります。

その区の公式ページに書かれていること
新宿区心身障害者(児)歯科診療=対象は「区内在住の障害者(児)で、一般の歯科医療機関で治療を受けることが困難な方」。診療日は毎週火・金曜日(祝日等・年末年始を除く)の午前9:30〜12:00/午後1:00〜4:00で要予約。診療内容は「一般診療及び全身麻酔、鎮静法診療」。費用は健康保険適用の自己負担(場合によっては保険外診療あり)で、心身障害者医療費助成制度(マル障)の受給者証その他の公費負担も適用されます。
診療場所は区外(豊島区内)の療育相談センターです。区のページに住所と電話が載っています
新宿区(乳幼児向けの相談枠)障害者歯科とは別に、子ども向けの歯科相談が置かれています。はじめて歯科相談(区内在住の1歳児・予約不要・無料)、にこにこ歯科相談(区内在住の2歳児・予約不要・無料)、もぐもぐごっくん歯科相談(口の機能の発育と、食事の食べ方や水分の飲み方等に関する相談・予約制・無料)。内容には「むし歯予防や歯みがき方法の相談」が明記されています
文京区障害者歯科診療=場所は保健サービスセンター歯科室(文京シビックセンター3階)、毎週土曜日 午後1時15分〜4時45分の予約制。対象は「区内在住で身体障害者手帳又は愛の手帳をお持ちの方・特別支援学級等に通学している方・保育園等で特別な配慮を必要としている方など」。費用は加入健康保険などに準じて算定され、初回のみ健診は無料と書かれています
世田谷区世田谷区口腔衛生センター(世田谷区松原6-4-1)。診療時間は月曜日〜金曜日の午前9時〜正午、午後1時〜午後4時(特定の曜日・祝日を除く)で、診療の日時はすべて予約制。「初診の方は事前に世田谷区口腔衛生センターへお電話ください」と書かれています
練馬区心身障害者(児)歯科相談=「心身に障害のある方を対象に、歯磨きの指導や食事療法の相談などを行い、歯の病気の予防を図っています」。相談日は土曜日 午後1時〜4時30分で、事前に電話予約(火曜日〜土曜日に受付)。場所は区役所東庁舎3階の休日急患診療所です
読み比べて分かること

四つの区を並べると、入口の性格が違うことが見えてきます。

治療の枠(新宿区・世田谷区)——一般の歯科では難しい治療を引き受ける場所です
相談の枠(練馬区)——歯みがきの指導と食事の相談が、明文で挙がっています
健診から入れる枠(文京区・新宿区の子ども向け相談)——初回が無料、あるいは予約不要で入れます

そして文京区の対象要件には、「保育園等で特別な配慮を必要としている方など」という一行があります。手帳がなくても対象になりうる書き方をしている区がある、ということです。お住まいの区がどう書いているかは、区の公式ページで確かめてください。

※ ここに挙げたのは2026年9月7日時点で各区の公式ページに載っていた内容です。実施日・対象・費用は変わることがあります。また、23区のうち4区しか確かめていません。ほかの区にも同じような窓口が置かれていることがありますので、「(区名) 障害者 歯科」で区の公式ページをお探しください。

予約の電話で伝えておけること/初回は見学だけでかまいません

差別解消法 第8条第2項が「意思の表明があった場合において」と書いている以上、最初に言うのはこちらからです。当日に説明するより、予約の電話の段階で伝えておくほうが、受ける側の時間の取り方が変わります。

電話で言えること

初回は「見学だけ」でかまいません

初回に治療をしなければならない決まりはありません。建物に入る、待合に座る、診察室をのぞく、椅子に座ってみる——そこまでで帰る日を、はじめから予定として組めます。

そして前の節で見たとおり、それでも「かかりつけの歯科医師」はできます。3歳児健診の問診票 問37「お子さんのかかりつけの歯科医師はいますか」は、治療を終えたかどうかを聞いていません。

入口として使いやすい枠を、順に当たる

  1. 区の子ども向け歯科相談——新宿区の1歳児・2歳児向けの相談は予約不要・無料です。同じような枠がお住まいの区にあるかを、区の公式ページで探します
  2. 区の障害者歯科/歯科相談——練馬区のように歯みがき指導そのものを相談内容に挙げている区があります。対象要件(手帳の有無など)は区で違うので、電話で確かめます
  3. 健診の場で聞く——1歳6か月児健診・3歳児健診には、歯科所見を書く歯科医師がその場にいます。そこで「家では口を開けてくれない」と伝えると、その区の窓口を教えてもらえます
  4. 近所の歯科——都のページが「身近な地域で健診や治療を受けられるよう」研修を行っていると書いているとおり、対応できる歯科医院を増やす方向で動いています。電話で上の項目を伝えたうえで、受けられるかを確かめます
  5. 断られたら、区の窓口に戻る——都のページには、都立の施設に医療連携室が置かれ、患者と地域の歯科医療機関との橋渡しを行うと書かれています。一軒で決めずに、区の保健センターや歯科相談の窓口に相談し直せます

ここまでの道すじは、今日の夜にできること今週できることに分かれます。今夜できるのは、歯ブラシを見えるところに置くことと、記録の1行目を書くことです。今週できるのは、お住まいの区の公式ページで「障害者 歯科」「子ども 歯科相談」を探して、電話番号を一つ控えておくことです。

※ この記事では、みがき方の医学的な正解、歯みがき剤の成分の可否、治療が必要かどうかについては扱っていません。いずれも、その子の口の中を見た歯科医師・歯科衛生士が判断することです。ここで書いたのは、受け入れやすくするための場面の作り方と、相談できる窓口の名前までです。

出典

※上記の出典は2026年9月7日に閲覧して内容を確認しました。各団体の記載は更新される場合があります。最新の情報は各サイトでご確認ください。

よくあるご質問

押さえてでも磨いたほうがいいのでしょうか。
歯みがきは1日に何度も来る場面です。そこがほかの苦手な場面といちばん違うところで、一回を力で通したことが、次の回の重さになって返ってくることがあります。この記事では「押さえない」と決めたうえで、目標を秒数や段階に置き換える進め方を書きました。ただし、いまの口の中の状態によって、どこまで待てるかは変わります。そこは判断できませんので、区の歯科相談やかかりつけの歯科で、「家ではここまでしかできていません」と伝えたうえで決めていただくのが確実です。
1日1回でも足りますか。
回数の医学的な目安については、この記事では扱いません。その子の口の中を見た歯科医師・歯科衛生士が判断することです。ただ、事実として書けることが一つあります。こども家庭庁が示す健康診査問診票(1歳半 問23/3歳児 問19)は、「保護者が、毎日、仕上げ磨きをしていますか」という聞き方で、回数を尋ねていません。選択肢も、みがいている「形」を四つに分けたものです。健診の問診票が数えているのは回数ではない、というところまでは確かめられます。
歯みがき剤は使ったほうがいいですか。フッ素はどうですか。
使うかどうか、何を使うかは、歯科医師・歯科衛生士が口の中を見て決めることです。この記事では判断できません。書けるのは、受け入れやすさの話までです。味・におい・泡が引き金になっている場合には、味のないものにする、あるいはいったんつけずにみがくという選び方が場面としてはありえます。そのうえで「家では味があると口を開けませんでした」と歯科に伝えれば、そこから先は専門職が決められます。
手帳がないと、区の障害者歯科は使えませんか。
区によって違います。文京区の公式ページは対象を「区内在住で身体障害者手帳又は愛の手帳をお持ちの方・特別支援学級等に通学している方・保育園等で特別な配慮を必要としている方など」と書いており、手帳以外の入り方が明記されています。一方、新宿区は「一般の歯科医療機関で治療を受けることが困難な方」という書き方です。なお、障害者差別解消法 第2条第1号の「障害者」の定義そのものには、手帳の所持は書かれていません。対象になるかどうかは、お住まいの区の公式ページと電話でご確認ください。
健診の紙に「要指導」と書かれていました。治療が必要ということですか。
健康診査票の歯科所見の判定欄は「1 問題なし/2 要指導/3 要経過観察/4 要治療」の4区分で、「要指導」と「要治療」は別の欄です。また、この歯科の判定は、健診本体の判定(1 異常なし/2 既医療/3 要経過観察/4 要紹介)とも別に置かれています。何を指しているのかは、書いた歯科医師にしか分かりません。健診の場で聞けなかったときは、通知に載っている問い合わせ先か、区の保健センターに聞き直せます。
電動歯ブラシにすれば早く終わりますか。
早く終わる子もいれば、逆にまったく受け付けなくなる子もいます。電動にすると、手用のときにはなかった連続した音と振動が場面に足されるからです。苦手の中心が音のほうにあるなら、手用に戻すほうが早い解決になります。逆に、振動があるほうが口の中の感じが分かりやすく、受け入れやすい子もいます。どちらに転ぶかは試してみないと分かりませんので、変えるときは一度にひとつだけにして、その日どうだったかを1行残しておいてください。
初回は見学だけ、というお願いをしてもいいのでしょうか。
予約の電話で先に伝えておけます。障害者差別解消法 第8条第2項は、事業者について「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは……必要かつ合理的な配慮をしなければならない」と定めています。「意思の表明があった場合において」と書かれているとおり、こちらから言うことが出発点です。また、3歳児健診の問診票が聞いている「かかりつけの歯科医師はいますか」は、治療を終えたかどうかを尋ねてはいません。座って帰った日でも、かかった先はできます。
予約の電話で、何と言えばいいでしょうか。
長く説明する必要はありません。「口の中を触られるのが苦手です」「仰向けが苦手です」「待つのが苦手です」「今日は座るところまでで終わりにしたいです」——この四つのうち当てはまるものを言えば足ります。そこに「家では前歯を5秒までならできます」のような一行を足せると、受ける側にとって扱いやすい情報になります。この一行のために、うまくいった日を3行だけ残しておくことをおすすめしています。
この記事について:本記事は、子育て・発達に関する一般的な情報の提供を目的としています。内容は学会・職能団体・国の機関が公開している情報にもとづいてまとめていますが、お子さまの発達には個人差があり、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。診断や治療に関する判断は、医師などの専門機関にご相談ください。

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のびのび発達ラボを運営する児童発達支援てらぴぁぽけっと早稲田教室(東京都新宿区・早稲田駅徒歩1分)には、言語聴覚士・公認心理師・精神保健福祉士・保育士など多職種の専門スタッフが在籍しています。見学・ご相談は、診断の有無に関わらず承ります。